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ここがわたしの魔界です!  作者: 文字虎
2章:徒然とゆっくりと
31/33

25.ここが貴方の修行場です?

大変お待たせして申し訳ありません。

また更新していきます!



 ウサギの子が呻きながらも起き上がると、顰(しか)めてつぶっていた目をゆっくりと開き、辺りを見渡す。


 辺りに広がるのは、綺麗な内装ながらも騒動があったがために滅茶苦茶な状況になっていた一室。得体のしれない動く人形がワチャワチャと動き回り、一部は腹に小刀を向けて切腹しようとしたり、大の獣人が心臓に杭を打とうとしている状況だったり。


「ひっ……!?」


 そんな状況を目の当たりにしたウサギの子の目は警戒心を最大限に高めて、ソファの脇へと寄ってしまう。

 うん、そりゃ目覚めたら周りで切腹しようとしている人形や、胸に杭を突き立ててる人いたら怖いよね。

 わたしも怖いと思うけど、今は怖いよりもやべえの方が勝ってるから、まずは全員に声を掛けよう。


「ストップ、ストーップ! 誤解だから! 早くみんなその凶器しまって!! ほら、ウサギの子が怖がってるでしょ!」


「私の廃棄寸前の豚の残飯にすら劣る産廃でも良いのですか……?」


「誰もそんな失礼なこと言ってないからね!? ほらもうこんな変な杭捨てて!」


 うりゃーと窓から見える、雲一つない晴天の外観から切り離された浜辺へとわたしはシマさんから取り上げた杭を投げ捨てる。

 そりゃ確かにわたしも失言を漏らしたのは良くなかったけども、ここまでする必要ある?


 ――って違う違う、まずはウサギの子だ。


「あ、えーっとごめんね! いきなりあんな光景見せちゃって! えっと、名前を聞いてもいいかな?」


「ろ、ロビ……ロビ・トープです」


 ロビと名乗るそのウサギの子は恐る恐る名乗り、肩身をまた狭くする。

 チックショウ第一印象最悪な状況じゃーん……完全に萎縮しちゃってる。


「ロビ君だね! わたしはマキ。七草真希です。で、あの虎の獣人さんはシマさん」


「よろしくお願いします、ロビ様」


「えっと……ここは何処ですか? 僕、魔物に追われて、近くにあった洞窟に逃げ込んでからの記憶がないんですが……」


「うっ……」


 そういえばロビ君は洞窟からここまで水流に流されて来たのだということを思い出し、わたしは冷や汗をかく。

 やばい、なんて返そう……若返りの水が突然洞窟から溢れ出して、それに吹き上げられてここに来たって言うのか……? いや無理無理、なんだその昔話みたいなコミカルな表現は。嘘をつくにしても、もう少しマシな嘘もあるだろ。


「……ふむ。それでございましたら、私の魔術具が反応したのが原因です。外敵探知のテレポート装置が反応したようで、時間遡行(タイムトラベル)のバグを起こしつつ、ここまでロビ様が運ばれたかと」


「大概なこと言ってる気がするのは気のせい?」


「ハハハ、マキ様もおかしなことをおっしゃる」


 カラカラ笑ってるけど目が笑ってないよシマさん。

 そんなシマさんを横目に見ていたが、その話を聞いたロビ君はというといきなり食い気味にシマさんに寄る。


「転移魔法の魔術具ですかっ!? それに時間遡行まであるだなんて、そんなデタラメな魔術具聞いたことがないです!」


「わっ、びっくりした……」


「あ、ご、ごめんなさい……」


 目の色を変えて、ロビ君はシマさんに詰め寄るが、少し目を見開いたシマさんは目線を逸らす。


「えぇ、まだティナスヒーズすら到達しえぬ魔術回路と製造技術ですのでね」


 物事の実情を知っている人間からすると、ひたすらに白々しい言い訳を、シマさんはツラツラと述べていく。

 この世界がどういうところなのか、いまいちまだ理解できていないわたしではあるけれども、それがデタラメだということはなんとなく分かるぞシマさんや。


「私共の紹介はここまでとしましょうか。それで、ロビ様はどうしてこの魔境とも呼ばれる魔の大森林を歩かれておられるので? 人の身にはあまりにも危険な場所だと思うのですが」


