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60 理想のフライパン


 山を登り、また下る。そんなことを繰り返すうちに木々を抜け人工的な道に出た。


「う~~~んっ。久々に平地に出た気がする!」


 すっかり魔女の恰好が定着しているミカが大きく伸びをしながら一番に飛び出していく。


「平地って、まあ気持ちはわかるけど。」


 たった一週間ほどしかミカの村には滞在していなかったのに、山を下るのがこんなにも久々に感じるとは思ってもみなかった。


 ひび割れたアスファルトから草木が根を生やし、倒壊した家屋。さび付いた匂いが風に運ばれてくる。


 世界が崩壊したことを思い出してしまう。


 悲しくて、せつなくて、でもなんだか少し懐かしくも感じて。


 そんな何とも言えない気持ちに浸っていると、ガタガタと倒壊した家屋の先から物音が聞こえてくる。


「う”う”う”ばぁ”あああぁあ”」


 一瞬身構えたエイタであったがその正体がゾンビだとわかるとほっと”気を抜いた”。


 ゆったりとした動きで、それでもゾンビからしたら必死にエイタ達を目掛けて迫った来る。


「なんかゾンビを見るのも久々じゃないか?」


 気楽に言葉を吐きながら一歩踏み込んだエイタは、次の一瞬で、


「う”っ?!?!?っぁぁば”あ”」


 ゾンビの心臓部分を殴りつけた。脆い体が弾け飛びその衝撃により後方へと吹き飛んでいく。


 ドチャっと地面にたたきつけられたゾンビは体を拉げさせもう動かない。


「・・・あ、あれ。」


 軽く殴ったつもりなのだが思ったよりも出てしまった威力に若干戸惑う。今ぐらいのパンチじゃ大男に傷一つつけられなかったから。


「エイタ君すっごい強くなってるね!私も負けてられないなぁ。」


 シュッシュとその場でシャドーボクシングを始めたミカが賞賛を送ってくれる。


「なにぼーっとしてるしゃめ。魔王軍幹部と戦えるようになりたかったら一撃で家くらい吹き飛ばせないと到底無理しゃめ。」


 ニイムからは厳しい指摘が。


「おーー!やるー!」


 くーねからは、、、適当だ。まあいいや。


 つい最近まであんなに苦労していたゾンビがこんな簡単に倒せてしまうとは、すこしは強くなったのだと実感する。


「それで、この先はどうするんだしゃめ?行先は決まってるのかしゃめ?」


 倒れて動かなくなったゾンビをツンツンと棒でつつきながらニイムが首を傾げた。


「え?ああ、行先か、、、そういえば決めてなかったな。」


「私はどこでもいいよ~」


 よしこれから行先を話し合おう!ってタイミングでさっそくくーねが考えることを放棄する。


 まあこの世界の立地とかも何も知らないから意見できないってこともあるだろうが。


「うーん。とりあえずは魔王に向かっていくってことでいいんじゃないか?一応目的なわけだし。」


「その魔王がこの世界のどこにいるかはしっているのかしゃめ?」


 ジト目を向けながらニイムが聞いてくる。そういえば俺もこの世界の事については全然しらなかった。大まかな地理は同じだと思うのだが。どこに魔王がいるかなんてこれっぽっちもわからない。


