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リコリス・アナザー・ヴァース  作者: ネオもろこし
最終舞踊(ラストワルツ)編

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第十九話「傲慢なる女王の庭」2

第二章 歯車の迷宮、崩壊


 一方、城内深層。魔王城の心臓部にあたる中央制御室。 ここでは、表の派手なドンパチとは異なる、より静謐で、より熾烈な情報戦と肉弾戦が繰り広げられていた。


「警告(アラート)。防壁プログラム、再構築(リビルド)。……突破まであと60秒」


 鉄鏡花(くろがね きょうか)が、メインコンソールに自身の左腕のコネクタを直結したまま叫ぶ。 彼女の義眼は、人間の知覚速度を超えた光の明滅を繰り返し、膨大な情報の濁流を飲み込んでいた。 この魔王の城の論理防壁は、まるで悪意を持った迷路だ。一つ扉を開ければ、三つの罠が起動する。鏡花の脳髄が焼き切れそうなほどの高負荷(オーバーロード)。 だが、彼女は止まれない。 彼女の背中では、白雪美流愛(しらゆき みるあ)と双子が、命を削って時間を稼いでいるのだから。


 ガガガガガッ!!


 轟音と共に、制御室の壁が弾け飛ぶ。 狭い室内を埋め尽くすように暴れまわっているのは、かつてのドクター・メイの最高傑作の一つ、拠点防衛用重機動兵器『ゴリアテ』。全長5メートル。全身を対魔術装甲で覆い、両腕には戦車砲並みのガトリングガンを装備した、殺戮の巨神。


「くっ……! しつこい客ね!」


 美流愛は、辛うじてワイヤーを天井の梁に巻き付け、ターザンのように宙を舞った。 直後、彼女がいた床が弾丸の雨によって粉砕される。優雅なドレスの裾が焦げ、白い肌に煤がこびりつく。 だが、彼女の瞳から闘志は消えていない。


「お姉様! 弾薬が尽きそうです!」


「ナイフも刃こぼれが……! この装甲、硬すぎます!」


 亞莉愛(アリア)と華琉愛(カルア)が悲鳴を上げる。 双子はゴリアテの足元を駆け回り、関節部を狙って攻撃を繰り返しているが、分厚い装甲に阻まれて決定打を与えられない。彼女たちのドレスはボロボロで、生身の肌には無数の切り傷が刻まれている。相手は、痛みを感じず、疲労もしない機械の怪物。 持久戦になれば、生身の人間である彼女たちが不利なのは明白だ。死神の鎌が、秒刻みで首元に迫っている。


「鏡花! まだなの!?」


 美流愛が、着地と同時に叫ぶ。その視線の先で、ゴリアテが動きを変えた。 ガトリングガンの回転が止まり、代わりに胸部の装甲がスライドして開く。 そこから現れたのは、巨大なレンズ。 紫色の魔力が収束し、高周波のチャージ音が室内の空気を震わせる。


 高出力レーザー砲。狭い室内でこれを撃たれれば、逃げ場はない。 全員、分子レベルで蒸発する。


「……うるさい。計算中だ」


 鏡花は、背後の死闘など存在しないかのように、冷徹にキーを叩き続けていた。彼女の額から、冷却液と混じった汗が滴り落ちる。 脳内では、アヴァベルが構築した魔術的なセキュリティコードと、ドクター・メイが組んだ科学的な防衛プログラムが、複雑怪奇なパズルとなって立ちはだかっている。 論理と非論理の融合。それを、一つひとつ、論理のメスで切開していく作業。


(あと少し……。あと一枚、壁を破れば……!)


