みづきとホラービデオ
シャワーを浴びたいと、プール棟へ消える真亜智先輩。
それを見送って、僕は校門へと向かう。
「あ、ユウくん!」
「みづき……?」
校門を出たところで後ろから声をかけられる。
見ると、門柱にもたれかかる体勢で、みづきが立っていた。
「あれ?
ごめん、待ってたの?」
「ううん、そうじゃないけど。
写真、撮ってたの」
「そうなんだ……一緒に帰る?」
「うんっ!」
みづきは頷き、そして僕らは2人で歩き出した。
「それで、撮れたの?」
僕の言葉に、彼女は悲しそうに首を振る。
「今日もダメだったよ……理科室、ビビっときたし、いい雰囲気だったんだけどなぁ……」
やはり、幽霊は写らなかったらしい。
「どうする?
どっか寄って、撮ってく?」
そう言って、腕の時計を見る。
日暮れまでにはまだまだ余裕があった。
「ううん、今日は帰ってお菓子作る」
「あ、真亜智先輩が砂糖……」
「うん、持ってきてくれたんでしょ?
マナちゃんが受け取ったって聞いたよ。
だから、キャンディーとクッキー作ろうと思って」
なるほど、さすがはマナちゃんである。
情報伝達がはやい。
「じゃ、今日は鑑賞会はお休みなの?」
「違うよ、それは別腹だもん!
さ、ビートルジュース、寄ってこ!」
ビートルジュースは通学路沿いで唯一のレンタルショップだ。
ホラー好きな店主のおじさんの個人経営で、和洋問わずのホラーの品揃えが売りだったそうだ。
もちろん、それ以外にも色々な映画が置かれていたけれど。
少し重い扉を開ける。
ビートルジュースの中は、昨日と全く変わらずクーラーが効いてて、無機質な蛍光灯も、寂しく店内を照らしている。
レジ横のテレビでは『衝撃!あなただけが知る心霊写真!』がリピート再生されていた。
もちろん、おととい、みづきが点けたDVDだ。
「今日は何借りてくの?」
「えっと……しん祟の30と、37、38、39がいいかな?
久しぶりに『教師のビデオテープ』が、見たくって……」
そう言いながら、みづきは昨日借りたDVDを戻して、目的のDVDを持ち出していく……ちなみに、しん祟というのは、『真実だった!祟りのビデオ』というホラードキュメントシリーズだ。
その歴史は長い、とみづきが豪語する通り、ショップの棚には100本以上のシリーズが並んでいた。
その中から取り出された4本をレジまで持っていき、僕とみづきは深々と頭を下げた。
「今日もお借りします」
そう言って、50円玉4枚をレジに置かれたコンビニの袋に入れる。
……これも、みづきが設置したものだ。
「……前から思ってたんだけど、一本50円って儲けあったのかな?」
「……おじさんも儲からないって言ってたよ。
半分、道楽みたいなもんだって……」
「道楽、また、できるといいね……」
僕の言葉に、彼女は静かに頷いた。
「……じゃ、行こうか?」
「そうだね」
しんみりした空気を振り払うように、あえて笑顔でそう口にする。
そして、みづきと2人、外へ出ようとして……ガタンっと、何かが動くような音がした。
みづきと顔を見合わせて、店内を見回す。
……再びカタカタという音がして、みづきは目を輝かせて、棚の森林へと駆け込んだ。
「待って、みづきっ!」
慌ててその後を追いかける。
……僕の不安をよそに、みづきの姿はすぐ見つかった。
まあ、狭い店内だ。
当たり前だ。
「大丈夫、みづき?」
「……ここ。
ここから音がした……今日こそ、撮れるかも!」
みづきは心底楽しそうな笑顔を見せる。
彼女が指差すそこには、ピンクの暖簾がかかっていた……18禁。
「……よし、帰ろうか、みづき」
「え? なんで!?
写真だけ撮らせて!?」
ダメです。
ブーブー言うみづきを引っ張って、ビートルジュースを後にした。
……例え、幽霊が居たとしても、あの中では撮られたくないだろうしね。




