スーパーメイドと膝枕
午後。
ふわふわと出ていくみづきを見送って、僕は1人、勉強を続けていた。
今は数学の時間。
……別に、時間割に従う必要はないんだけど、その方がわかりやすいし、モチベーションが保てそうな気がした。
問題集を解きながら、ふと視線をあげる。
みづきが黒板に書いた、『自習』の文字がボヤけて見えた。
「少し休むかな」
「なら、この目薬を使うといい……
温めたタオルも持ってきた」
そう言って目薬と蒸しタオルを差し出すマナちゃん。
なぜか、教室の窓からの登場だった。
「ありがと、マナちゃん……でも、3階の窓から入らない方がいいと思うよ」
あぶないし。
「問題ない。
スーパーメイドニンジャだから」
なら大丈夫か……
マナちゃんから目薬と蒸しタオルを受けと……ろうとしたら、なぜかかわされた。
彼女はそのまま床に正座すると、ポンポン、と自分の太ももを叩いた。
「……いや、それ、脚痛いでしょ?」
「問題ない。スーパーメイドニンジャの脚は鋼鉄でできてる」
それは枕に適さないんじゃないかな?
……彼女の太ももは柔らかかった。
目薬を差してもらって、ちょうどいい温度の蒸しタオルを目に乗せて。
僕は彼女の膝枕で休んでいた。
頭を撫でてくれる、彼女の手が心地いい。
ここが、教室だって事を忘れそうだった。
「……僕は、どうすればいいのかな?」
その言葉にマナちゃんは無言だった。
けど、ちゃんと聞いてくれてる事はよく、わかった。
「葉徳院さんの言いたい事もわかるんだ。
でも、それを今、1人で抱え込まなくてもいいんじゃないかなって……」
「……幸兎は、あの子を助けたい?」
「うん」
「そう……」
それ以上、彼女は何も言わない。
でも、僕自身の気持ちは決まっていた。
「おーい、有坂、いるかー?」
真亜智先輩の声がした。
慌てて身体を起こすと同時、教室のドアがガラリと開かれた。
「おー、いたいた、有坂と……メイドさん?」
「……有坂幸兎の妻です」
「あ、それはご丁寧に」
いや、違うからね。
「彼女はマナちゃん、僕とみづきの幼馴染です。
……一週間前は、紹介まではできてませんでしたっけ?」
僕の言葉に、真亜智先輩は「そう、だったね……」と呟いた。
「それより、どうかしたんですか?」
「ああ、そうだ。
昨日頼まれてた、お砂糖、山根に渡しそびれててさ」
そう言って、先輩は調達してきただろう砂糖の袋を差し出してきた。
「ありがとうございます、みづきも喜ぶと思います。
……マナちゃん、これ」
渡されたお砂糖を無言で受け取り、マナちゃんは教室を出ていった。
来た時と同じ窓から。
「……なあ、有坂。
あの子、窓から出てったように見えたんだけど」
「メイドでニンジャなんで」
僕の言葉に、先輩は「そうか」とだけ応えた。