 魔王ってどこにいるんだろう。


「ちょっといいかな。」


 うむむむ~と腕を組みながら悩んでいるとミカが手を上げて注目を集める。


「どうした?」 


「えっと、行先なんだけど、まだ行かなきゃいけないところがあるというか、、、エイタ君もしかして忘れてる?」


「ん?なんかあったっけ?行かなきゃいけないところ。。。うーーん。」


 じと~っとミカの視線が突き刺さってくる。あれ~なんかあったっけ。やべえ覚えてない。汗汗


「えぇ忘れちゃったの?!家だよ家!私の次はエイタ君の家に帰るって話をしてたじゃん!」


「!!!!!」


「まさか本当に忘れてたの?!」


 本当に忘れてた。だっていろいろあったじゃん?本当にいろいろ、、、


「私たちの最初の目標だよ、、、まあいろいろあったけどさ」


 ミカに言われて思い出しはしたが確かに言われると気になる。自分の家がどうなってしまったのか。


 家族たちはどうなってしまったのか。


 くーねをみるとぽけ~っとこちらを見ていた。さて何を考えているのだろう。


 ニイムもまた口出しすることもなく俺の返答をまっている。


 どうやら行先を決めるのは俺みたいだ。


「わかった。よし、じゃあ行こう!俺の家!」


「おおー!!」


「よしっ!エイタ君のお部屋を見れるよ!」


 行先が決定してくーねとミカのテンションが上がる。へ、部屋は見せないからなっ!


「それで、そのエイタの家はどこにあるしゃめ。」


「あっ、」


 ニイムに水を差され気づいたことがある。


「そもそも、ここ、どこ?!」


 来た道とは明らかに違う場所から降り立った場所。ここは一体どこなのか。


 ミカを見るが無言で首を横に振った。ここがどこかは知らないらしい。


 くーねとニイムは言わずもがな。


「えっと、」


 誰も知らない。


「あーーー」


 ここがどこなのか!


「と、とりあえず歩いて手掛かりを探そうか!」


 一度考えることをやめたエイタはとりあえず適当に歩き始める。きっといつか知っているところにたどり着くことを信じて。




ーーーーーーーー


その日の夜。


 陽が落ちてきてこれ以上の行動をやめることにしたエイタ達は近くに手頃な家もなかったのでそこそこの空き地で野営することにした。


「なんかすごく見たことある空き地だね!!土管が積んであるよ!」


「言われたらそれにしか見えなくなってきたんだけど。」


「??なにが~?」


「ミカ達は来たことあるしゃめ?ここがどこかわかったかしゃめ?」


「ああいやちがうんだ。こっちの話だ。」


「???」


 異世界人にはちょっと難しいかもしれない。誰も行ったことがないはずなのに誰もが同じ風景を思い浮かべてしまうあの場所の事は。


 空き地の中央付近に陣取ったミカが早速調理器具を取り出し今晩の夕食づくりを開始する。


 その間俺は開いているスペースでくーねとの組手をしていた。


「じゃあいっくよー!」


 気の抜けそうな緩い声掛けで始まる組手。俺は構え、飛び出そうとするとそれよりもずっと速い速度でくーねが目の前まで迫って来てっぼぉお!!


「おぼぼぉおおぇええ」


 くーねの拳が腹にクリーンヒットする。こ、こいつ、いつもより出力上げてきやがった!


