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崖っぷちの僕ら  作者: 茜想作
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3/15

プロローグ3 7月6日

放課後。

あの後、絵に集中し始めた葉徳院さんと別れて、午後の勉強を終わらせて。

教室を出た僕は、靴箱を目指していた。

ちなみに、みづきは部活で幽霊探しだ。

住宅街を撮影しながら帰ってるんだろう。


茜色に染まった廊下を歩いていると、小柄な影がふらふらさまよっているのが見えた。

「ありさか〜」

彼女はこちらに気がつくと、すごい勢いで走ってくる。

そして、僕に頭突きをする様に抱きついてきた。

痛い。

みぞおちに当たった。

見た目通りに軽いから、我慢できるレベルだけど。

それでも痛いのは痛かった。

「聞いてくれよ〜、白峰があたしに酒をやめたら?って言うんだよ〜」

少し苦しむ僕を気にせず、こちらを見上げて、泣き真似をする酔っ払い。

小学生にしか見えない彼女は、清夜歌・ラトウィッジ。

一応、この学校の先生だった。

「……清夜歌先生、街の東を探索に行ったんじゃ?」

「ちゃんと終わったよ……なのに怒られた!

あたしは、昨日からずっとビールをガマンしてたのにさ!

終わったのを見計らって飲んだら叱られたんだ!」

「どのタイミングで飲んだんですか?」

「もちろん、学校に戻って、車降りたタイミングだよ」

校内で飲んだなら当たり前かもしれない。

「いいか、有坂。

酒はなぁ、先生の人生なんだ!

酒を止めろってのは、先生に人生捨てろって言う様なもんだぞ!

人生はそんな簡単に捨てらんねーだろ!?

ドロップアウトしたって大丈夫だからって、ドロップアウトしろって事じゃないんだよ!?

決められたレールが悪いんじゃない、落ちたら戻りにくいのが悪いんだ!

だから、先生が酒を飲んだからって、説教して矯正するこたぁないんだよ!」

先生は、あいかわらず訳の分からない事を言っていた。

「そーだよっ!あたしは自由なんだよ!

もはや、がっこーにもあたしは止められないってのにさぁ〜、こいしはさ〜。

そもそも、あっちで鏡花(きょうか)ちゃんと合流したんだから、飲んでもいいじゃんか。

大学生で免許も持ってんだし」

「さすがに、弥生塚(やよいづか)さんに負担をかけるのは……」

そうでなくてもいそがしい人だし。

「えー、あたしなら負担かけてもいいのか?

ええのんか?」

まあ、毎日朝から晩まで飲んでるだけだから……別にいいと思う。



ベロンベロンな先生を保健室に送って、僕は改めて帰路につく。

右腕の時計は16:30と表示していた。

道中、レンタルショップによってDVDを借りる。

『しん祟75』と『YYY(トリプルワイ)04』、『リンクエラー〜消された動画〜2』……どれも、みづきのリクエストだ。

ここ最近は毎晩、実録系心霊動画の鑑賞会をするのが、僕らの日課になっていた。

おかげで、僕まですっかり幽霊ものに慣れてしまったのはどうかと思うけど。

……まあ、ジャンプスケアの講義とか、怖さの解説とかはやめてほしいかな。

『この人、化粧でごまかしてるけど、しん祟26のトイレからみつめる霊と同じ役者さんだね!

輪郭と鼻、耳の形がおんなじだもん』

とかみづきに言われたら、怖くなくなるし。


……さて。

レンタル屋(ビートルジュースって名前だ)での用事は済んだ。

家に帰れば、マナちゃんが夕飯を作ってるだろう。

けれど、なんとなく間食したい気分もあった。

「……夜食も手に入れとくかな?」

鑑賞会用と夜の勉強用にね。

というわけで、僕はレンタルショップから斜め向かいのコンビニに移動した。

みなれた青の看板ロゴ。

その下の自動ドアを潜ると、ちょうどいい冷気が出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ」

と、レジの向こうで松畠(まつはた)先輩が声をかけてくれた。

「お疲れ様です、松畠先輩。

……今日も勤務なんですか?」

「……ああ、君も知っての通り、人手不足でね」

そう、先輩は淡々と応える。

無造作にまとめた黒混じりの金髪にも、疲れが見える気がした。

彼女は、元々深陽の卒業生で、今はここでバイトをしている。

まあ、その辺の話は、僕も最近知ったんだけど。

ここ最近は、コンビニで見かける事が多かった。

適当に、ポテチとチョコ、コーラ、カップ麺を見繕う。

それらをレジに置くと、先輩は無言で商品を通しはじめた。

「……だからって、休んじゃダメなわけじゃないでしょう?」

「オーナーの許可がないからね……全部で1290円です」

……そういうものなんだろうか?

