その名は「隼」
底辺作家が書く底辺生活者の話
大体実話。
Xに載せてる散文をまとめています
「……よし」
奏は百均の財布を握りしめた。
半年。
やっと貯めた一万円。
これで自転車が買える。
玄米も。
業務スーパーも。
未来が変わる。
その時だった。
「お、なにそれ?」
「!?!?」
背後。
海斗。
「うわっ!? お前いつからいた!?」
「さっき」
最悪だった。
海斗の視線が財布へ落ちる。
「え、金?」
「違う!!」
「見せろ見せろ」
「やめろ!!」
だが遅かった。
海斗は千円札を見て、
目を輝かせた。
「うお!! 一万円!?!?」
「返せ!!」
「奏、金持ちじゃん!!」
「違う!! それは未来の僕の――」
海斗はニヤッと笑った。
「焼肉いこうぜ!」
「行かねぇよ!!!!」
「えーなんでー!」
「自転車買うんだよ!!」
「自転車?」
海斗は数秒黙った。
そして。
「……焼肉食ったあとでも買えね?」
「買えねぇんだよ!!!!」
颯太が後ろから現れる。
「いや無理だろ。一万円で焼肉行ったら自転車が“タイヤだけ”になる」
「タイヤあるならいける!」
「いけねぇよ!!」
奏は財布を抱えて後退した。
海斗は笑う。
「冗談だって」
「絶対違う!! 目が本気だった!!」
「まぁでも」
海斗はケラケラ笑いながら言った。
「お前が“自転車欲しい”って言ってるの、
なんかいいな」
「……は?」
「高校ん時のお前なら、
絶対そんなこと考えてなかったじゃん」
奏は少し黙った。
確かにそうだった。
あの頃は、
歩けばいいと思ってた。
終電逃しても笑ってた。
でも今は。
“楽になる”ために、
ちゃんと金を貯めている。
海斗は笑った。
「まぁ焼肉はまた今度な、雪森先生!」
「だからその名前やめろって!!」
◆
自転車屋の親父は、
油で汚れたタオルを肩にかけながら言った。
「まぁ中古だけどな。タイヤはまだいける」
奏は頷いた。
十分だった。
むしろ。
最高だった。
奏はポケットの中で、
ぺしゃんこになった百均の財布を握りしめる。
半年。
やっと貯めた一万円。
その結果が、
今目の前にある。
黒い中古自転車。
少しサビてる。
カゴも歪んでる。
でも。
「……これ、僕のか」
親父が笑う。
「おう。今日からお前の足だ」
奏は思わず笑った。
そのまま、
自転車を押して夏の道を歩く。
風が気持ちいい。
なんだか、
世界が少し広くなった気がした。
「これで……」
一番町の業務スーパー行ける。
奏の頭に浮かんだのは、
夢でも恋でもなく、
激安冷凍うどんだった。
◆
数日後。
奏の中古自転車は、
進化していた。
後ろ。
荷台。
そこに。
ガムテープで固定された、
スーパーのダンボール箱。
「…………」
奏は無言で結束バンドを締める。
理由は簡単だった。
業務スーパー。
安い。
だが。
重い。
冷凍うどん。
2リットルのお茶。
玄米。
猫砂。
全部積むと、
普通のカゴでは死ぬ。
結果。
ダンボール。
海斗はそれを見た瞬間、
腹を抱えて笑った。
「ダッッッッッッサ!!!」
「うるせぇ!! 実用性だよ!!」
「いや小学生のチャリかよ!!」
颯太は冷静に頷いた。
「でもコレ、結構積めるな」
「だろ?」
奏は少し誇らしげだった。
海斗はまだ笑っている。
「奏、お前そのうち軽トラみたいになるぞ」
「ならねぇよ!!」
だが。
翌週。
ダンボール箱は、
二段になった
気が向いたら読んでみてください。
カクヨムにも同じ話をのせてます。
よろしくお願いします。




