第十五話「不在の食卓」2
第二章 集結する星々
「状況は最悪ね。……でも、まずは灯を合流させないと」
白雪美流愛が、努めて冷静な声で方針をまとめる。だが、その指先は震えていた。 リーダー不在の不安。そして、世界の命運を左右する「魔界の門」というキーワードの重圧。
その時。 壁面の通信モニターに、激しいノイズが走った。
ザザッ、ザザザッ……!
砂嵐の向こうから、焦燥しきった女性の顔が浮かび上がる。
『聞こえますか、リコリス・バロック! ……緊急事態です!』
シスター・ノアだ。彼女は聖地アストエルの通信室にいるのだろう。背後で警告音が鳴り響いているのが聞こえる。
「ノア様! 何があったんですか!?」
天羽祈が、モニターに駆け寄る。 ノアは、祈の無事な声を聞き、一瞬だけ安堵の表情を浮かべたが、すぐに悲痛な面持ちに戻った。 そして、彼女が告げた事実は、事務所内の空気を凍りつかせた。
『先ほど……久遠灯様、ルシウス・クロウリー様、チャーリー・S様が、魔界へ突入しました』
「なっ……!?」
全員が絶句する。 突入。それはつまり、瘴気の噴き出すあの穴の中へ飛び込んだということだ。
『お三方の尽力により、門は内側から閉じられました。……瘴気の流出は止まり、世界の崩壊は食い止められました』
ノアは、言葉を詰まらせた。
『ですが……門は「内側から」閉じられたのです。……お三方は、魔界に取り残されています。こちらの術式では、再開放は不可能です』
沈黙。 誰も言葉を発せなかった。 重苦しい静寂だけが、事務所を支配する。
灯たちは、世界を守るために、自ら退路を断ったのだ。あの世への片道切符。 帰る保証のない、自己犠牲。
「……ふざけんなよ」
辰巳響が、低く唸った。 彼女の拳が震えている。恐怖ではない。どうしようもない怒りで。
「勝手にカッコつけてんじゃねぇよ! ……あいつ、約束したじゃねぇか! 『必ず帰る』って!」
響は、デスクの上の書き置きを睨みつけた。あの乱暴な文字が、今は遺書のように見えてしまう。
「助けに行くぞ! 今すぐにだ!」
響が叫ぶ。 その瞳には、龍の光が宿っていた。 扉が閉じたなら、こじ開ければいい。 壁があるなら、壊せばいい。 それが、リコリス・バロックのやり方だ。
「だが、ヴァルハドキアまでは距離がある」
鉄鏡花が、高速でキーボードを叩きながら首を振る。 彼女の義眼には、絶望的な数値が並んでいた。
「陸路では数日かかる……! 通常の空路でも間に合わない! その間に、魔界で何が起こるか予測できない。 灯たちの生存確率は、一刻ごとに低下している…」
時間が足りない。 今すぐ飛ばなければ、灯たちは永遠に帰ってこないかもしれない。魔界の瘴気、強力な魔物たち。そして何より、絶望的な孤独。 それらが、灯たちの心を折ってしまう前に。
「……ん……」
その時、重苦しい空気の中で、微かな声がした。ソファで眠っていた美咲が、うっすらと目を開けたのだ。
「……響、ちゃん……?」
「美咲!」
響が駆け寄る。美咲は、まだ焦点の定まらない目で、ぼんやりと響を見つめた。 そして、不安そうに響の服の裾を掴んだ。 その手は細く、頼りない。
「行かないで……。一人にしないで……」
勾玉で封印されているとはいえ、彼女の精神は極めて不安定だ。 「救世主」としての飢餓感と、人間としての理性がせめぎ合い、常に綱渡りの状態にある。響から離れれば、不安に押しつぶされ、再び飢餓に襲われるかもしれない。
「……ッ」
響は、美咲の手を握り返した。この手を離して、灯を助けに行くべきか。それとも、この場に留まり、美咲を守るべきか。 二者択一。
いや、違う。
「……連れて行く」
響は決断した。顔を上げ、仲間たちを見回す。
「え?」
祈が驚きの声を上げる。
「美咲も連れて行く。……ここに置いていくほうが危険だ」
それは、一般人を戦場に連れて行くというタブー。足手まといになるかもしれない。危険に晒すことになるかもしれない。 だが、響はもう迷わなかった。
「それに、こいつは『メシア』だ。……万が一の時、灯を助ける鍵になるかもしれねぇ」
「……賭けだな」
鏡花が眼鏡の位置を直す。
「だが、論理的ではある。……彼女の『銀の血』は、魔界の理さえも書き換える可能性がある」
「私も、賛成です」
王 麗琳が進み出た。 彼女は、響の隣に立ち、美咲を見つめる。
「守ると決めたなら、自分の目の届く場所で守り抜く。……それが、龍の流儀でしょう?」
「……わかりました。私も、全力でサポートします」
祈が深く頷く。エミル・ノスフェラトゥも、決意を込めて拳を握る。
「でも、どうやって行くの?」
美流愛が、根本的な問題を指摘した。
「足がないわよ。……『鉄の馬車』は壊れたし、普通の飛行機じゃ間に合わないわ」
沈黙が戻る。 意志はある。覚悟もある。だが、物理的な距離という壁だけが、どうしても越えられない。
その時。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




