生徒指導室
佐藤流人、高校3年生男子。
俺は職員室に呼び出されると、そこで生徒指導室に行くように言われ、生徒指導室の前まできていた。
俺の隣で、ムムムと軽く憤っているのは俺の嫁の環珠稀、高校3年生女子。
俺の嫁……おそらく、これが今回俺たちが職員室に呼び出された理由だ。
「佐藤と環です。失礼します」
「ようやくきたか」
入室してきた俺たちを難しい顔をした50代の白髪をオールバックにした教頭と、厳しい目付きでビシッと隙なくスーツを着こなしながらも未だに20台後半との噂される女性学年主任が出迎えてくれる。
おわ、空気が重っ。
もしもこの空間に擬音をつけるなら、ゴゴゴ、若しくはズーンって感じか。
うん、そりゃ自分の高校の生徒同士がいつの間にか結婚していただなんて、先生たちにとって歓迎って訳にはいかないよな。
さて、先生たちにどう切り出すか。
やはり、俺たちはアホな親の被害者ってことで同情を引くって方向が無難だろうか。
俺がそんな考えを張り巡らしているとも知らず、バカが勝手に動き出す。
珠稀が飛び出し先生たちに食ってかかりやがった。
「先生、私たちの結婚に何か問題があるんですかっ!」
おいおい、いきなり言ったよ、このバカ。
珠稀の言葉を聞き、教頭と学年主任の顔がさらに強張る。
「やはり、君たちは本当に結婚をしているのかね」
「環さん、高校生が結婚ということは、現代日本において普通に大問題なのですよ」
教頭が溜め息をつき、学年主任が珠稀の言葉に落ち着いた声で諭すように反論する。
久し振りの常識ある大人の言葉と反応に、不謹慎ながらも俺は心がジーンと震えるのを感じた。
そうだよ、普通は大問題なんだよな。
先生、もっと言ってくれ、俺もその通りだと思っていたよ。
俺自身が渦中の人だから発言は控えたが、俺は心の中で大絶賛しておいた。
「君たちの親御さんたちは知ってらっしゃるの?」
「もちろん。それどころか、その親たちにけしかけられて、この俺たちの現状があるんです」
「そんなことって」
「わかります。そりゃ動揺もしますよね」
そりゃ、俺もさんざん動揺したし、普通はそんな反応にもなるだろ。
俺がうんうんと納得していると教頭が口を開く。
「君たち、まさか夜の営みなどは……」
おい、教頭、深刻な顔してなんて質問してきやがる。
このエロ親父め。
「俺たちにそんなことあるわけないですよ。そもそも結婚したといっても一緒に暮らしてさえいないんですから」
「そうですよ。私たち別居婚なんです。だから、たま~に夜中に忍び込んで、寝ている流人の匂いを嗅いだり添い寝をしたりしているだけですよ。……まあ、ほんとに極たま~には流人の服に手を入れて温もりを感じたいな~なんて時もあるんですけど、大丈夫です。ちゃんと上半身で我慢してます」
ん? 珠稀の奴、なんて言った?
なんか、いろいろスルーできない内容が聞こえたような気がしたんだが。
「おい、珠稀、ちょっと待て。俺はお前がそんなことしていたなんて知らないぞ」
「あれ、ちゃんとお義父さんとお義母さんの許可は取って上がらせてもらってたよ」
「おい、俺の許可は?」
「お義父さんたちは早く初孫が見たいっていってくれてるんだけど、まだ私の覚悟が決まらなくて」
「だから、俺の許可と覚悟は?」
「大丈夫、覚悟って言っても生む方の覚悟じゃなくて、流人を子供にとられる方の覚悟だからね。だから、もうちょっと2人での新婚気分を味わっていたいし、妊活はもう少しだけ先にするね」
おかしい。
俺と珠稀との会話が噛み合わない。
夫婦として、これは問題だろ。
「すまん、珠稀、お前の言った大丈夫って言葉が、俺の知っている大丈夫って言葉と同じ意味なのか疑わしくてしょうがないんだが、とりあえずどういうことだ?」
「だから、りゅうとにいつでも夜這いを掛けられるように避妊用品の準備はバッチリだよ」
はたして、夫婦でのそういう行為をすることを夜這いということが正しいのかを俺は知らないが、俺の知識と常識でもこれが教師たちの前で教え子たる高校生の男女がする会話ではないなということは理解できた。
……って、珠稀へのツッコミで忘れてたけど、そういえばここは生徒指導室だった。
俺はゆっくりと教頭と学年主任の方を向く。
「君たちとゆっくり話をする必要がありそうだね」
「どうやら、そのようですね」
今にも血管がプチッといきそうな立派な青筋を浮かべた教頭と学年主任を相手に、俺たちはみっちりと事情聴取されることとなった。