「それは……」


 シマさんが聞き出すと、ロビ君はぽつぽつと、どうして洞窟に逃げ込んだのかを語りだした。


 まず、ロビ君は同盟国サンクティナスと呼ばれる国から来た。

 そこは魔術帝国ティナスヒーズと精霊聖国サンクタードの人たちが独自の理想の元に作り上げられた同盟国らしく、ロビ君はそこの魔術帝国から亡命し、同盟国の精霊魔術の研究員としてそこで暮らしていたらしい。


 魔術と精霊術を組み合わせた新たな力、精霊魔術、そしてそれを封入した精霊魔術具なるものを研究し、精霊との共存と、生活水準の向上を図るべく研究をしていたそうなのだけれど……。


「同盟国で今行われているのは魔術具兵器を超える更なる力として、精霊魔術兵器を作ろうとする兵器開発。そしてその矛先は、ティナスヒーズやサンクタード。あそこで行われていたことは全て両国を潰すべく行われた軍事開発で……僕が望んでいた魔術と精霊の共存なんてなかったんです……」


 兵器開発という言葉を聞いて、わたしは分からないなりにも恐怖心を抱く。

 精霊さんの力を使って戦争だなんて……精霊さんとしては何か思うところもあるんじゃないかな……。


『ウケるー。精霊をあのくっさい入れ物の中に入れて魔術の媒介にするんでしょー? そんなんで僕らを使役したつもりになるとか片腹痛くなーい? ガラクタでマジになっちゃってどーすんのー』

『だよなぁ。苦肉の策で俺らの魔力残滓集めているっぽいけど、そんなんじゃ大した力も出ないよなぁ。やってること完全に魔族の劣化バージョンっていうか?』

『少しばかり頭が回らないのではないかと思いますが……あぁいえ、人の子ですもの、そのような過ちもありますよ……ね? それもまた、可愛らしくもあります』

『それに、あそこの大地は湿気ていてかなわん。そんな大地で作り出された非効率極まりない魔力効率の入れ物とか馬鹿の所業でしかない』

『ギュッペッペッ』


 各々言いたい放題言っていた。後サラマンダー、その悪態のつき方はやめておきなさい。

 あーうん、どうやら懸念していた、精霊が閉じ込められてるってのはないんだね……それならそれで、いいんだけども。


「だから、まずは精霊が住まう魔の大森林に行って、精霊と交流を持とうと思ってるんです!」


「ふむ、そのようなことがあったのですね……ところで、今この場には誰がいると思いますか? ロビ殿」


 不可解な質問を投げ掛けるシマさんにわたしは首を傾げる。

 だってこの場には、シマさんにわたしに、ウォフルさんやチビちゃん、後はノーム人形多数に精霊さん達が見えるだけだと思うのだけれど……。


「? 変な人形が沢山と、シマさんと、寝ている獣人種の方が1人、純人種のマキさんと、コボルトの子……ですよね?」


「えっ」

「え? どうかしましたか? マキさん」


「ふむ、可笑しな質問をしてしまい申し訳ありませんな。ちょっとした心理テストです」


 あれ、どういうこと? 精霊達が見えてないのかな?

 いまいち分かっていないわたしが首を傾げていると、精霊たちが憐みの目でロビ君を見ていた。


『あー僕らの事見えてないんだー』

『珍しく気の合いそうな人の子に見えるのに勿体ないなぁ』

『ぎゅう』

『ですが、交流しようという意思は立派ですね。是非とも話をしたいものです……ふふっ』

『ウンディーネ、そこまでにしておけ。お前の人の子好きは、彼らには毒にしかならん』


「――人の身で精霊を見る為には、高い魔力をコントロール出来るようにならねば、交流どころか存在を認知することすら叶いません。そこだけをご承知くださいませ」


「――あっ。そうなんだ……」


 わたしだけに聞こえるように、シマさんは声を潜めてそう伝えてくる。

 そっかぁ、誰でも精霊の姿が見えているわけじゃないんだ。それならばロビ君が見えないのも納得……。


 あれ、わたしはなんで見えるの?

