第十七話「蝕まれた太陽」3
第三章 作戦会議
アギトの丘の中腹。かつて神と悪魔が密約を交わしたとされる隠し洞窟は、即席の作戦司令室となっていた。 薄暗い岩肌を、持ち込んだランタンの明かりが揺らめきながら照らし出している。
鉄鏡花が、義眼からホログラムを投影し、現在の『魔王城』周辺の戦力配置図を表示させた。
「……分析完了。状況は、極めて深刻だ」
鏡花が、冷徹な声で報告する。
「城の周囲を展開しているのは、H.L.O.H.の死んだ騎士や吸血鬼だけではない。……虹海で交戦した『人工ドラゴン』や、ヴァルハドキアの『合成魔獣』の特徴を持つ個体が多数確認された」
「キメラだって?」
辰巳響が眉をひそめる。
「ああ。……生体部品と機械を融合させ、魔力で駆動させる術式。……間違いなく、ドクター・メイの技術だ」
「あの女……! しぶとく生き残って、今度はアヴァベルに取り入ったってわけ?」
白雪美流愛が悔しげに呟く。メイが自ら協力しているのか、それともアヴァベルに吸収され技術だけを奪われたのかは定かではない。だが、敵の軍勢が、メイの狂気的な技術によって「無限に量産され、強化された兵隊」であることは事実だった。
「……なるほどな」
久遠灯は、瓦礫の上に広げた地図に、×印を書き込んだ。 彼女を取り囲むのは、リコリス・バロックのメンバー、四神、吸血鬼、そして聖職者。総勢14名。 かつては敵対し、殺し合い、あるいはすれ違っていた者たちが、今、一つのテーブルを囲んでいる。
「いいか、よく聞け」
灯の声が、洞窟の空気を引き締める。
「敵はアヴァベル一人だが……奴は『軍隊』であり『要塞』だ」
灯が、地図の中心――魔王城の玉座を指差した。
「奴は、真祖の力で城を要塞化し、四神(朱雀)の力で空を制圧し、メイの技術で無限に兵隊を量産してやがる。……まともにぶつかれば、数で押し潰されて終わりだ」
「じゃあ、どうするの?」
美流愛が問う。
「一点突破だ。……全員で道をこじ開け、本丸に『毒(美咲)』を届ける」
灯は、地図上に四つの矢印を描き込んだ。
「まず、正面玄関をド派手にノックしてやる連中が必要だ」
灯の視線が、陳 幽寂、王 麗琳、チャーリー・S、そして李 小蓮に向けられる。
「四神チーム。……アンタら神様連中で、敵の防衛ラインと元素結界を強引にこじ開けてくれ。派手に暴れて、アヴァベルの目を引きつけろ」
「へっ。囮役ってわけか」
チャーリーがサングラスを直しながら笑う。
「悪くねえ。……伝説の聖獣が四匹揃って暴れるんだ。魔王サマも無視はできねえだろ」
「任せなさい。……私の風で、雑魚どもを吹き飛ばしてあげるわ」
リーリンが青いドレスを翻す。 そして、灯は辰巳響を見た。
「響。……お前もこっちだ」
「え? 灯と一緒じゃねえのかよ」
「お前の雷は目立つ。……四神と一緒に暴れまわって、敵の戦力を一手に引き受けてくれ」
灯は、響の肩を叩いた。
「一番キツイ役回りだ。……頼めるか?」
「……ったりめぇだ!」
響は拳を鳴らした。
「アタシが一番派手な花火を打ち上げてやるよ! ……灯たちが通りやすいようにな!」
「次に、城のセキュリティを落とす」
灯は、鉄鏡花と美流愛、そして双子を見た。
「城の内部構造は、ノクタルニアの魔術迷宮と虹海の科学セキュリティが混ざり合ってやがる。……鏡花の解析と、美流愛たちの隠密スキルで、中枢の制御システムをダウンさせろ」
「了解した。……論理的に解体する」
鏡花が眼鏡を押し上げる。
「お姉様、またあのアンドロイドたちと遊べますわ!」
「今度こそ、スクラップにして差し上げましょう!」
「ええ。……裏口の掃除は任せて」
美流愛と双子が、不敵な笑みを浮かべる。
「そして、本隊」
灯は自分自身と、天羽祈、ルシウス・クロウリー、そしてエミル・ノスフェラトゥを指した。
「私たちが、混乱に乗じて本丸に突っ込む。……エミルの血で城の生体認証を突破し、ルシウスの聖遺物と祈の『調律』で、アヴァベルの多重バリアを剥がす」
「……僕が、鍵になるんですね」
エミルが、緊張した面持ちで頷く。かつては逃げ出した城。だが、今は仲間を導くために帰るのだ。
「神よ……。この戦いに、祝福を」
ルシウスが十字架を握りしめる。
「そして……最後の一手だ」
灯は、全員の後ろで小さくなっていた少女――美咲に向き直った。 美咲は、首元の『四血の勾玉』を握りしめ、震えている。 彼女は戦士ではない。 ただの女子高生だ。だが、彼女の血だけが、この終わらない夜を終わらせることができる。
「……私が、行ってもいいんですか?」
美咲が、消え入りそうな声で問う。
「また、暴走しちゃうかも……。響ちゃんを、傷つけちゃうかも……」
「大丈夫だ」
灯は、美咲の手を取った。そして、その掌に、一発の「弾丸」を握らせた。 それは、火薬も弾頭も入っていない、空の薬莢。 かつて灯が吸っていた「わかば」の箱に似た、空っぽで、だからこそ何でも詰め込める器。
「お前は、引き金を引かなくていい。……お前自身が、最後の『弾丸』だ」
灯は、自分の胸をドンと叩いた。
「私が……私たちが、お前という弾丸を、あいつの心臓まで届ける。銃身は私が務める」
灯の瞳が、美咲の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「だから、お前は戦わなくていい。……ただ、友達のところに帰ることだけを考えてろ」
「……!」
美咲の瞳から、涙がこぼれ落ちた。怖い。 でも、一人じゃない。
「……うん!」
美咲は、空薬莢を強く握りしめた。
「一緒に行こうぜ、美咲」
響が、作戦会議の輪から離れ、美咲の背中を支えた。
「全部終わらせて、タピオカ飲むんだろ? ……死舞谷の、一番高いやつ」
「うん! ……特大のやつ、奢ってね!」
「おうよ! 任せとけ!」
準備は整った。 夜明け前。 世界が最も深く、冷たい闇に沈む刻限。 アギトの丘の上に、14の影が並び立った。
冷たい風が、彼女たちの髪を揺らす。眼下には、紫色の光を放つ魔王城が、悪夢のようにそびえ立っている。勝率は、限りなくゼロに近い。 だが、誰の目にも絶望はない。
「……行くぞ、野郎ども!」
灯が、M500を空に掲げた。 その声が、夜明け前の静寂を引き裂く。
「これが、最後の喧嘩だ!!」
「「「オオオオオオオオッ!!」」」
雄叫びと共に、全員が走り出した。四神が天を駆け、魔女たちが地を疾走する。 それぞれの因縁、それぞれの愛、そしてそれぞれの「日常」を取り戻すために。
最終章『最終舞踊』。 世界の命運を賭けた、最後で最高のパーティーが、今、幕を開ける。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




