第二十話「崩壊と再生のワルツ」3
第三章 リ・ワールド(世界再構築)
「……おのれぇぇぇッ!!」
魔王アヴァベルの絶叫が、崩れゆく玉座の間に木霊した。 それは、敗北を認められない女王の癇癪であり、世界の理に対する拒絶の叫びだった。 このままでは消される。 銀色の光に浸食され、私という存在が、私の築いた王国が、跡形もなく消滅してしまう。
「プライドも、美学も……知ったことじゃないわ!」
彼女は、自らの命の一部を代償に、禁断の門を開いた。空間を引き裂き、魔界の深淵と直結させる。
「来なさい! 兄弟たちよ!」
強欲、嫉妬、憤怒、色欲、怠惰、暴食。 魔界に残る6人の魔王たちの力を、強制的に召喚し、我が身に取り込む。 拒絶反応で肉体が膨張し、皮膚が裂け、内側から異形の怪物が溢れ出す。美しい吸血鬼の姿は消え失せた。そこにあるのは、欲望と執着が凝縮された、巨大な闇の太陽。
「私は王だ! ……私を否定する世界など、飲み込んでやる!!」
アヴァベルが咆哮する。七つの大罪を統合したブラックホールが、周囲の光、瓦礫、そして大気さえも貪り食っていく。
対する美咲は、無表情に手を掲げた。響の死によって、彼女の中の「人間」としての心は、完全にシャットダウンしていた。 残ったのは、エラーを起こした世界を初期化し、更地に戻すというプログラムだけ。 悲しみも、痛みも、愛もない、無垢なる白の世界へ。
「対象、脅威判定レベルMAX。……浄化を開始します」
銀色の光が収束する。 それは、慈愛の輝きではない。存在の定義を書き換え、ゼロへと還す、救済という名の消滅。
ズゴオォォォォォン!!
「支配」の闇と、「浄化」の光が衝突した。音が消えた。二つの力が臨界点を超え、次元の壁が崩壊する。 城が消え、空が割れ、大地がデータのように分解されていく。 視界の端から、色が剥落し、白いキャンバスへと戻っていく。
世界そのものが、二つの巨大すぎるエゴに耐えきれず、崩壊を始めたのだ。
「……終わりだ」
鉄鏡花が、膝をついて呟く。彼女の義眼が、未来演算の結果を弾き出した。 生存確率、ゼロ。 このままでは、全てが消える。 久遠灯も、辰巳響も、思い出も、不味いコーヒーの味も。 善も悪も、等しく無に帰す。
「……ふざけんな」
瓦礫の中で、灯が立ち上がった。 血まみれの身体を、弾切れのM500を杖にして支える。 右腕は砕け、左腕も感覚がない。 肉体は限界を超えている。 だが、その魂だけが、消えゆく世界の中で燃え盛っていた。
「こんな結末は……認めねえ!」
灯は叫んだ。 喉が裂け、血が舞う。その声は、光と闇の轟音を超えて、全員の心に響いた。
「やり直すんだ! ……誰も死なない、誰も消えない……くだらなくて、退屈で、最高な世界を!」
灯の意志に、仲間たちが呼応する。
「……そうです! 諦めません!」 天羽祈が、杖を掲げる。
「私のステージを、こんな幕切れで終わらせてたまるもんですか!」 白雪美流愛が、双子と共に立ち上がる。
「再計算。……不確定要素『意志の力』を代入。……生存ルート、検索!」 鏡花が顔を上げる。
王 麗琳が、李 小蓮が、エミルが、ルシウスが。 全員が、灯の背中を見つめ、祈るように、叫ぶように力を込める。
そして。 冷たい床の上で、倒れていた響の指が、ピクリと動いた。
(……灯が、呼んでる)
死の淵。 暗い水底から、灯の叫びが響を引き戻した。まだだ。 まだ、約束を果たしていない。美咲にタピオカを奢っていない。 灯と、また馬鹿笑いをしていない。
「……おうよ!」
響が、目を開けた。 その瞳に、最後の雷光が宿る。
全員の魂が、一つのベクトルに向かって収束する。それは祈りでも、呪いでもない。 ただ、「生きたい」「一緒にいたい」という、強烈で、我儘なエゴ。
灯は、M500を投げ捨てた。素手で、光と闇の嵐に立ち向かう。
「ミサイア! 聞こえるか美咲! ……私たちは、まだ遊び足りねえんだよ!!」
灯が、光の渦の中心へ飛び込んだ。 焼けるような浄化の光。だが、灯は止まらない。 全員の意志が、ミサイアの銀色の光に干渉し、その性質を書き換えていく。
「削除」ではなく、「再生」へ。 「無」ではなく、「有」へ。 「終わり」ではなく、「続き」へ。
ホワイトアウト。 世界が白く染まる。 その中で、灯は笑った気がした。
そして、光の中で美咲が――元の眼鏡をかけた、泣き虫で優しい少女が、泣きながら微笑んでいるのが見えた。
『……うん。私も……もっと遊びたかった』
灯は、手を伸ばした。 その手は、美咲の手をしっかりと掴んだ。
「……あばよ、地獄。……ようこそ、新しい日常の世界」
世界再構築、発動。
意識が溶けていく。 痛みも、悲しみも、そして記憶さえも、光の中に分解されていく。だが、恐怖はなかった。 根拠はない。けれど確信があった。 目が覚めれば、またあの騒がしい朝が待っていると。
物語は、新たなページへと書き換えられていく。 誰も知らない、新しい世界へと。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