いつも通り現金でピッタリ支払って、僕はコンビニを後にする。

「ありがとうございました……気をつけて帰るんだぞ」

「……先輩こそ、倒れないでくださいよ」

そう応えると、先輩は定位置となったレジで、軽く笑みを見せた。



コンビニを出て家路を急ぐ。

右腕の時計を見ると、17時過ぎ。

空はオレンジで寂しく染まっていた。

家の近くの公園を抜けようとした時だった。

遊具を前に何かを撮影している二人組がいたのだ。

いや、正確には、みづきがタコ型滑り台を撮っていて、もう一人がそんなみづきをビデオに収めていたんだけど。

「みづき、弥生塚さん!

何撮ってるの?」

「あっ!おかえり、ユウくん!」

僕が声をかけると、みづきはうれしそうな笑顔でふりかえる。

そして、弥生塚さんもこちらに微笑みながら手を振った。

「Hello、幸兎くん、今帰りなの?」

「はい……みづきは、幽霊探しだとして、弥生塚さんは……本業の方、ですか?」

「本業は大学生の方だけどね」

彼女は弥生塚鏡花さん。

大学生でYouTuber、らしい。

この街には連休を利用して来てる、と6日ほど前に聞いたばかりだった。

「聞いて、ユウくん!

鏡花さん、すごいんだよ!

カメラもGoProとか赤外線カメラを持ってるし、ドローンも持って来てるって!」

「……飛ばせる状況は少ないけどね」

なかなか本格的らしい、僕はその辺詳しくないから、わからないんだけど。

ただ、みづきが興奮してる事はわかった。

「そうだ、幸兎くんも撮っていい?

みんなのインタビュー撮ってるの」

「ええ……それもYouTubeにあげるやつなんですか?」

僕の疑問に彼女はヒラヒラと手を振って否定する。

「ううん、今あげてるのは私が映ってるのだけ。

さすがに許可なくはアップしないわよ……

今撮ってるのは、まあ、記録ね」

「……記録」

「そ、私たちはここにいるって、ね……

なんで、お願いできる?」


弥生塚さんの言葉に首肯する。

すると、彼女は嬉々として、三脚とかを用意し始めた。

「撮るのは……そこのベンチがいいかな?

ちょっとライト当たるから、まぶしいかも。

ごめんなさい。

……みづきちゃんも一緒に映る?」

「えっと、わたしはそこで見てます」

そう言ってカメラに映らない場所に移動するみづき。

その目は、撮影機材を見てワクワクしていた。


「じゃ、まずは自己紹介からはじめようか?」

「ええと、有坂幸兎です。

深陽大付属に通う、2年生です。

夢は……全人類と友達になる事、ですかね」

僕の言葉に弥生塚さんは微妙な表情をした。

動画用に盛った、とか思われただろうか?

「すいません、子供っぽかったですかね?」

「……ううん、大丈夫。

本気なんでしょ?

……いい夢だと思う」

そう言って、彼女は先を促す。

「……趣味は夜空を眺める事です。

特に星、ですね。

最近は天気にも恵まれて、きれいに見えますしね。

……今は、幼馴染のみづきの家で居候中です」

「最近から?」

「昔からですよ、両親が不在気味なんで」

僕の言葉に、弥生塚さんは少し遠い目をした。

「弥生塚さん?」

「あ、ごめんなさい……続けましょうか」

その後、街の好きなところとか、色々話していたら、すっかり日が落ちてしまっていた。

「……ありがとう。

また、何か撮影の時は協力してね」

「いいですよ。

こないだバーベキューもご馳走になったし」

しかも、かなり高そうな肉だ。

口の中でとろけるのは初体験だった。

「あはは、また一緒に食べましょうね……

もう、日が暮れそうだし、そろそろ……」

「ありがとうございました、弥生塚さん」

「鏡花さん、またね!」

僕らに手を振って、弥生塚さんは帰っていった。

……おそらく、ふらふらしてるみづきに付き添ってくれてたんだろう。

本当に、カッコいい人だった。

「じゃ、帰ろうか?」

「DVD借りてきてくれた?」

みづきに無言でDVDパッケージを見せる。

彼女は心底幸せそうにぴょんぴょん跳ねて見せた。

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