第十話「虚空に浮く傲慢の玉座」3
第三章 約束の地、変貌する世界
久遠灯の絶叫が、黒曜石の玉座の間に轟いた。彼女は、空間に生じた裂け目――地上へと続く唯一の『王の道』へと、迷うことなく身を投じた。
「主よ、導きたまえ!」
「へっ、ジェットコースターよりスリルがあるぜ!」
ルシウス・クロウリーとチャーリー・Sも続く。光のトンネル。 そこは、重力が逆転し、因果律がねじれる混沌の産道だった。 猛烈な上昇気流が、彼らの身体を押し上げる。背後からは、魔界の瘴気が「行くな」「残れ」と未練がましく手を伸ばしてくる。 それは、過去の罪悪感や、甘美な絶望の具現化だ。
「しつこいんだよ、過去らは!」
灯は振り返りざまに、M500の最後の一発を闇の深淵に向けて放った。 銃声と共に、瘴気の手が霧散する。
「見えた! 出口だ!」
視線の先に、針の穴ほどの白い光が見える。それは急速に拡大し、視界を白く染め上げていく。灯は手を伸ばした。 その指先が、冷たく湿った、懐かしい「地上の風」に触れた。
ドサッ!!
三人は、柔らかな草地の上に転がり出た。受け身を取る余裕もなく、泥と草の匂いに顔を埋める。全身を襲う激痛。筋肉の断裂音。 だが、その痛みこそが、夢幻の魔界から現実へと帰還した証だった。
「……はぁ、はぁ……」
灯が仰向けになり、目を開ける。 そこにあったのは、分厚い雲に覆われた灰色の空でも、魔界の星のない夜空でもなかった。 満月が煌々と照らす、澄み渡った夜空。 小高い丘の上を、冷涼な風が吹き抜けていく。
「ここは……」
ルシウスが、十字架を支えに身を起こし、周囲を見渡して息を呑んだ。
「聖地アストエル、アギトの丘か」
かつて神と悪魔が最初に争ったとされる約束の地。 だが、眼下に広がる光景は、彼らの記憶にあるものとは決定的に、そして絶望的に異なっていた。
「……おいおい。冗談だろ?」
チャーリーが、サングラスを外して呆然と呟く。
アストエルの白亜の城壁都市。遠くに見えるはずの宗教都市ヴァルチアン。 そして、峡谷にあった地下都市ヴァルハドキアの入り口。
それら全てが、消失していた。いや、飲み込まれていた。
大地には、幾何学的な紫色の紋様が血管のように脈打ち、そこから立ち昇る魔力が空間そのものを支配している。そして、その中心。 かつて大聖堂があった場所に、禍々しくも神々しい「巨大な黒い城郭」が出現していたのだ。
それは、ノクタルニアの古城と、虹海のタワー、そしてヴァルチアンの建築様式を悪夢の中で融合させたような、異形の巨城だった。空は紫色に染まり、月は赤く輝いている。 世界そのものが、何者かの意志によって書き換えられている。
「俺たちがいない間に、世界はどうなっちまったんだ?」
「時間が……ズレていたのか?」
ルシウスが呻く。 魔界での数日は、地上での数週間、あるいは数ヶ月に相当していたのかもしれない。 そこはもはや、人間の国ではなかった。
『魔王の国』。絶対的な支配者が君臨する、新たな秩序の庭。
「……灯さん!」
「灯!」
丘の下から、懐かしい声が風に乗って届いた。 灯が視線を落とすと、そこには信じられない光景があった。丘の麓、城を見上げる位置に、数台の車両と、武装した集団が展開していたのだ。
「……あいつら」
灯の目が、驚きに見開かれる。
先頭に立つのは、天羽祈。 彼女は目覚めている。その瞳にはオッドアイの輝きが戻り、手には杖が握られている。 その隣には、鉄鏡花と、白雪美流愛。 そして双子の亞莉愛と華琉愛。辰巳響は、龍のオーラを纏い、空を睨みつけている。
それだけではない。 虹海にいるはずの王 麗琳が、青いドレスを翻して立っている。 陳 幽寂が、キセルを構えている。李 小蓮が、拳法着で構えている。 ノクタルニアにいるはずのエミル・ノスフェラトゥが、吸血鬼のサーベルを抜いている。
東帝都、虹海、ノクタルニア。 灯たちが巡ってきた世界の仲間たちが、一堂に会しているのだ。
そして、響の隣。一人の少女が、不安げに、しかし毅然と前を見据えていた。 眼鏡をかけた、制服姿の少女。
美咲。
行方不明になっていたはずの、響の親友。 彼女の周りには、銀色の粒子が舞い、神聖な気配を放っている。
彼らは皆、傷つき、泥にまみれながらも、決死の覚悟を瞳に宿して、あの「黒い城」を見上げていた。 まるで、これから世界の命運を賭けた最終決戦に挑む軍勢のように。
「……揃ってんじゃねえか」
灯は、M500をホルスターに収め、ニヤリと笑った。 状況は飲み込めない。 なぜ世界が変わっているのか。なぜ全員がここにいるのか。 そして、あの城の主は誰なのか。
灯、ルシウス、チャーリーはまだ知らない。 みんなが最後の戦いに挑もうとしていることを。
「……待たせたな、野郎ども」
灯は、丘を駆け下りた。 再会の抱擁と、そして次なる戦場へ向かうために。
魔界脱出の旅は終わった。 だが、時計の針は少し巻き戻る。 灯たちが魔界を彷徨っていたその裏側で、地上で何が起きていたのか。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




