第四話「純白の箱庭」2
第二章 殺した愛
「……わかってないわね、祈」
融合人格『クリス』は、悲しげに、そして慈悲深く微笑んだ。 その表情には、白雪美流愛の持つ姉としての愛情と、亞莉愛と華琉愛の持つ盲目的な純粋さが混在していた。 彼女は、太腿のホルスターから改造ペンライトを引き抜く。 ジャキッ、という音と共に、青白い光刃が展開される。
「そんなものは幸せじゃない。……ただの『逃げ』よ。アンタは、自分で自分を殺そうとしているだけ」
「違う! 私は……!」
祈が、透にすがりつきながら叫ぶ。 その声は、理屈ではなく感情の爆発だった。 ここで否定されたら、私の全てが壊れてしまう。 そんな恐怖が、彼女を突き動かす。
「可哀想な子。……目を覚まさせてあげる」
クリスが踏み込んだ。 速い。瞬きする間に間合いを詰め、透の首を跳ね飛ばそうとする。幻影ならば、これで霧散するはずだ。 この世界に、この男が存在すること自体が「エラー」なのだから。
だが。
ガギィン!!
硬質な音が響いた。 透の腕が、異形化していた。人間の皮膚が裂け、下から現れたのは、白銀の金属と骨で構成された巨大な「翼」のような刃。それが、クリスの光刃を受け止めていた。
「……僕たちの幸せを、邪魔するな」
透の声が、ノイズ混じりの重低音に変わる。ボコボコと背中が膨れ上がり、無数の翼と触手が噴き出した。 顔半分が崩れ、その下から天使のような、悪魔のような、複眼の怪物の顔が覗く。
『守護天使』。
祈が深層心理で望んだ「私を絶対に守ってくれる存在」。「傷つけないで」「助けて」という願いが、透の姿を借りて顕現した姿。 それは、かつてのアストエルで見た天使王メタリオンよりも、遥かに歪で、個人的な執着に満ちていた。
「うおおおおおッ!!」
透が咆哮し、翼を振るう。衝撃波がクリスを吹き飛ばす。
「くっ……! 物理干渉力が高い……! 精神世界での想像力が、そのまま質量になっている!」
鉄鏡花がサブアームで防御するが、防ぎきれない。ここは祈の世界。 彼女が「透さんは強い」「透さんは私を守ってくれる」と信じれば、彼は無敵の怪物になる。この世界において、祈の認識こそが絶対的なルールなのだ。
「やめて! 透さんを傷つけないで!」
祈が叫ぶ。 彼女の叫びに呼応して、純白の空間から無数の鎖が出現し、クリスと鏡花を拘束しようとする。自衛本能。 祈自身が、助けに来た仲間を「敵」と認識し、拒絶しているのだ。
「厄介ね……! 祈が彼を肯定する限り、彼は不死身よ!」
クリスは、双子の連携で鎖を切り裂きながら、透の攻撃を回避する。だが、反撃できない。 透を傷つければ、祈の心が傷つく。祈が傷つけば、この世界そのものが崩壊し、彼女の精神は二度と戻らなくなる。 手詰まりだ。
「鏡花! どうするの!? このままじゃジリ貧よ!」
クリスが焦燥の声を上げる。 美流愛の人格が冷静さを保とうとし、双子の人格が暴走しそうになるのを抑え込む。 (祈を傷つけずに、この怪物を止めるなんて……!)
だが、鏡花は冷静だった。彼女は戦闘に参加せず、後方で携帯端末を操作していた。 戦っているのではない。 解析していたのだ。 この完璧な箱庭を構成する「嘘」の綻びを。
「……荒療治が必要だ」
鏡花は、義眼を光らせた。
「祈。……お前は知っているはずだ」
鏡花が、戦場の中央へ歩み出る。透の攻撃が彼女を襲うが、彼女は義眼のジャミングで軌道を逸らす。 一歩も引かずに、祈を見据える。
「お前は、自分の手で彼を殺した。……その感触を、忘れたわけではあるまい」
「やめろ……言わないで……!」
祈が耳を塞ぐ。 聞きたくない。思い出したくない。 あの日、雨の降る神宿の路地裏で。自分の手の中で冷たくなっていった透の体温を。 自分の犯した罪を。
「忘れるな。……お前が背負った業を、綺麗な嘘で塗り固めるな!」
鏡花の声が、冷徹に響く。 彼女は、右手のコネクタを、祈の足元の「白」に突き刺した。精神世界の深層、封印された記憶領域への強制アクセス。
「強制接続。……ログ再生」
鏡花は、エンターキーを叩いた。祈の記憶の深層に埋もれていた「真実」のデータが、世界を塗り替えていく。
自分が読みたい物語を書いています。
可能な限り更新できるようにしていきたいなぁと思っています。
(制作に関してAIを利用しています)