 ……あ、そっか女神さまの力か。そうやって考えるとまたわたしは人外じみているってのを再認識しちゃうなー、HAHAHA……はぁ。

 自分で考えて自分で溜息ついてる場合じゃなかった。何やらシマさんとロビ君が話を進めているな。


「えっと、シマさん……先程ここは魔の大森林って仰いましたよね?」


「えぇ。ここは魔の大森林、イアスブリード山脈の麓にありますマキ様の所有地となっております」

「いつから所有権が得られたのか、すごく気になるんですがシマさんや」


「そんなもの、この大森林では言ったもん勝ちですよ、マキ様」


 いやいや、こんな物騒な感じがする森で所有権なんて持ったら絶対何かヤバいこと起こるって。

 精霊だってここで生きているわけだし、やっぱり邪魔なんじゃないだろうか……。


『わーい、ここはマキの領地になるんだねぇー』

『やったぜ、マキがここに居てくれるなら願ったり叶ったりだ』

『きゅー!』

『あぁ……マキがいてくれるのであれば私はなんだって構いませんわ……』

『土地の事は任せろ。こっちで色々弄ってやるぞ』


「うそぉ……」


「ま、マキさん……?」


 これ外堀埋められてますね!? 遠回しに精霊たちが出てけアピールするのかと思いきや、滅茶苦茶歓迎ムードじゃないですかヤダー! いやまあ、わたしに好印象な時点でそんな感じは薄々してたけどさ!

 ほらもぉ、ロビ君がすっごいこっち怪訝(けげん)に見てるし! 精霊お口チャック!


 わたしが精霊たちの方を向いて口のチャックを閉じる動きをし、精霊たちが黙ったのを確認後、ロビ君に向き直る。


「え、えぇと、それでですね……図々しいお願いかもしれないんですが、僕をここに住まわせてくれませんか! 雑用に使うでもいいんで!」


「えっいや、それはちょっと難しいんじゃないかなぁと……ね、ねぇシマさん?」


「三食希望制でこちらから食事の提供、希望があれば専用の住居区画の確保。対価は水汲み、指定箇所の清掃、窯の火の番、定刻通りの光の管理、作物管理……以上の内容でよろしければ、私としては問題はありませんが」

「この人こき下ろすつもりマンマンじゃんよ」


 完全に下働きな条件なんですけどそんなんでいいのだろうか、ねぇ、ロビ君や――。


「そんな好待遇で……! ここで精霊と交流できるというのであれば、喜んで!」


 いや良いんかぁい!!? 待って待って、せめてほらウォフルさんと同じぐらいの待遇とかさ! あれそういえばあの人、ここに来て何やってるのかすごい気になるんだけどいつも何やってるんだろう、とかそれどころじゃない今はウォフルさんはどうだっていい。ごめんよウォフルさん。


「えぇ、研究だけしかやらない穀潰しよりも有用です。何より私の仕事が軽くなって楽……こほん、精霊と交流する手段として、その対価は必須ですからね。交流するのであれば、この対価も寧ろ精霊に近づく有益なものであると約束しますよ」

「うぅわー……」


「そんな、そこまで考えてくれるなんて……! ありがとうございます!」

「わぁおー……」


 やっべえや、ここアウェイじゃない?

 抑えられない笑顔で深く頷いて仕事が減ったことを喜ぶシマさん。

 騙されていることも理解せずに、キラキラとした尊敬の眼差しをシマさんへ向けるロビ君。それでも幸せそうな表情でぐっすりと眠るウォフルさん。

 未だに熱そうにジタバタ悶えるチビちゃん。

 そして小刀をどうしようか考えるノーム人形達。


 どこまでのカオスな空間にて各々、わたしは食い違いしか起きてないこの状況に溜息をつくのであった。



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