23.ここはわたしのやらかしポイントです
先ほど溺れていたウサギの子を助け出し、とりあえずわたしの家のソファに寝かした後。
どうして人が浮いていたのだろうかとわたし達は原因を探ることに。
『……あら。どうやら、ここの地下深くに洞窟が繋がっていたようで、そちらの洞窟にいたであろうこの方が巻き込まれて一緒にここまで噴き上がってきたようです』
温泉に浸かっていたウンディーネさんが何やら状況を把握したように、今は幾分落ち着いた間欠泉を指さしてわたし達に説明する。
マジか……この間欠泉、洞窟ぶち抜いて来たの?
「ウサギの子もとんだ不運だったね……まさか間欠泉の真上に居ただなんて」
『いえ、それなんですが……わたしが洞窟を確認したころにはその洞窟が入り口辺りまで完全に温泉に浸かっておりまして……彼がそこで過ごしていた形跡は勿論、跡形もなく押し流され、その洞窟の奥底にいたであろう魔物なんかが水中で溺死しておりました』
「へ、へぇーサイナンダッタナァ……」
「流石マキ様、私の手など借りずとも周辺の危険を事前に排除するとは。感服いたしました」
シマさんがまた変なヨイショしてるけどもそれは置いておき。
もしかしなくてもこの間欠泉やべえんじゃないだろうか。ていうか大丈夫なの、これ魔物とかいきなり間欠泉から出てきたりしないだろうか。
『魔物に関してはご安心を。湯の成分をすこしだけ弄りまして、洞窟内の魔物の死体は魔力に変換される特殊なスライムで骨ごと溶かしました』
「やっぱりやばい温泉なんじゃないのこれ!?」
「ここまでマキ様は見越した上で温泉を吹き上げさせたのですね……! 私は只々感服するばかりでございます! 豊富な魔力により温泉の成分も格段と上がっているようですよ!」
確実にこの温泉はやばい成分になっていることを察して、わたしは温泉から数歩下がる。
え、血とか肉とかも全部魔力に変わったの? そのスライムがこの温泉の成分底上げてるってこと? そうなるともうただのやべえ池にしか見えなくなってきたんですけども?
ほらもう、なんかさっきは透明なお湯だった気がするのに、いつの間にか乳白色の温泉になっちゃってるよ?
「もはやこの温泉は魔力の源泉、あぁぁ! 実験したい! この魔力はいったい何なのか研究しつくしたいぃぃ!! なんだったら自分で試してみたいぞぉおおおお!!」
「ステイステイステイ! ウォフルさんダメだから! もうなんか薬通り越して劇薬みたいになってると思うから!」
「高濃度の魔力の湯気に中てられて精神汚染が入ったようです。魔族ですとやはりこれだけ過剰な魔力を摂取すると毒になるのでしょうかね」
「冷静に推察してないで抑えるの手伝ってくれないかなシマさん!?」
・・・
今にも得体のしれない温泉へと飛び込もうとするラリったウォフルさんを必死に止めること数分。
シマさんの手刀により、一瞬にして意識を刈り取られたウォフルさんをウサギの子の隣へと寝かし、改めてわたし達は家の中で話を進めることにする。
「とりあえず、あの温泉はまた今度対処するにして。問題はこの子だよね」
「魔力量と姿から察するに、獣人種の子供のようですが……ふむ、どうやらあの温泉を摂取してしまったようですね。精神年齢と本来の肉体年齢が、今の肉体年齢と少しばかり差が出来ているようです」
「ああぁ、早速被害者が出ちゃってる……」
何かを感じ取るために、添えていた手を離したシマさんの言葉を聞きながら、ソファで寝ているウサギの子の隣に腰掛け、わたしは頭を抱えつつも、ウサギの子の頭を優しく撫でる。
うわっ、ふわっふわやんけ。凄い、これいつまでもモフモフしてられそう。やっぱりウサギの毛ってふわふわなのかなぁ。
「毛並みに感心しているところ申し訳ないのですがマキ様、とりあえずは戻ってきてくださいませ」
「ヒェエイ!!? 何してんのわたし!?」
「無自覚でしたか」
バッとすぐにウサギの子から手を放す。すごい無自覚だったんだけど何してんのわたし!?
どうにも最近獣人種或いは獣人みたいな方々を見ると自制が効かずにモフモフを堪能しているような気がする……おかしい、今まではこんな節操なく動物を触ったりだなんてしなかったはずなんだけど……。
「現状、この若返りを元に戻す手段は今のところ研究できておりませんので、この方には今暫く我慢してもらいましょう。見ていて非常に愉快、あぁいえ、心苦しくはありますが」
胸に手を当てて悲しげな声音でシマさんは言うけれど、もうわたしはツッコミは入れないからな!
「……ふむ。マキ様の成長も実感できたところですが、いかがいたしましょう?」
「そろそろシマさんぶっ飛ばしていい?」
「淑女がそんな言葉使いではいけませんよマキ様」
畜生、殴ってもビクともしない。むしろこっちの手の方が痛いんですけど。
そんなわたしの猛攻など露知らず、シマさんはご飯の支度へと戻る。
「膨大かつ高純度の魔力に中てられておりますので、しばらくは目を覚まさないかと。今は安静にしておき、マキ様はご自分のやりたいことを優先するべきと、恐れ多くも進言いたします。大丈夫です。そのうち目を覚ましますし、むしろ魔力を摂取したので元気になりますよ」
シマさんは優しくそう言って、わたしに行動することを促してくれる。
んー。そうなるとここでやることは特にないかなぁ。
「そう……分かった。そしたらわたしはまた魔力制御の練習するね!」
「はい。次は大地を隆起させて香り高い光る温泉の滝が出ることを期待しますね」
「なんか最近シマさんから棘を感じるのは気のせいじゃないよね」
・・・
家から出て、わたしはまた適当な空き地の前に立ってゆっくりと深呼吸をする。
今度はウンディーネさんの宝玉にのみ魔力を込めるイメージで。
めいっぱい水が出るイメージで勢いをつければ、とてつもないことになるということはもう理解できた。そしたら次は――
「次は、少しずつ魔法を出すイメージ」
――糸を一つ一つ束ねるように。
――束ねた糸をわたしに纏わせる様に。
自分の中の魔力が集まるのを、本能的に感じ取り、それを練り上げていく。
『……嗚呼、それこそが至高の魔力。精霊が蜂蜜酒と呼び、愛してやまない愛し子の感情……』
うっとりとしたウンディーネさんの声が聞こえるが、わたしは構うことなく魔力を練り上げる。
――針を通し、一つ一つを紡ぎ――
『人にして愛し子。神すらも誘う呼び水。その魔力こそが、私達の何よりの糧……えぇ。マキ、それがちょうどいい魔力の塩梅だと思いますよ』
「あ、え? これくらいでいいんですか?」
集中していたところでウンディーネさんから待ったの声を掛けられ、わたしは拍子抜けする。
『本来であればそれぐらいであれば充分なのです。貴女の魔力は私達にとってのご馳走ではありますが、同時に毒にもなりえるものです……先程の魔族と、獣の人の子のように』
「あー……はい、気を付けます……あ、そういえばなんだけどさ……ん!?」
集中が乱れて魔力が霧散しないように、わたしは魔力を手に持って保持するイメージをし、話しかけようとしたのだが。
『あら、それは……』
その手の上には、水色に煌めきながら揺蕩う光を内に秘めた、ビー玉のようなものが転がっていた。
かなり時間が空いてしまい申し訳ございません。
ちょこちょこまた再開していきます。




