古い祠と毒舌少女
生存者を見つけたと思ったら、その子に何故か罵倒されていた。
「え?あ?ご、ごめんなさい?」
「しかも、何が悪いかも理解していないにも関わらず、とりあえず謝ると。
典型的なアホか、貴様は」
なんだろう。
すごい毒舌な子だ。
下手したら、恋路ちゃんより下に見えるのに、態度はものすごく上からだった。
……でも、たしかに、失礼だったかもしれない。
「本当に、ごめん。
わざとじゃないんだ……
それで……君、今、困ってたりする?」
「見てわかるだろう?
はまっていて抜けん」
すごく困っていた。
「わかった、とりあえず引っ張ってもいい?」
「……さっきよりはマシだな。
いきなり触ったら、ひねりつぶすところだった」
うん、理不尽だね。
そんな事を考えながら、僕は彼女の手を取る……その、柔らかさと滑らかさに、少し頬が熱くなって、あわてて頭を振る。
「引っ張るよ?」
「思いっきりやれ」
壊れ物を扱う様に、おそるおそる引っ張ってみる。
抜けない。
もう一回。
ビクとともしない。
「……おい、貴様の思いっきりは、ティッシュを引き抜くくらいなのか?
箸より重い物を持った事が無いのか?
赤ちゃんレベルの握力しかないのか?
それとも力を入れただけで死ぬ、か弱い生き物なのか!?」
「そんな事はないよ?
でも怪我したら……」
「その身体の持ち主が構わんと言ってるだろうが!
お前は耳が遠いのか?
赤ちゃんじゃなくて年寄りだったのか?
それとも耳無し法一か?
普段は琵琶で弾き語り路上ライブでもしてるのか!?」
なんかすごい勢いで評価が下がっていた。
というか、例えがよくわからない事になっていた。
でも、確かに半端な力じゃダメみたいだ。
「ごめん、痛かったら言ってね」
「今度は歯医者か?
さっきからやれと言ってるだろ。
親知らずみたいに一気に抜け。
めんどうくさい奴め」
覚悟を決めて、彼女の両手を思いっきり引っ張る。
後ろに倒れ込む様に体重をかけていく。
……でも、動かない。
少し考えて。
罰当たりだけど、今度は祠自体を足で押しながら引っ張ってみた。
思いきり体重をかけて、反作用で抜こうとすると。
バキリ。
折れた!?
嫌な音に血の気がひく。
けれど、同時に抵抗が軽くなり、彼女の柔らかい肢体が僕に向かって飛び込んできた。
「だ、大丈夫!?
骨とか折れてない!?」
「……ああ、私は無事だ」
彼女の申告にホッとする。
それと同時。
メリメリというすごい音。
目を向けた先で、祠は崩壊した。
まるで役目を終えたみたいだった。
「ど、ど、どうしよう……ごめんなさい、神様……」
とりあえず誰かもわからない祠の神様へ謝罪する。
「問題ないだろ。
はまるサイズだったあれが悪い。
宮大工の設計ミスだ」
ものすごく理不尽だった。
というか、彼女がはまる様な事をしなければ、こうはなってない。
「そもそも、なんで、あんなところに入ってたの?」
相当狭いと思うんだけど。
というか、物理的に無理……とまではいかないけどきびしいと思うんだけど。
たぶん、彼女より小さい清歌先生でもギリギリじゃなかろうか。
「入っていた、か。
どうして祠に『入った』と思う?
もしかしたら祠から『入ってきた』かもしれんだろうが。
……そもそも貴様はどちらが内でどちらが外かどうやって定義するんだ?
もしかしたら、ここより祠の方が広かったかもしれんだろ?
いや、広くなくとも、私の定義ではそこは外だったのかもしれんぞ?
あるいは、中にある薬を飲んで私が巨大化した可能性すらある」
「いやいや、そんなわけ……」
恋路ちゃんみたいな事を言い出した彼女。
それに答えようと目を向けて……
僕は自分達の状態に気がついた。
地面に仰向けに寝転がった僕の腕の中に、同じく僕に身体を預けて倒れ込んだ彼女。
どう見ても彼女に押し倒されたみたいになっていた。
しかも、彼女の整った顔は僕の目の前にある。
その綺麗さと、身体の柔らかさを実感して、僕の頬はものすごい勢いで熱くなった。
そして、それと反比例する様に、彼女の顔は不機嫌そうに歪む。
「おい、貴様、その顔をやめろ。
その発情期を迎えた狒狒の様な顔だ」
そう言って彼女は、その柔らかい身体をモゾモゾ動かす。
やめてください、お願いします。




