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リコリス・アナザー・ヴァース  作者: ネオもろこし
魔界脱出(ディープアビス)編

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第六話「黄金と強欲の迷宮」3

第三章 奪う者、守る者


「交渉決裂か。……ならば、死体から剥ぎ取るまで!」


 強欲の王アヴァグラドゥスが怒号を上げると、黄金の宮殿が巨大な内臓のように脈動した。 床、壁、天井。あらゆる場所から、黄金でできた無数の手が這い出し、三人を拘束しようと伸びてくる。


 さらに、壁面にコレクションされていた古の武器――かつての英雄たちの魔剣や聖槍、呪われた斧が、ひとりでに浮き上がり、切っ先をこちらに向けてくる。


「英雄の宝を……勝手に使うんじゃねぇ!」


 チャーリー・S(玄武)が、とっさに水の障壁を展開する。飛来する魔剣が水流の盾に弾かれ、床に突き刺さる。だが、武器の数は数百、数千。 弾幕のような宝具の雨が、三人をじりじりと追い詰めていく。


「キリがない。……本体を叩くぞ!」


 ルシウス・クロウリーが十字架(ゴルゴダ)のガトリングガンを回し、迫りくる黄金の手を粉砕しながら叫ぶ。 彼は隙を見て聖銀の杭を射出するが、アヴァグラドゥスの周囲には幾重もの魔導障壁(バリア)と、肉厚な宝石の鎧が展開されており、傷一つつけられない。


「無駄だ! 私の(防御)は無限だ!」


 アヴァグラドゥスは、安全圏である玉座から高笑いをしている。


「貴様らの貧相な攻撃など、私の資産価値を傷つけることすらできん! この空間全てが私の所有物であり、私の意のままなのだ!」


 正面からの火力勝負では、分が悪すぎる。弾薬と体力が削られるだけだ。


「……チッ。金持ち喧嘩せずってか」


 久遠灯(くおん あかり)は、瓦礫の陰に滑り込み、M500に弾を込めながら周囲を観察した。 アヴァグラドゥスは、自分自身への攻撃は鉄壁の防御で防いでいる。だが、先ほどルシウスの流れ弾が、背後の陳列棚――『エルフの女王の涙』が入った瓶を掠めた瞬間、彼の顔色が明らかに変わったのを灯は見逃さなかった。


『ひっ……! 気をつけろ野蛮人! それは一点物だぞ!』


 あの反応。 彼は、自分への攻撃よりも、コレクションへの被害を恐れている。


「……おい、二人とも。作戦変更だ」


 灯が、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。その瞳は、魔王を倒す戦士のものではなく、銀行強盗を企む悪党のものだった。


「あいつを倒す必要はねえ。……あいつが一番嫌がることをしてやる」


 灯は、岩陰から飛び出した。 だが、向かった先はアヴァグラドゥスではない。部屋の隅にある、豪華なガラスケースだ。 中には、伝説の魔獣の剥製が、生前の姿のまま飾られている。


「やめろ! そこに近づくな!」


 アヴァグラドゥスが血相を変えて叫ぶ。 灯は構わず、M500の銃床でケースを思い切り殴りつけた。


 ガシャンッ!!


 ガラスが砕け散り、剥製が地面に転がる。 首が折れ、詰め物が飛び出す。


「ギャアアアアッ!! 私のコレクションがぁぁぁ!!」


 魔王の絶叫。 黄金の手の動きがピタリと止まり、浮遊していた武器がふらついた。怒りよりも、喪失のショックが勝っている。 彼にとって、己の肉体よりも財産の方が「本体」なのだ。


「やっぱりな。……テメェにとっての命は、自分じゃなくて『財産』か」


 灯は叫んだ。


「ルシウス! チャーリー! ……派手に散らかせ!!」


「……なるほど。悪魔の執着を利用するか」


「ヒャハッ! 破壊活動なら任せな!」


 ルシウスとチャーリーが呼応する。ルシウスのガトリングガンが火を噴き、壁一面の宝石棚を薙ぎ払う。ルビー、サファイア、エメラルドが粉々になって飛び散る。チャーリーの水流が渦を巻き、積み上げられた金貨の山を押し流す。


「やめろ! やめろぉぉぉッ!!」


 アヴァグラドゥスは、灯たちを攻撃することすら忘れ、崩れ落ちる財産を必死にかき集めようと右往左往し始めた。


「私の金が! 私の宝が! 傷つくだろうがぁぁぁ!」


 攻撃の手が止む。鉄壁だった防御結界も、宝を守るために分散し、本体が無防備になる。


「今だ! 抜けるぞ!」


 灯が合図を送る。アヴァグラドゥスが、砕けた壺の破片を拾い集めて泣き叫んでいる隙に、三人は玉座の裏側へと回り込んだ。そこには、隠された通路――次の階層へと続く階段があった。


「逃がすか……! 弁償しろ! 命で払えぇぇぇッ!」


 我に返ったアヴァグラドゥスが、背後から黄金の触手を伸ばしてくる。怒髪天を衝く勢い。


 だが、灯は走りながら、懐から取り出した「何か」を後方へ放り投げた。


 それは、空っぽになった「わかば」の箱。


「くれてやるよ! ……『東洋の吸血鬼が愛した、最後の嗜好品』だ! プレミアもんだぞ!」


「なっ……!?」


 アヴァグラドゥスは、反射的に触手を伸ばした。 「希少な供物」と言われ、蒐集家としての悲しき(さが)が反応してしまったのだ。 ゴミか宝か判断するよりも先に、キャッチしてしまう。


 触手が空箱を丁寧に掴んだ。 その一瞬の遅れが、決定的な差となった。


 三人は階段を駆け下り、重厚な鉄扉を内側から閉ざした。


 ドォォン!


 扉の向こうから衝撃音が響くが、もう追ってはこれない。彼は、散らばったコレクションの整理と修復に追われ、ここを離れることはできないだろう。


「……ははっ。あんな顔、初めて見たぜ」


 チャーリーが、膝に手をついて笑う。


「命より金が大事たぁ、いかにも強欲の王らしい末路だ」


「殺すよりも残酷な仕打ちかもしれん」


 ルシウスも、呆れたように肩をすくめた。


 灯は、空っぽになったポケットを叩き、暗い階段の先を見据えた。


「……行こうぜ。ここはカビと金の臭いで鼻が曲がりそうだ」


 物理的な勝利ではない。だが、彼らは魔王の「執着」を逆手に取り、無事に難所を切り抜けた。一番大切な記憶を守り抜いて。


 階段の先からは、冷たく湿った空気が漂ってくる。 魔界脱出の旅は、まだ始まったばかりだ。

自分が読みたい物語を書いています。

可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。

(制作に関してAIを利用しています)

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