ハンナ、恋バナにときめく
10/6 マリーアへ声をかけたのを叔父から祖父に修正&その背景を加筆
11/20 後のストーリーとの矛盾点を修正
ハンナはリンデン館に雇われて3ヶ月ほどの、メイドの中では一番の新米である。
中等学校を卒業してから弟妹五人の世話をしつつ家の事をこなしていたのだが、上の子達が自分の面倒を見られる歳になったのと下の子達を託児所に入れる事が出来た為、両親と相談して外に働きに出る事にしたのだ。
戦争で働きに出る女性が増えた為に託児所はなかなか空きがなかったのだが、国が「戦後も女性の社会進出は続くだろう」とテコ入れしたのが大きい。「私らの頃にはそんな便利なものは無くってねぇ。子どもを預ける先を探すのは大変だったよ」とハンナの祖母世代は言う。
「雑役婦か子守りの仕事でもあれば」と職業斡旋所を訪ねたハンナに、職員はリンデン館の求人票を差し出した。
「お嬢さん、運がいいですよ。こちら、ちょっと変わった求人でしてね」
良家のメイドなど、職歴が無く女学校も出ていないハンナに回ってくるはずのない案件だ。
「指定された条件は、若い女性である事。他家に仕えた経験が無い事。給料は相場よりかなり低いですが、しばらく経験を積めば条件のいい職場に移る事も出来るでしょう」
求人票とにらめっこして、ハンナはリンデン館に勤めに出る事にした。住み込みだというのも気に入った。物心つく前から弟妹の世話をみていたハンナは家族と距離を置いてみたかったのだ。
そしてリンデン館に来てみると、先輩使用人が若い者ばかりで驚く。
年嵩の経験豊かな先輩にびしばし鍛えてもらってさっさと転職するはずだったのに。当てが外れた、とハンナは思った。
聞くと数ヶ月前に奥様がお亡くなりになって、古参の使用人はほとんど去っていったそうだ。
「お局様がいなくなってやりやすくなったわ〜」と無邪気な笑顔を向けてくる先輩方にハンナは早めに見切りをつけて辞めるのもありだなと思った。
そんなハンナだが、年頃の娘らしく恋バナに目がない。
リンデン館では今、二組のカップルの行く末が注目されている。
それは当主のアイゼンと従妹のマリーア、アイゼンの娘キャサリンとマリーアの次男アンジェロだ。
特にマリーアの半生がざまぁもののヒロインもかくやという波瀾万丈なもので、ハンナ含むメイド達は皆その行く末が幸福なものになるよう願っている。
アイゼン様とマリーア様は結婚の約束をされていたのに「アイゼン様に一目惚れしたスカーレット様が父親の階級にものを言わせて仲を引き裂いたのだ」と先輩方が教えてくれた。
泣く泣く身を引いたマリーア様は先代様に勧められた方と結婚。その方は良い夫であったが、姑が意地悪でマリーア様は苦労なさった。そして不幸にも夫に先立たれ、姑に後継である長男を奪われ家を追い出されてしまった。
しかし世の中には光もある。「実家にも帰れず居場所が無かったマリーア様に、祖父である先先代様が「リンデン館に来ればいい」と手を差し伸べ叔父である先代様もそれに賛成してお館に住む事になったのよ」そんないきさつを聞いたらハンナがマリーアを応援したくなるのも当然だった。
だが先先代の対応は的確でなかったとハンナは思う。マリーアがリンデン館に住むことになったのは三年前、まだスカーレットが健在だった頃だ。
先先代は退役後田舎に隠居、先代は代替わりしてから都心のアパルトメント暮らしでリンデン館に同居している訳では無い。迎え入れた後の面倒を人任せ、それも訳あり夫婦にかつて結婚寸前だった女をぶつけるなんて何を考えているのか。だが先先代は引退後も救国の英雄として影響力は大きいし、代替わりしているが館自体は先先代の持ち物で押し切られてしまったらしい。
事実、アイゼンの正式な妻であるスカーレットはマリーアの存在を疎んで「家族ではなく使用人である」と知らしめる為に家政婦長に任命したそうだ。「マリーア様とアイゼン様は奥様に苦しまされていたのよ」と先輩方は瞳を潤ませながらハンナに語った。
ハンナはまだご主人様にお目通りした事が無い。
「見た目は役者としても通じそうな美丈夫。清潔感があり、身体も軍人らしくよく鍛えられている。だがかなりの変わり者。趣味に熱をあげていて、他の事に興味が薄いが趣味を仕事に活かして軍部でも出世頭。奥様が病に倒れても関心を示さず、臨終の場どころか葬儀にも顔を出さなかった。そしてその後、一度も館に立ち寄っていない」
お館にある妙なオブジェもご主人様の収集品なのだと聞いた。
歴史を感じる建物のあちこちに無骨な金属の塊が置かれているのは何故なのか疑問だったハンナは、主人が情熱を傾ける対象を聞いて理解は出来ないが納得した。
親の権力を使って結婚したスカーレットだが、夫には愛されていなかった。そして娘であるキャサリンにもアイゼンは関心が無い。アイゼンはずっとマリーアを愛し続けていて、障害が無くなった今こそお二人は結ばれるのだ。
それがハンナの聞いたアイゼンとマリーアの関係だった。
マリーアは良い上司だとハンナは思う。正確には、外に働きに出ると決めたハンナに友人達が「こんな言動をする人には気をつけてね」と教えられたヤバい上司リストに当てはまらなかったからいい上司だと思っている。
給料は低いがあくまでも良家のメイドとしてはであって、食堂の給仕よりは稼げている。少しであるが実家に仕送りも出来る事をハンナは嬉しく思っていた。
その上でハンナには気になる事がある。
「マリーア様とアイゼン様が結ばれるべきだというのは分かるけど」
誰もいないから、とつい声に出してぼやく。
「アンジェロ様とキャサリン様の組み合わせは無いと思うな」
やっとアイゼンが「美形だけと超変人」って世間に認識されてる事が書けたよ!
設定が一気に出てきた感があるのは、一話ごとに勝手に話が広がっていくせい。あと序盤はテンポよく進めたかったから説明は後回しにしてたのもあります。
ハンナちゃん説明係としてめっちゃ優秀。
私が固有名詞覚えるの苦手なので可能な限り役職名で乗り切ろうと思ってますが、大奥様と奥様のお父さんとあと一人二人は名前つけないと厳しいかな。




