松畠先輩とポータブルテレビ
レンタルショップの扉を開けると、夏の空気が盛大に歓迎してくれた。
未だ不機嫌そうなみづきと共に、セミも鳴かない通学路へ出る。
すると、斜め向かいのコンビニ、その前に人が集まっているのが見えた。
青い看板の軒先、そこに置かれたベンチに座った弥生塚さん。
自動ドアから身体を半分ほど出した松畠先輩。
そして、地べたに座り込んでビールを飲んでいる清夜歌先生。
3人の視線は、弥生塚さんの持つ、小さなモニターみたいなものに注がれていた。
「こんにちは!
鏡花さん、松畠先輩、先生!
……もしかして、何かの撮影ですか!?」
その様子を見て目を輝かせ、みづきが駆け寄っていく。
どうやら、変な音の事は頭から飛んでいったみたいだった。
「あ?……ああ、山根に有坂かぁ。
……勉強、おつかれさん」
そう言って、ひらひら手を振る清夜歌先生。
その周りにはすでにビール缶が数個、陣取りのように置かれていた。
弥生塚さんも、こちらを見て軽く微笑んでみせた。
「こんにちは、2人共……昨日、ポータブルテレビをみつけたのよ」
と、弥生塚さんは手にした物を示す。
「……あれ?
でも、テレビって……」
確かうちのテレビも教室のもカラーバーになってて、放送とかしてなかったはずだ。
けれども、僕の言葉を制して、弥生塚さんが続ける。
「うん、つかない。
これも、見れなかった。
……でも、故障の可能性もあるでしょ?
彼女、直せるらしいから……」
そう言って、松畠先輩の方を見る。
「……いや、あくまで、一般的な範囲でだよ。
専門とかじゃないし。
それに……直らなかった」
頬をかきながら、先輩はそう口にする。
「たぶん、このテレビの問題じゃなくて送信側……例えば、放送局や中継局の機械が原因かもしれないね」
「もしくは、発信する人間側に、問題が発生した、とかね」
弥生塚さんのその言葉に、松畠先輩は肩をすくめてみせた。
「物は言いよう、だね。
まあ、もう、できる事は無さそうだし、私は仕事に戻るよ」
そう告げて、店内に戻る先輩。
弥生塚さんは、その背中をじっと見つめていた。
「すいません、鏡花さん、テレビお借りします」
「え? あ、どうぞ」
鏡花さんからテレビを受け取り、興味深そうに覗き込むみづき。
その画面はカラーバーだけが映っている。
電波でも探してるのか、テレビを手にぐるぐる回りだしたみづきを放っておいて、僕は弥生塚さんに尋ねた。
「……どうかしたんですか? 弥生塚さん。
テレビがつかない事なんて、前にも試したじゃないですか」
「まあ、そうなんだけど……あの時受信しなかったからって、今受信しないとは限らないじゃない?
現にYouTubeにはアップできるし、ラジオも受信自体はしてるじゃない……
まあ、YouTubeは再生数もコメントもほぼ増えないし、私以外誰もあげないけど」
しかも、話をすり合わせた結果、増えていた再生数もみづきが見た分だと、ついこないだ分かったばかりだった。
そして、同じくラジオも全くの無音や、何かしらの機械の動作音、あるいはただBGMだけが流れる局のみで……僕ら以外の人の声は、世界から一切、聞こえなかった。
「……あと、そうね。
この異常さを見せたら、何かしら思うところがあるかも、って考えたのよ」
弥生塚さんの遠回しな言葉に、首が傾く。
どういう事だろう?
「……よーは、鏡花ちゃんは松畠の事を心配してんのさ。
現状、あんまりにも……クソ真面目すぎだろ?」
「ラトウィッジさん、少し言葉が……」
弥生塚さんの言葉に、先生は「大丈夫だよ、あいつだってわかってる」とだけ言い、またビールを口にする。
「……まあ、ともかく。
2人とも、松畠さん、気にしてあげてね」
それは……
「もちろんですよ」
僕とみづきは、そう頷いた。




