葉徳院さんと描きかけの絵
7月の1日。
あの日の朝、普段通りに起きた僕らは人がいない事に気がついた。
通学路、商店街、学校、公共施設。
いたのは、僕以外は8人の女の子だけ。
その中には、たまたま街の外から来ていた弥生塚さんと、
同じくたまたま、この街近くの別荘に来ていた、葉徳院さんもいた。
その後、みんなで街じゅうを探索して、それ以外の人が見当たらない事を確認した僕らは、とりあえず日常を維持する方針に舵をきった。
というのも……
「……おちついた?」
あの後、周りの物を手当たり次第に壁に投げていた葉徳院さん。
けれど、絵筆を手にした瞬間に動きを止めて、そのままへたり込んでいた。
そこにコーラを渡して声をかける。
彼女はコーラを受けとると、喉に一気に流し込もうとして咽せた。
「だ、大丈夫?」
「……さわらないで。
大丈夫、だから。
……ごめんなさい、頭おかしいは、言い過ぎた」
「……いや、僕こそごめん。
無神経だった。
でも、みんな何も考えてないわけじゃないよ?
真亜智先輩達だって……」
「知ってる。
物資調達してるんでしょ?
山根さんから聞いたわ」
どうやら、みづきもここに来ていたらしい。
まあ、彼女らしい行動だった。
「物資の方は目処が立ってるし、保存だってどうとでもなるよ。
だって、冷蔵庫と冷凍庫も動いてるんだし」
そう、確かに街から人は消えていた。
けれど、電気は点いたし、水道も止まっていなかったのだ。
もちろん、トラックとかは走ってないけど、今のところは9人が生きるのに問題は無かった。
「……電気や水が止まったら?」
「もちろん、そこんとこも考えてるよ。
とりあえず、日持ちしない物から消費するとか……弥生塚さんの提案でね」
まあ、2日目早々のバーベキューはそれ以外の理由もあるだろうけど。
「だから、大丈夫。
このまま生き延びよう。
もしかしたら、案外、救助とか来るかもしれないし。
よく言うでしょ?
こういう時は、その場に留まった方がいいって。
それに……もしかしたら、みんな帰ってくるかもだし。
まだ一週間だから、ね」
そうだ。
あんなに探したのに、誰もいなかったんだ。
生きてる人も、それ以外も。
なら、突然消えた人達が突然現れる可能性だって、あるはずなんだ。
僕の言葉に彼女は応えず、ただ描きかけの絵を見つめている。
その誰かの肖像は、最初に見た時と変わらず顔が描かれていなかった。
「……戻るって根拠は?
もう、一週間なのよ?
本当に、この街にこもってていいの?
私達は外を目指すべきじゃ……」
「……葉徳院さん?」
彼女は、ただただ無言だった。
のそのそと立ち上がると、投げた物を拾い始める。
僕も手伝って、数分もしないうちに美術室はほぼ元の通りに戻った。
壁には赤絵の具の華が咲いていたけど。
「……ねえ、葉徳院さん」
「ごめんなさい、1人にしてほしい。
……おねがい、今日は、出てって」
彼女はそうにべもなく呟いて、僕は彼女の城から追い出された。