「エイタ頑丈だね!ギルサイドゴルドランより硬いかも!」


「ぐふぅ、そいつは誰だよ、、、」


 そんなやりとりを適当なところに座ってみていたニイムに声がかかった。


「ニイムちゃん!ちょっと手伝って~」


「ん?なにすればいいしゃめ?」


「うん。ちょっと火が欲しくてさ。いつもはエイタ君が温めてくれるんだけどあれIHだから不便なんだよね」


「おおおおい!!人をIHと呼ぶばかりか不便だとおお?!ってちょまあああっっ!!」


「よそ見してる暇なんてないぞ~~!」


 遠くからなんか聞こえた気がしたが特に気にすることもなく。


「あいえいち?がなにかはしらんけど火出すくらいなら別にいいしゃめ。『フレイムチャージ』」


 いつの間にか現れた銀色の棒を焚火のために組み上げられた薪に向けたニイムは術を発動するためのトリガーを唱える。


 ボゥッと吹き足した炎が薪に燃え移り一瞬のうちに焚火が完成する。


「おおぉ!!すごいね!めっちゃ便利だ!」


 焚火に手を向け暖を取りながらも食事の準備を進めるミカ。自分の仕事は終わっただろうと思い元居た場所に戻ろうとしたニイムにまたもや声がかかった。


「ねぇ、ニイムちゃん。」


 どことなくいつもより真剣そうな雰囲気にニイムは思わず身構える。何か大事な話でもあるだろうかと。


 言葉を発することはせずとも振り返ったニイムを見てミカは視線を少し離れた所に置いてある巨大な盾に向けて言葉をつづけた。


「あのおっきな盾、あれはさ、ニイムちゃんにとって大切なものなのかな?」


「ん?あれしゃめ?まあ大切っていうかなんていうか、ずっと一緒に戦ってきた相棒みたいなもんしゃめ。」


 予想外の質問に肩透かしを食らった気分のニイムは置いてあった盾を持ち上げるとミカのほうへと近づいていった。


 ごどんっと地面に置くとその自重だけで地面に食い込み突き立つ。


 目の前に置かれたニイムの体と同じくらいある大きな盾にゴクリと上を鳴らす。


「そ、そうなんだ、相棒、、、やっぱ使っちゃだめだよね、、、」


「ん?何かに使いたいのかしゃめ?」


「あっ、えっと、その、ちょ~っと料理に使いたいかな~って」


 両手の人差し指をちょんちょんとしながらもじもじと言うミカ。


「???料理に使う?この盾を?まあ別にいいしゃめ。何に使うかわかんないけど」


 疑問符を浮かべながらも軽い気持ちで許可を出す。それを聴いたミカが表情をパァっと明るくさせた。


「いいの!!?本当に使っちゃっていいの?!相棒なんじゃ???」


「おおお、別にいいしゃめ。それでこれをどうするんだしゃめ?」


 ミカの圧に押されたニイムがミカを押し返しながら先へと促す。


 すでにハンドスコップによって土を変形させて土台を作っていたミカはその土台に盾を横に設置した。


「んっしょぉぉ?!おっも!なにこれえぇえぇうぬぬぬぅ、、、、はぁ、やっと置けた。」


 ミカの目の前にあるのは焚火、それに合わせる様に作られた頑丈な土の土台。そしてその上に置かれた大きな盾。


 その光景を目のあたりにしたニイムに嫌な予感を感じる。いや、それは確信に近いもの!


「ミ、ミカ、もしかしてそれってしゃめ、、、」


「これで一気に料理ができるよ!四人分となるとさすがに多いからね!助かる!」


 ドサッ、


 目の前でパチパチと音を立てながら熱せられる巨大なフライパンへと変わってしまった相棒に、ニイムは膝を折った。


 しかし自分で言ってしまったのだ。「料理につかっていいか?」「別にいい」と。


 なぜあの時にしっかりと用途を聴かなかったのだ自分のバカバカ!というか仮にも仲間の持っている盾を調理器具にしようとする?!


 無常にも炙られ続ける相棒を前にわなわなと震えているニイムに、さすがにやり過ぎたかな?とミカも思う。が、その手にはしっかりと油が持たれていた。注ぐ気満々だ。


 ドッゴオオオォォン


「ふぇえっなに?!」


 いよいよ注ぐぞ!って時に大きい音が鳴り響く。


 急いでそちらに視線を向けると攻撃態勢のまま残心しているくーねと誰かが向こうへと飛ばされていった跡が見えた。


「はぁ、なんだ、またエイタ君がぶっ飛ばされただけか。ん?」


 なーんだ。と料理を再開しようとしたところで違和感に気づく。


「あれ、全然温まってない。」


 火にかけている盾に手をかざしてみるが熱を感じない。恐る恐るちょんちょんと触ってみるが、、、熱くない!


 ペタペタと盾の内側を触りながらうむうう~と考えるミカ。そして一つの結論にたどり着いた。


 これは異世界の騎士が持っていた盾だ。あの魔王軍幹部の攻撃を受けたって平気なのだ。つまり、


「あ、これ火通らないやつだ。」


 もちろん炎からだって身を守ってくれるだろう。つまり料理に使うには不向き。


 こうしてニイムの相棒はなんとか油まみれにならずに生還できたのだった。


 その日、ニイムは自分の盾の大切さを再確認して一緒に眠ったとか。



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