第三話「灰色の結婚式」2
第二章 断罪者たちの影
「死ね! 禁忌の子よ!」
炎のカーテンを突き破り、無数の影が殺到した。 右方からは、白銀の甲冑を纏い、背中に模造品の翼を生やした天使の騎士たち。 左方からは、漆黒の鱗に覆われ、ねじれた角を持つ悪魔の兵士たち。
彼らは、かつて天羽祈の両親――シエルとカーミラを処刑した者たちの記憶であり、同時に祈自身が長年育て上げてきた「自分を責める声」の具現化だ。
光の槍が雨のように降り注ぎ、闇の爪が空間ごと引き裂こうと迫る。 逃げ場のない、全方位からの断罪。 狙いは私たちではない。 祭壇の下で泣き叫ぶ、無力な赤ん坊――祈の精神核だ。
「させるかッ!!」
融合人格『クリス』が、爆発的な加速で跳躍した。 重力を無視したような軽やかさで空中できりもみ回転し、光と闇の攻撃を同時に弾き返す。
右手に握ったククリナイフが、天使の鎧をバターのように切り裂く。左手から放ったマイクロフィラメント・ワイヤーが、悪魔の足を絡め取り、遠心力で壁に叩きつける。
「お姉様! 右翼、敵性反応多数! 展開します!」
「排除します! お姉様の視界にゴミが入らないように、徹底的に!」
クリスの脳内で、亜莉愛と華琉愛の声が響く。一人の肉体の中に混在する三つの魂。 通常なら精神崩壊を起こしかねない状態だが、彼女たちはそれを完璧なコンビネーションへと昇華させていた。 アリアの空間把握能力が死角を消し、カルアの闘争本能が反応速度を極限まで引き上げる。 そして、それらを統率するのが、白雪美流愛の冷徹な戦術眼。
「雑音がうるさいのよ!」
クリス――美流愛の人格が叫ぶ。 彼女の怒りは、目の前の影たちだけでなく、かつて祈を傷つけたすべての「言葉」、すべての「理不尽」に向けられていた。
「あの子が何をしたっていうの!? ただ、生まれてきただけじゃない!」
『それが罪だ』
『血が汚れている』
『存在するだけで、世界を乱すバグだ』
影たちが、壊れたレコードのように繰り返す。 その声は物理的な振動を伴わず、直接脳髄に響く不快なノイズとなってクリスを襲う。
『お前も同じだ』
『作られた命』
『誰かの代用品』
影たちの言葉が、クリスの心の隙間に入り込む。精神攻撃。 「自分は不要な存在だ」という自己否定の波動が、クリスの精神を強制解除させようと揺さぶりをかける。美流愛、アリア、カルア。 彼女たちもまた、組織によって作られた「検体番号」であり、誰かの都合で生み出された命だ。 祈の抱えるトラウマは、彼女たち自身の古傷でもあった。
「くっ……! 頭が……!」
クリスの動きが鈍る。ワイヤーのキレが悪くなり、ナイフの軌道がぶれる。天使の槍が、ドレスの袖を掠め、赤い線を描く。
「お姉様! 同期率が乱れています!」
「耳を貸さないでください! あんなの、ただのノイズです!」
双子の人格が悲鳴を上げる。だが、否定すればするほど、「自分たちは偽物だ」という事実が重くのしかかる。
「……惑わされるな」
その時、冷徹な声が響いた。 轟音と熱波を切り裂いて現れたのは、白衣を焦がした鉄鏡花だった。
彼女は、背中のバックパックから四本のサブアームを展開していた。固有能力『機械仕掛けの神』――精神世界バージョン。 現実世界よりもさらに巨大で、複雑な構造をした鋼鉄の腕が、阿修羅のように蠢く。
「非論理的だ」
鏡花は、無表情のまま言い放った。 右上のアームがガトリングガンを掃射し、天使の群れを粉砕する。 左下のアームが電磁シールドを展開し、悪魔の爪を防ぐ。
「出生に罪などない。……あるのは、ただの因果と確率だ」
彼女は、襲い来る悪魔の顔面を、自身の右腕――パイルバンカーで粉砕した。
ドゴォォォン!! 黒い霧となって消滅する影。
「私は、自分の体を捨てた。自分の脳をいじくり回し、感情を切り捨てた。……だが、それを罪だとは思わない。これは私が選んだ『形』だ」
鏡花の義眼が、赤く輝く。 彼女は、祈のトラウマという「エラー」を、論理のメスで解体していく。
「祈の両親は、愛し合って死んだ。……それは悲劇だが、罪ではない。その結果生まれた命を否定するなど、生命の定義に対する冒涜だ!」
鏡花が、全方位にレーザーを掃射する。論理の光が、感情的な呪いを物理的に焼き払う。 影たちが怯む。 「罪」という文字が、鏡花の断定によって書き換えられていく。
その背中を見て、クリスの中の霧が晴れた。
「……そうね。アンタの言う通りだわ、鏡花」
クリスが顔を上げる。 そのオッドアイから、迷いの色が消えていた。 右目の金と、左目の赤が、鮮烈に輝く。
私たちは、作られた。 愛されるためではなく、殺すために。 けれど、私たちは今、ここにいる。 自分の意志で、大切な人を守るために戦っている。 その事実は、誰にも否定させない。
「罪なんかじゃない。……これは『愛』の証よ!」
クリスが、改造ペンライトを最大出力にする。 光刃が巨大化し、天井に届くほどの光の柱となる。
「シスターズ! 行くわよ!」
「「はい!お姉様!!」」
クリスが舞う。『真愛幻影』――乱れ咲き。 空間が歪み、数百人のクリスの幻影が出現した。 彼女たちは全員、祈を守る盾となり、敵を切り裂く剣となる。
「道は開いた! ……行きなさい、クリス!」
鏡花がサブアームで瓦礫を支え、祭壇へのルートを確保する。
「ええ! ……フィナーレよ!」
クリスは、影の群れを突破し、燃え盛る祭壇へと疾走する。その背中には、もはや迷いも、劣等感もなかった。 ただ、一人の少女を救い出すという、純粋な願いだけが輝いていた。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




