ろくでなし、花見に行く その5
底辺作家が書く底辺生活者の話
大体実話。
Xに載せてる散文をまとめています。
夕方。
海斗が帰ってきた。
両手いっぱいの荷物。
「おっも……」
「何買ってきたんだよ」
「ばあちゃんの買い物」
その後。
海斗の両親と兄も帰ってきて、
家は急に賑やかになった。
夕飯。
唐揚げ。
煮物。
炊き立ての白米。
豚汁。
しかも。
豚汁は、
汁より具の方が多かった。
「……すご」
奏は思わず呟く。
海斗の母が笑った。
「いっぱい食べなさいねぇ」
前給(猫)は。
海斗の母に抱かれ、
完全に骨抜きになっていた。
「かわいいねぇ〜」
「ニャ〜」
裏切り猫だった。
「ほんとこの子、昔から暴れん坊でねぇ」
海斗の母が笑う。
「迷惑でしょう? ごめんなさいね」
颯太が即答する。
「いえいえ! もう慣れてます!」
「なんでお前そんな自然なんだよ」
僕は半笑いでそのやり取りを見ていた。
なんだか。
変な感じだった。
他人の家なのに。
妙に落ち着く。
◆
帰り際。
事件は起きた。
海斗が突然言った。
「そうだ!」
嫌な予感。
「コイツ貧乏でさ! なんか食い物持たせてやってよ!」
「は!?」
奏は固まった。
「お、おい!!」
「いえ、あ、そんな!! 大丈夫ですから!!」
僕は必死に両手を振った。
みっともないくらい、
全力で遠慮した。
だが。
海斗の家族は、
なぜかニコニコしていた。
「若い子はみんなそうよねぇ」
止まらなかった。
玄米。
三十キロ。
野菜。
煮物。
漬物。
煮魚。
唐揚げ。
タッパー。
袋。
袋。
袋。
「いや多い!! 多いですって!!」
「いっぱい食べなさい〜」
「カイちゃん、積んでけ〜」
気づけば。
海斗の車は、
完全に“実家帰り仕様”になっていた。
◆
帰り道。
僕のアパート前。
海斗は荷物を下ろしながら言う。
「よいしょ」
颯太も珍しく静かだった。
そして。
二人とも、
部屋には入らなかった。
「じゃーな」
海斗が笑う。
「な?」
「……え?」
「来てよかったろ?」
その瞬間。
僕は、
その時やっと気づいた。
花見。
桜。
屋台。
全部。
ついでだった。
本当は。
これを、
持たせたかったんだ。
「…………」
僕は、
言葉が出なかった。
海斗はニヤリと笑う。
「大先生、ちゃんと食えよ」
車が走り去っていく。
春の夜風。
大量の荷物。
静かなアパート。
僕はしばらく、
その場に立ち尽くしていた。
前給(猫)だけが、
袋の中の唐揚げの匂いを嗅いでいた。
気が向いたら読んでみてください。
カクヨムにも同じ話をのせてます。
よろしくお願いします。




