第十二話「錆びついたハイウェイ、龍の道」2
第二章 炎の追跡者
ドオォォォォォン!!
爆音と共に、後方のアスファルトが沸騰した。熱波が衝撃波となって押し寄せ、ボロボロのワンボックスカーを木の葉のように揺さぶる。 リアウィンドウが熱で歪み、ひび割れていく。
「うわあああああッ!?」
運転席のエミル・ノスフェラトゥが悲鳴を上げ、ハンドルにしがみつく。車体は大きく横滑りし、タイヤが悲鳴を上げて煙を吐く。
「な、何ですか今の!? ミサイル!?」
「違う! ……もっとタチの悪いのが来たわ!」
リーリンが窓を開け、後方を確認する。土煙と炎の向こうから、猛スピードで接近してくる影があった。 それは車ではない。 背中に巨大な炎の翼を生やし、地表すれすれを滑空する男。
朱 焔陽。四神の一柱、裏切りの朱雀。 響たちを圧倒し、天羽祈を連れ去った因縁の相手だ。彼は、ハイウェイを走る車と同じ、いやそれ以上の速度で追走しながら、愉悦に満ちた笑みを浮かべていた。
「見つけたぞ、ネズミども!」
焔陽の声が、風切り音を超えて直接脳内に響く。
「逃がしはせん。……その首、ベルベットへの手土産にしてくれる!」
彼が右腕を振るうと、翼から紅蓮の羽が散弾のように放たれた。それらは地面に着弾すると同時に爆発し、炎の壁となって行く手を阻む。
ジュウウウウッ!!
アスファルトが瞬時に融解し、マグマの川と化す。 タイヤが溶けた路面に足を取られる。
「しまっ……!」
エミルがハンドルを逆に切るが、制御不能だ。車体は横転寸前の角度で傾き、錆びついたガードレールへと突っ込んでいく。
ガギィィィン!!
金属が引き裂かれる不快な音。 車はガードレールを突き破り、道路脇の荒野へと放り出された。宙を舞う鉄の箱。このまま着地すれば、サスペンションが折れ、走行不能になる。
「くっ……!」
響が歯噛みする。まだ体力が戻りきっていない。とっさに結界を張ろうとするが、反応が遅れる。
その時。 青い風が、車体を包み込んだ。
「エミル! 車を頼むわ!」
リーリンが叫び、助手席の窓から身を乗り出した。 いや、飛び出した。 彼女は空中で身体をひねり、背中から光の翼を展開する。新生・青龍としての権能。彼女が操る風がエアクッションとなり、車の着地衝撃を和らげた。
ズザザザザッ……。
車は土煙を上げて着地し、なんとか横転を免れた。エミルが必死に体勢を立て直す。
「い、行きますよ!」
「ええ! 止めないで!」
リーリンは車に戻らず、そのまま空中に留まった。彼女は風を足場にして立ち、迫りくる朱雀の炎と対峙する。
「ここから先へは……通さない!」
リーリンが腕を振るう。カマイタチのような真空の刃が、朱雀の炎を切り裂き、霧散させる。
「ホォ……。小娘が、少しはマシな芸を覚えたか」
焔陽が、空中で急停止した。彼は翼を羽ばたかせ、高熱の風を送り込んでくる。 荒野の枯れ草が一斉に発火し、周囲は火の海と化した。
「だが、所詮は紛い物。……死に損ないの青龍から借りた力で、粋がるな!」
焔陽が掌に巨大な火球を生成する。太陽の欠片のような、圧倒的な熱量。
「消えろ!」
火球が放たれた。 それは一直線にリーリンを狙い、彼女ごと車を蒸発させようと迫る。 回避すれば、背後の車が焼かれる。 逃げ場はない。
だが、リーリンは退かなかった。 彼女の青い瞳に、迷いは微塵もない。
「借り物じゃない……!」
彼女は両手を広げ、大気の流れを掴んだ。
「これは、私が選んで、受け継いだ力よ! ……誰かを守るための、私の翼だ!」
ゴオオオオオッ!!
リーリンを中心に、巨大な竜巻が発生した。 彼女は風を極限まで圧縮し、回転させることで、炎の侵入を拒む防壁としたのだ。 火球が竜巻に飲み込まれ、遠心力で拡散していく。
「ぬぅっ!? 我が炎を弾いた!?」
焔陽が驚愕する。 だが、防ぐだけでは勝てない。 火力の差は歴然としている。竜巻は炎に侵食され、徐々に熱を帯びていく。 このままでは、熱風で焼き尽くされる。
その一瞬の拮抗。
「……上等だぜ、相棒!」
車のサンルーフが、内側から蹴破られた。飛び出してきたのは、ポテトチップスの袋を投げ捨て、口元を拭った響だった。 彼女の全身には、リーリンから供給された龍脈エネルギーが満ち溢れ、バチバチと蒼い雷光を放っている。
「オラァッ! アタシのダチの邪魔すんな!」
響は、リーリンが作り出した竜巻の中に、自らの雷撃を叩き込んだ。
「響!?」
「合わせろ、リーリン! ……風と雷のミックスジュースだ!」
リーリンが即座に意図を理解する。彼女は竜巻の回転速度を上げ、響の雷を巻き込み、増幅させた。
風が雷を運び、雷が風を熱する。二つのエネルギーが融合し、プラズマを帯びた嵐へと変貌する。
「喰らいなッ! 『雷風』ッ!!」
ズドオォォォォォン!!
竜巻が、横薙ぎの砲撃となって射出された。 炎の壁を食い破り、雷光を撒き散らしながら、焔陽を直撃する。
「ぐぅッ……!?」
焔陽が呻く。熱波の結界が破られ、彼の翼が雷撃で焦げ付く。風の刃が頬を切り裂き、神の血が流れる。
「おのれ……! 小賢しい真似を!」
焔陽がバランスを崩し、後退する。その隙を見逃さず、エミルがアクセルを床まで踏み込んだ。
「今です! 掴まってください!」
車が急加速する。 リーリンが空中で身を翻し、開いた窓から車内に滑り込む。響もサンルーフから戻り、シートに転がり込む。
「逃がすか……! 待ちやがれ!」
焔陽が体勢を立て直し、追撃しようとする。 だが、プラズマの嵐が視界を遮り、計器を狂わせている。 彼は、土煙を上げて遠ざかるワンボックスカーを、憎々しげに睨みつけることしかできなかった。
「……フン。まあいい」
焔陽は、追うのをやめた。 彼は、髪をかき上げ、冷酷な笑みを浮かべた。
「どうせ行き着く先は同じだ。……貴様らが向かう京帝は、もはや安息の地ではない」
彼は、西の空――京帝の方角を見やった。そこには、不吉な紫色の雲が渦巻いている。
「逃げ場などないぞ……。京帝はすでに、我らの狩り場だ」
朱雀の嘲笑が、荒野の風に乗って響き渡った。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




