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リコリス・アナザー・ヴァース  作者: ネオもろこし
最終舞踊(ラストワルツ)編

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第十八話「咆哮する四神」3

第三章 王への階段


 正面ゲートでの四神たちの暴れっぷりと、裏口での美流愛たちの隠密(とは名ばかりの破壊)工作のおかげで、城の中枢へと続くメインルートの警備は驚くほど手薄になっていた。


「急ぐぞ! 道はこっちだ!」


 久遠灯(くおん あかり)が先頭を切って走る。彼女の背中には、美咲(みさき)がおんぶされていた。 美咲の首元では『四血の勾玉』が淡い光を放ち、彼女の中に眠る「救世主(メシア)」の力を抑え込んでいるが、激しい運動や戦闘のストレスは彼女の精神を削る。 灯は、自分の鼓動が美咲に伝わるのを感じながら、決して揺らさないように、しかし誰よりも速く駆け抜けた。


「……灯さん」


 美咲が、灯の耳元で小さく呟いた。


「……響ちゃんの声がする」


「あ?」


「聞こえるの。……雷の音。響ちゃんが、怒ってる音」


 美咲は、分厚い石壁の向こう、遥か遠くの正面ゲートで暴れている親友の気配を感じ取っていた。普通なら恐怖でしかない雷鳴が、今の彼女には、自分を守ろうとしてくれている力強い子守唄のように聞こえているのだ。


「……ああ。あいつが派手にやってくれてるおかげで、道はガラ空きだ」


 灯はニヤリと笑った。 響だけじゃない。 リーリンも、チェン爺も、シャオも、チャーリーも。 全員が命を懸けて、この道を作ってくれている。 その重みが、灯の脚を前へと進ませる。


「行くぞ! 立ち止まるな!」


 ルシウス・クロウリーが、背後を警戒しながら続く。 天羽祈(あもう いのり)は杖を握りしめ、結界を維持しながら走る。そして、案内役のエミル・ノスフェラトゥが、迷路のような回廊の先を指し示す。


「こっちです! この階段を上れば、玉座の間の前まで行けます!」


 一行は、螺旋階段を駆け上がった。敵の姿はない。だが、近づくにつれて、空気が重くなる。 物理的な重圧ではない。 肌を刺すような、濃密で禍々しい魔力のプレッシャー。 この先にいる存在が、ただ者ではないことを物語っている。


 階段を上りきった先。 そこには、巨大な一枚岩の扉が立ちはだかっていた。


『真祖の門』。


 高さ10メートルはあろうかという黒曜石の扉。そこには、物理的な鍵穴も、取っ手も、魔法的な結界の術式すら見当たらなかった。あるのは、扉の表面に浮き出た、巨大な「唇」のようなレリーフだけ。乾ききった、ひび割れた唇。 扉そのものが「喉が渇いた」と訴えているような、不気味で生理的な嫌悪感を催す造形。


「……なんだ、これは」


 灯が足を止める。 力任せに蹴破ろうかとも考えたが、直感が「無理だ」と告げている。この扉は、物理干渉を拒絶している。


「……血を求めているのか」


 ルシウスが、十字架を構えながら呟いた。長年の異端審問官としての経験が、この扉の性質を見抜いていた。


「これは、絶対的な血統認証ゲートだ。……H.L.O.H.の破城槌(パイルバンカー)でも破壊不可能だろう。通れるのは、登録された生体情報……すなわち、ノスフェラトゥの直系の血を持つ者のみ」


「直系だと?」


 灯が眉をひそめる。灯自身、レオンハルトの血を継いでいるが、それは後天的なものだ。 この扉が求めているのは、もっと古く、純粋な「真祖の因子」。


「……僕が、やります」


 エミルが、震える足で前に出た。 彼の顔色は蒼白だ。 この扉の向こうにいるのは、自分を捨てた(ヴィクトル)の骸を利用し、世界を滅ぼそうとしている(ベルベット)だ。 恐怖がないわけがない。だが、彼はもう逃げないと決めた。


「エミル……」


 祈が心配そうに見つめる。


 エミルは、懐から銀のナイフを取り出した。そして、躊躇うことなく、自らの手首を切り裂いた。


「うっ……」


 鮮血が滴り落ちる。彼は、その血に濡れた手を、扉のレリーフ――乾いた唇へと押し当てた。


「開いてください……父様(ヴィクトル)……!」


 エミルの血が、唇に吸い込まれていく。瞬間、扉全体が赤く脈動した。 ドクン、ドクン。 まるで、巨大な心臓が動き出したかのような音。


「……弱き者よ」


 どこからか、声が響いた気がした。 それは、かつてエミルを追放した時のヴィクトルの声か。 それとも、扉のシステム音声か。


 だが、扉は拒絶しなかった。 「弱き者」として捨てられた彼の血を、城は「正統なる後継者」として受け入れたのだ。


 ゴゴゴゴゴ……。


 城全体が震え、重厚な扉がゆっくりと、左右に開き始めた。隙間から溢れ出すのは、凍てつくような冷気と、甘美な絶望の香り。


「開いた……!」


 祈が声を上げる。


「よくやった、エミル!」


 灯は、ふらつくエミルの肩を抱き寄せた。エミルは、貧血と安堵で崩れ落ちそうになりながらも、誇らしげに微笑んだ。


「……行けます。灯さん」


「ああ。……でかしたぞ、三男坊」


 灯は、エミルの手首を布で縛り、止血した。 そして、開かれた闇の口へと向き直る。


 扉の向こうに広がっていたのは、すぐさま玉座の間ではなかった。


 そこは、長く、暗い回廊だった。天井は高く、両脇には歴代の吸血鬼の彫像が並んでいる。ある者は剣を掲げ、ある者は書物を持ち、ある者は生首を掴んでいる。それら全ての石像が、侵入者である私たちを冷ややかに見下ろしているようだった。


 そして、回廊の遥か先。 長い長い深紅の絨毯が敷かれた階段の頂上に、もう一つの巨大な扉が見える。


 あそこだ。 あそこに、魔王アヴァベルがいる。


 回廊には、突き刺さるような殺気と、死の匂いが充満していた。一歩進むごとに、魂が削られるような重圧。空気が粘着質になり、呼吸をするのも苦しい。


「……行くぞ」


 灯は、背中の美咲を背負い直した。美咲の体温が、灯の背中を温める。 この温もりを守るために、ここまで来たのだ。


 灯は、M500を握る右手に力を込めた。金属の冷たさが、思考をクリアにする。


「主よ、我らに加護を」 ルシウスが十字架を構え、聖なる光を灯す。


「結界、最大展開……!」 祈が杖を握りしめ、魔力を練り上げる。


「……僕も、戦います」 エミルが短剣を抜き、震えを止める。


「この階段を登りきれば……全てが終わる」


 灯の言葉に、全員が頷く。 言葉はいらない。 覚悟は、とうに決まっている。


 カツン。


 灯が、第一歩を踏み出した。 靴音が、静寂の回廊に響き渡る。 それは、魔王への宣戦布告の音。


 彼らは、最後の階段に足をかけた。 一段、また一段。 重力に逆らうように、運命に抗うように。 魔王の待つ頂へと、確かな足取りで登っていく。


 その背中を、天井の明かり取りから差し込む月光だけが、静かに照らしていた。決戦の幕が開くまで、あと僅か。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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