第十四話「銀色の暴食と四血の勾玉」2
第二章 黒い粒の記憶
「だめ、美咲! それ以上近づいたら……!」
王 麗琳が風の障壁を展開し、美咲を押し留めようとする。その声には焦りが滲んでいた。 銀色のオーラを纏った美咲は、ただそこにいるだけで周囲の魔力を侵食し、分解している。障壁がミシミシと音を立てて軋み、表面からガラスのように剥離していく。 触れれば、リーリンの腕さえも消失しかねない。
「いいんだ、リーリン。……手出しすんな」
辰巳響が、リーリンの前に出て、その手を制した。 響の身体は、先ほどの戦闘と、美咲の血を奪われた心労でボロボロだった。だが、その瞳だけは、かつてないほど澄み渡っていた。
「でも! 触れたら貴女が消滅するわ! あの力は、神殺しの毒そのものよ!」
「……わかってるよ」
響は、静かに言った。
「だけど……ダチが腹減らしてんだ。飯を食わせてやるのがスジだろ」
響は、防御を解き、無防備な姿で美咲の正面に立った。銀色の光が、響の肌を刺す。 チリチリと焼けるような感覚。 龍神としての本能が「逃げろ」と叫んでいる。だが、響の足は一歩も退かなかった。
美咲の銀色の手が、響の喉元に伸びる。鋭利な爪に変形した指先。 触れた瞬間に肉を溶かし、骨まで食らい尽くす死の感触。皮膚が焼けるような痛みが走る。
「……ほら。食えよ」
だが、響は逃げない。彼女が差し出したのは、自分の肉体ではなかった。懐から取り出した、真空パックされた黒い粒の塊。 虹海を出る時、陳 幽寂が「最後の切り札」として持たせてくれた、『特製タピオカ(保存食)』。
「……あ?」
美咲の手が、寸前で止まった。 虚ろな銀色の瞳が、黒い粒を見つめる。 そこから漂うのは、血や魔力の匂いではない。甘く、香ばしく、そしてどこか懐かしい香り。
「タピオカだぞ。……お前が好きな、ミルクティー味だ」
響はパックを破り、美咲の口元へ押し当てた。 甘い香り。 それは、神聖な銀色の世界には存在しない、俗っぽくて、安っぽくて、どうしようもなく「人間臭い」匂い。
「……ん、ぐ……」
美咲が、反射的にそれを咀嚼した。モチモチとした食感。口の中に広がる、安っぽいシロップの甘み。
その瞬間。 美咲の脳裏に、閃光のような映像が走った。
放課後の教室。 夕焼けに染まる机。死舞谷の雑踏。 「響ちゃん、また太っちゃうよ」と笑う自分の声。 「うるせーな、明日からダイエットだ」とふてくされる響の顔。 テストの結果に一喜一憂し、新作のスイーツに目を輝かせ、くだらない話で何時間も笑い合った日々。
走馬灯のように蘇る、何気ない日常の記憶。 それが、美咲を「救世主」という無機質なシステムから、一人の「人間」へと引き戻す。
「……あ……ぅ……」
美咲の瞳から、銀色の光が急速に消えていった。代わりに溢れ出したのは、透明な、温かい涙だった。
「……ひび、き……ちゃん……?」
美咲の膝から力が抜け、崩れ落ちる。響は、倒れ込む親友を抱きしめた。 美咲の身体に残る銀色の毒が、響の服を焦がし、肌を焼く。 だが、響は構わない。 痛みよりも、腕の中にある確かな重みが愛おしかった。
「……怖かった……。私、なんか変で……お腹すいて……」
美咲が、響の胸で泣きじゃくった。自分が何になろうとしていたのか、完全には理解できていない。 ただ、得体の知れない飢えと、殺意に支配されていた恐怖だけが残っている。
「おう。……大丈夫だ。もう大丈夫だ」
響は、美咲の背中を優しく叩いた。
「私……人じゃなくなっちゃうの……? 誰かを、傷つけちゃうの……?」
「なんねぇよ」
響は、力強く断言した。
「アタシがついてる。……たとえ世界中が敵になっても、絶対、お前を守るから」
響は、美咲の頭を撫でた。その手は泥だらけだったが、美咲にとってはどんな聖人の手よりも温かかった。 銀色の檻が砕け、二人の間に、再び確かな絆が結ばれた瞬間だった。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




