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リコリス・アナザー・ヴァース  作者: ネオもろこし
最終舞踊(ラストワルツ)編

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第十九話「傲慢なる女王の庭」3

第三章 老兵の矜持


「……しつこいな、雑魚どもが」


 チャーリー・Sが、サングラスをかなぐり捨てて毒づいた。 彼の視界を埋め尽くしているのは、絶望的なまでの「数」だった。 魔王城の正面ゲート。四神と辰巳響(たつみ ひびき)の猛攻によって一度は壊滅したはずの敵軍勢が、地面から湧き出るように再出現していた。


 魔王アヴァベルの魔力が、死んだキメラや騎士の残骸を再構成し、ゾンビのように何度でも蘇らせているのだ。泥と鉄屑が絡み合い、新たな異形となって立ち上がる。 さらに、城の地下ゲートが重々しい音を立てて開き、これまでとは桁違いの質量を持つ巨大な合成魔獣たちが、雪崩を打って押し寄せてくる。


「キリがないよ! ……このままじゃ、ジリ貧だよ!」


 李 小蓮(シャオ)が悲鳴を上げる。 彼女は新生・朱雀の炎で敵を焼き払っているが、その数は減るどころか増え続けている。 再生速度が、破壊速度を上回り始めている。 王 麗琳(リーリン)も、風の結界を維持するだけで手一杯だ。


「……灯たちが待っている」


 響が、焦燥に駆られて城を見上げた。最上階、玉座の間。 そこから放たれる禍々しい魔力が、刻一刻と強まっている。 あそこで、久遠灯(くおん あかり)と美咲(みさき)たちが、世界の命運を賭けた博打を打っている。 早く行かなければ。 だが、目の前の肉の壁が、一歩も通してくれない。


「……行け、響」


 不意に、低く、腹に響く声がした。 陳 幽寂(チェン爺)だった。 老人は、白虎の闘気を全身から立ち昇らせ、敵の大軍の前に仁王立ちになった。


「じっちゃん?」


「ここはワシらが食い止める。……お前たちは、先に行け」


 チェン爺の言葉に、響が目を見開く。


「なっ……! 無茶だ! この数を二人でなんて……!」


「二人じゃねえよ。俺もいんだろ?」


 チャーリーが、ニヤリと笑ってチェン爺の隣に並んだ。彼は、漆黒の水流を凝縮して作った巨大な戦斧を、軽々と肩に担いでいる。


「玄武の甲羅は伊達じゃねえ。……ここは年寄りに任せて、若ぇのはさっさと走りな」


「チャーリー……!」


「勘違いするなよ、嬢ちゃん。……死ぬ気なんざねえ」


 チャーリーは、背中の刺青を青白く光らせた。 絶対零度の冷気が、足元の泥を凍らせていく。


「俺たちは『四神』だ。……大陸を守るのが仕事だ。この程度の雑魚に遅れは取らねえよ」


「……行け、響、リーリン、シャオ」


 チェン爺が、背中越しに告げた。その背中は、かつて屋台で肉まんを蒸していた好々爺のものではない。数千年の時を生き、数多の修羅場をくぐり抜けてきた、武神の背中だった。


「お前さんたちの戦場は、ここではない。……灯を、助けてやってくれ」


「……ッ!」


 響は、唇を噛み締めた。 置いていくのか。 また、誰かを犠牲にして。だが、迷っている時間はない。彼らの覚悟を無駄にすれば、それこそ最大の裏切りになる。


「……死んだら、承知しねぇぞ!」


 響は叫んだ。


「終わったら……また特大の肉まん、食わせろよな!」


「おうよ。……とびきり美味いのを蒸かして待っとるわい!」


 チェン爺が、豪快に笑う。 その笑顔を網膜に焼き付け、響は地面を蹴った。


「行くぞ! リーリン、シャオ!」


「……はい!」


「じっちゃん、チャーリーさん……死なないでね!」


 三つの影が、敵陣の中央を一点突破し、城門へと飛び込んでいく。 その後ろ姿を見届けた瞬間、チェン爺とチャーリーの表情から、一切の甘さが消え失せた。


「さて……。派手に暴れるとしようかの」


「へっ。……冥土の土産にゃ、ちっとばかし重すぎる相手だがな!」


 ドオォォォォン!!


 白虎の拳と玄武の盾が、押し寄せる魔物の波と激突した。 それは、老兵たちが次世代へ繋ぐための、誇り高き防衛戦。


 城内へと突入した響たちは、迷路のような回廊を疾走していた。 敵の姿はない。表の騒ぎに戦力が集中している隙に、一気に駆け上がる。


「……生体反応、確認!」


 通路の曲がり角から、聞き慣れた無機質な声がした。 鉄鏡花(くろがね きょうか)だ。彼女は、白雪美流愛(しらゆき みるあ)と双子たちと共に、制御室からの脱出を果たし、合流地点へと向かっていたところだった。


「鏡花! 美流愛!」


「響! 無事だったのね!」


 美流愛が、安堵の表情を浮かべる。 彼女たちのドレスはボロボロで、激しい戦闘の痕跡が残っている。双子の武器も刃こぼれしているが、その瞳の光は失われていない。


「システムは落としたわ。……城の防衛機能は沈黙している」


「さすがだな、鉄屑」


 響は、鏡花の肩を叩いた。 煙を上げている義手が、彼女の激闘を物語っている。


「灯は!?」


「最上階だ。……反応がある。まだ、戦っている」


 鏡花が上を指差す。 遥か頭上、玉座の間。 そこから、世界を揺るがすほどの強大なエネルギーの衝突が感知されている。 灯とアヴァベル。そして、その中心にいる美咲。


「急ぐぞ! ……灯が待ってる!」


 響を先頭に、リーリン、シャオ、美流愛、双子、鏡花。 リコリス・バロックと協力者たち、総勢7人が、螺旋階段を駆け上がる。


 長い階段を登りきった先。 玉座の間へと続く、巨大な両開きの扉の前。 そこは、すでに半壊していた。 中から漏れ出す衝撃波が、廊下の石壁を削り取り、熱風となって吹き荒れている。


 扉の向こうで、何かが燃えている。 それは炎ではない。 命そのものが燃焼し、ぶつかり合う、魂の熱量。灯たちが魔王と対峙している気配。


「……灯」


 響は、扉に手をかけた。 熱い。火傷しそうなほどの熱さが、掌から伝わってくる。


 響は、背後にいる仲間たちを振り返った。 全員が、頷いた。 もう、迷いはない。これが、最後の扉だ。


「開けるぞ!」


 響が、全身の力を込めて扉を押し開けた。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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