『排除シマス。……排除シマス』


 ゴリアテの電子音が響く。 無慈悲なカウントダウン。 発射まで、あと3秒。


 美流愛は、鏡花の背中を見た。 無防備な背中。彼女が作業を中断して逃げれば、全員助かるかもしれない。だが、それでは灯たちが進めない。誰かが、盾にならなければ。


(……私がやるわ)


 美流愛は覚悟を決めた。 彼女は、双子たちを背中に隠すように手を広げた。


「アリア、カルア。……後ろに下がりなさい」


「お姉様!?」


 美流愛が、前に出る。 その背中は、スポットライトを浴びるアイドルの華奢なものではなく、仲間を守る戦士の、強く美しい背中だった。彼女は改造ペンライトを構え、光刃を展開する。 レーザーの光が、彼女の瞳を焼く。恐怖はない。あるのは、自分の役割を全うするというプライドだけ。


「私のステージで……好き勝手させないわよ!」


 ゴリアテの光が、臨界点に達した。 発射。


 その、0.1秒前。


「……終わりだ」


 鏡花が、エンターキーを叩き割る勢いで押し込んだ。


 ブツン。


 世界中の電源が落ちたかのような、唐突な静寂が訪れた。


 放たれるはずだったレーザーの光が、砲口の中で霧散した。 ゴリアテの胸部で輝いていた禍々しい魔力の輝きが、フッと消滅する。振り上げられた鋼鉄の腕が、糸の切れた操り人形のように、重力に従ってだらりと垂れ下がる。


『システム……ダウン……。再起動……不能……』


 壊れたレコードのような音声を最後に、巨人は沈黙した。赤い警告灯が消え、制御室の照明が通常の白さに戻る。


「……は?」


 美流愛が、拍子抜けしたように立ち尽くす。目の前にあるのは、ただの巨大な鉄屑。 死の恐怖が、潮が引くように去っていく。


 制御室の壁一面を埋め尽くしていたモニター群が、一斉に赤から青へと変わっていく。 『ACCESS GRANTED(アクセス承認)』の文字が、勝利の旗のように並ぶ。


「全セキュリティ、掌握完了。……城内の自動防衛システム、および魔王アヴァベルへの魔力供給ラインを、物理的に遮断した」


 鏡花が、コンソールからコネクタを引き抜いて振り返った。 その顔は汗まみれで、鼻血まで垂れている。 義手の関節からは煙が上がり、オーバーヒート寸前だ。 だが、その口元には、稀に見る満足げな、勝利の笑みが浮かんでいた。


「……待たせたな。これで、灯たちは『丸裸の魔王』と戦える」


 美流愛は、へなへなと瓦礫の上に座り込んだ。 張り詰めていた緊張の糸が切れ、指一本動かせない。


「……あんたねぇ」


 彼女は、恨めしげに、しかし安堵を込めて鏡花を睨んだ。


「心臓に悪いのよ、そのギリギリの演出。……アイドルなら失格ね」


「効率を追求した結果だ。……それに、お前の『見せ場』を奪うわけにはいかないだろう?」


 鏡花は割れた眼鏡を指先で直し、駆け寄ってきた双子に向かってサムズアップした。 アリアとカルアが、泣きながら美流愛に抱きつく。


 その時。


 ズズズズズ……!!


 城全体が、大きく揺れた。 爆発ではない。 もっと巨大な力が衝突し、世界そのものが軋むような振動。 それは、最上階の玉座の間で、灯たちが何かが始まった証だった。


「……始まったようだな」


 鏡花が天井を見上げる。


「行くぞ。……フィナーレを見届けに」


 美流愛たちは立ち上がった。 ドレスはボロボロで、身体は傷だらけだ。だが、彼女たちの表情は晴れやかだった。


「ええ。……当然よ」


 美流愛が、ドレスの埃を払う。


「私たちのリーダーが、最高の結末(エンドロール)を迎えるのよ。……仲間(バックダンサー)がいないなんて、格好がつかないじゃない」


「行きましょう! お姉様!」


「灯様の勝利を、この目で!」


 双子も拳を握る。


 自分たちの役割は果たした。 だからこそ、最後は傍にいたい。彼女たちは、重い扉を押し開け、玉座の間へと続く階段を駆け上がった。勝利を信じて待つのではなく、勝利を共に掴み取るために。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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