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同居

 俺たちが進路指導室に呼ばれて数日後。


 佐藤流人、高校3年生男子の俺は築15年の自宅一軒家のリビングで目の前の光景に戸惑っていた。

 俺の目の前には大きなスーツケースと残念系美少女で俺の嫁である環珠稀、高校3年生女子がいた。



「りゅうと、今日からお世話になります」



 珠稀が床に正座して俺に頭を下げるが、俺の頭は疑問符である「?」でいっぱいだ。



「珠稀、悪いが俺にはさっぱり意味がわからないんだが」

「ああ、そういえばまだ流人には言ってなかったか、今日から珠稀ちゃんが一緒に住むことになったから、仲良くするんだぞ」



 そんな重大発表を缶ビール片手にさらりと言ってきたのは佐藤源一郎(40)、うちの父親だ。

 商社に勤めていて家ではいい加減な奴だと思ってはいたが、こいつのいい加減さも俺の予想以上だったようだ。



「おいおい、俺は聞いてないぞ」

「そりゃ、流人には今初めて言ったからな」

「くっ、父さんじゃ話にならん。なあ、母さんはそれでいいのか? いくら俺と珠稀が夫婦とはいえ、年頃の高校生男女が同じ家で暮らすだなんて」



 夫婦だからなんかOKぽいが、ここは高校生男女ってことを強調させてもらいながら、夕食の準備をしていた俺の母親、佐藤由美(36)に声をかけてみる。

 俺の母親は髪をサイドテールにしたおっとり系。

 とはいえ、女性で母親だし、この危険性を少しは理解して欲しいと思ったんだが、俺の願いは残念ながら届きそうにはない。

 母親はフライ返しを手にキャッキャしながら楽しそうだ。



「お母さんは大賛成よ。珠稀ちゃんみたいに可愛い子が家の中にいるなんて、気分が華やぐじゃない。それに一緒に暮らしてるほうが、いろいろそっち系のハプニングもあって孫の顔も早く見れそうだし」



 そっち系のハプニングって、母さんいい歳して漫画とかの見すぎだろ。

 そんなことが起こったところで、俺にその気がなければ絶対に子は出来ないはずだ。



「そんなことを言ってて、もし俺たちに子が出来たら、母さんはバアちゃんって呼ばれることになるんだぞ」



 俺の頸動脈の数ミリ横。

 そこを母親がノールックで放った果物ナイフが通りすぎ、俺の背後の壁に突き刺さった。

 えっ、何、俺、今一歩間違えば死ぬところだったんだけど!?

 驚愕の表情をしている俺を一切気にすることなく母親が俺に告げる。



「大丈夫よ。私のことは、ちゃんと由美ちゃんって呼ぶように教え込むから」

「バアちゃんは、ダメなんだ」

「あまりのショックに手元が狂ってもいいなら存分に呼んでいいわ」



 うん、母さんはマジだ。

 顔は笑顔のままだけど目は笑っていない。

 というか、実の息子の頸動脈に向かって果物ナイフを投げるほど嫌なんだ。

 自分の息子が未成年で親になるのは歓迎するくせに、自分はバアちゃんと呼ばれたくないってのは我が儘じゃないんだろうか。

 自分の母親とはいえ、女心はよくわからん。



「そうか、珠稀ちゃんが一緒に住んだら、流人だけでなく、俺ともハプニングがあったりしてな、あはは」

「大丈夫、そうなった場合は削ぐから」

「ちょっ、由美、お前削ぐって、俺の何を削ぐんだ!?」

「それはご想像にお任せします」



 母さんは父さんにニッコリ笑いかけているが、わりとマジだと思う。

 酔いが覚めて顔色が赤から青に転じた父親が少し憐れに見えるが、まあ自業自得だな。



「とりあえず、珠稀ちゃんの同居、これは決定事項だ。異議は受け付けん」



 父親からの最終宣告。

 おかしい。

 俺の周りは珠稀の夫であり、最重要当事者でもある俺の意思をなんだと思ってるんだろう。

 俺はもう1人の最重要当事者である珠稀のほうをチラリと見る。



「珠稀、お前は……って、聞くまでもなく嬉しそうだな」

「うん。だって、りゅうとのそばに居られるんだよ。嬉しくないわけがないよ」



 珠稀が満面の笑顔でそんなことを言ってくる。

 珠稀はいろいろ残念なところはあるが、誰もが認める美少女だ。

 そんな美少女に真っ直ぐに言われると正直返答に困るんだよな。

 珠稀は俺の嫁だし、教頭や学年主任にも俺が面倒を見る的なことを言ってしまったし、同居は俺が反対したところでもう決定したことなら仕方ないと思おう。

 ラブコメではよくありがちな展開だし、その主人公たちの気持ちになって、ちょっとでも楽しんでみるとするか。



「珠稀、お前の荷物、空いてる客間に移動させるぞ」

「りゅうと、ありがとう」



 そう言って、珠稀のスーツケースを動かしたときに、カパっとスーツケースが全開になり中身が飛び出した。

 色とりどりの下着や着替え、勉強道具の他に趣味の小物類が散乱する。



「悪い」

「荷物を詰め込みすぎてた私も悪いんだし、大丈夫だよ。それより、ねえ、りゅうとはどの下着が好み?」

「珠稀、そこは俺に見せつけるんじゃなくて普通は恥ずかしがって隠すとこだと思うぞ」

「夫婦なのに?」



 まあ、夫婦だしいいのか?

 よくわからん。

 そんなことを思っていると、散乱した荷物の中に見慣れない白い薬物を発見する。

 まさか、珠稀の奴、違法薬物に手を出しているんじゃ!?



「珠稀、なんだこれは?」

「ああ、だめー、それはりゅうとに飲ませるように用意した強力媚薬と睡眠薬なの」

「よし、ゴミだな。没収」

「えー」

「えーじゃない。他にも何かないか徹底的に調べさせてもらうぞ」

「りゅうとのエッチ」

「下着を見せつけてきた奴のセリフじゃないな」



 俺は珠稀の荷物を漁っていく。

 手錠、猿轡、鞭にろうそく。

 ベビー服(大人用)。



「とりあえず、これらのゴミは全部没収な」

「ひどい、りゅうとに喜んでもらうために一生懸命に準備したのに」

「珠稀ちゃん、大丈夫よ。いざとなれば私たちの使ってるのを貸してあげるから」

「ごめん、母さん。息子としてそれは要らない情報と気遣いだ」

「ほら、りゅうと、お義母さんもそう言ってくれてるし、きっと蛙の子は蛙だから大丈夫だよ」

「おい、珠稀、そのことわざを作った人物に謝れ。それと俺にはそんなアブノーマルな趣味はないということをゆっくりじっくりと説明する必要があることだけはよく理解できたぞ」



 学年最底辺の学力の珠稀に教えるには時間がかかるだろうし、その時間がたっぷり確保できるなら案外同居も悪くないかもしれないと俺は思うことにした。





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