22.ここがわたしの温泉地?
水源ではなく温泉が出来上がってしまったが、まだまだ修行は続く。
そうだよ、修行は続いているわけだし、この次また水が出てくるようにすればいいんだ。
ちょっと気落ちしていたが、またやればいいだけである。
「そういえば、精霊たちがマキ様を愛し子と呼ばなくなりましたね。シルフ経由で精霊たちに触れ回ったのが役に立ちましたか」
「がう?」
「そういえばそうだったね、ウンディーネさんはわたしのこと名前で呼んでた」
家の近くでクマダさんを背もたれにして少し休憩をしていると、家の外にいつの間にか出来ていた窯を使って、パイを焼いていたシマさんがわたしにそう伝えてくる。
サラマンダーに関しては言葉を喋らなかったからどうなのか分からなかったけれど、確かにウンディーネさんはわたしのことを愛し子と呼ばず、わたしの名前を呼んでくれていた。
というのも、これに関してはいつの間にかというわけでもなく、シマさんが言った通りなのだが。
――「調子が出ないところ申し訳ないんだけど、シルフ君は精霊さんたちにわたしのことを愛し子って呼ぶのをやめてくれるよう言ってくれない?」
『えぇー! なんでー! 愛し子は愛し子なのにー!』
「じゃないとシマさんがお仕置きするよ」
「マキ様の為とあらば、精霊程度八つ裂きの消し炭にいたしましょう」
『ハーイ、すぐに伝えてきまーす』――
なんてこともあり、半ば脅すような形でシルフ君には伝言役を任したわけではあるが。まさか1日でその情報が精霊たちに広まるとは。
「精霊の情報網ってすごいんだねぇ」
「シルフは精霊の中でも噂話が大好きな精霊です。風の精霊というだけあって、島の噂話をすべて把握しているといっても過言ではありませんよ。そんな彼に頼めば、情報の伝達など1日で広まるものです」
「へぇ……シルフ君は物知りなんだね」
物知りだというシルフ君の一面を垣間見て、子供っぽいという認識を改める。やっぱり精霊は見かけによらないんだなぁ。
「ただまあ、彼はイタズラ好きでして。イアスドライグの時にご存知かと思いますが、ある事ないこと言ってこちらを惑わそうともしてきます。鵜呑みにしてはいけませんよ」
「あー……アレか」
イアスドライグさんとわたしが熱い初夜をどうたらこうたら……。いやいや無理でしょ、種族も違うし。そもそもあんな図体じゃ色々と分不相応でしょうに。
あれか? ファンタジー的な何かで解決するの? イアスドライグさんが変身するとか?
どっちにしろ、今はまだ結婚するつもりは毛頭ないけどもね。わたしまだ高校生ですよ? 昔の人的にはもう嫁いでもいいのかもしれないけれど、わたし的には色々と抵触しているからダメなのです、ダメったらダメ。
……そりゃ、わたしも女だしそういうのは気になるけどさ。
「なんでしたらシルフがそれを二度と吹聴しないよう、消し炭にしておきましょうか」
「せんでいい、せんでいい。物騒なのは反対だよ」
シマさん節が相変わらず炸裂するのをわたしはやんわりと止めて、修行をするべく立ち上がる。
背もたれにしていたクマダさんに礼を言った際、器用にサムズアップをするクマダさんに対してホントにこのクマさんは何者なんだろうと思いつつ温泉が噴き出ていた場所まで赴く。
「まずはあの間欠泉みたいになっちゃった温泉を止めて……」
首に掛けていたネックレスを外して、いざ修行再開と意気込んでわたしは間欠泉へと向かったのだが、そこは先ほどの光景とはまったく異なっており思わずわたしは足を止めた。
「えぇ……なんでちょっと目を離した隙に温泉地出来上がってるの」
先ほど間欠泉のお湯に関しては確かに勢いを弱めたけれど、それでもわたしの家の高さぐらいまでお湯が噴き出ていたわけではあるが、まあそれは置いておくとして。
私の目の前には、周囲からの視界をシャットアウトするかのように木の衝立に囲まれた、温泉施設のようなものが出来上がっていた。
誰だよこんな短時間で作り上げた猛者はと言いたいところだけど、これに関して出来る人はわたしは一人しか知らない。
「シマさーん!?」
「おや、素晴らしい温泉施設がいつの間に出来ましたね」
「おぉう、すっげえ白々しいなこの人!」
口元に手を当てて、いつも通り表情をあまり変えることなくシマさんは白を切る。
そういう反応を求めてるんじゃないのこっちは!
「せっかくマキ様が作り上げた温泉なのです。有効利用しないわけにはいかないではありませんか。それに効能を少しばかり調べてみましたが、疲労回復はもちろんのこと、代謝促進に美肌効果、更には飲めば若返ると女性の方には喉から手が出るような効能がたくさんです」
「とんでもないもの吹き上げましたね!?」
美肌効果までは普通の温泉だけど、最後の文言もはや温泉じゃないよそれ!
「どのようにして霊薬のような温泉が湧き上がったのかは謎ですが……ここ、魔の大森林は精霊の力が島の中で最も集まっている場所であります。さらには、ここは霊峰とも呼ばれるイアスブリード山脈の麓。山脈の雪解け水が地下へと染み込み、魔の大森林の魔力によって熟成されたのであれば何かしらの効能があってもおかしくありません」
「あー……自然が織りなした恵みってことね……腑に落ちないけど、そういうことにしておこう」
「まあ一番の要因はマキ様の魔力に反応しているのだと思いますが」
「やっぱりわたしのせいじゃん!!」
とんでもないものを生み出してしまったと、わたしは愕然とし頭を抱える。
えぇぇ……なんてもの生み出してるのこれ……どう考えても世に出しちゃいけないようなものじゃん。
「まあ、相当の高齢の方でもない限り、あまり使いたいようなものでもないかと。飲用はせずとも湯浴みの為だけの利用に止めておきましょう」
「そ、そうだね……高校生が使うようなものでもないし……って、ウォフルさん? その手に持っているフラスコは何かなー?」
「うっ!? あー……そのー……ちょっと魔力調査というか……」
目の色変えたウォフルさんがフラスコや研究道具などを温泉の方へと持ち込もうとしていた。
ホントに研究で使うんだよね? まさか飲むとかしないよね? 見た目青年っぽいけどそれで飲んだりしたら少年とかになりません?
「……まあ、止めはしませんが。どれほどの効力かまでは調査してはいませんので、臨床実験を勧めることはできませんよ」
「あぁ。流石にどれほどのものか分からないものを、自分で試すつもりはないよ。魔力、魔術、精霊術に関連する研究が俺の生き甲斐だからな! まずは魔力を知り、魔族でも魔術や精霊術を使えるようにせねばなるまい!」
堂々と誇らしげに、ウォフルさんが目を輝かせてそう宣言するけど、悲しいかな、わたしはわたしで苦笑いをするし、シマさんは溜め息をついて首を振るし、なんだったらチビちゃんと、ついてきたクマダさんはそんなことなんか興味なさそうに遊んでいた。
「まあこの際ウォフルさんは好きなようにしといて……わたしはわたしで魔力制御の続きかな」
「弛まぬ努力は己の糧となるもの。流石はマキ様、その自己研鑽には感服するばかりでございます」
相変わらずわたしに対しては満面の笑みで全力でよいしょしてくるシマさん。歯の浮くようなこと言わなくていいから。
とりあえず、今度はサラマンダーの宝玉には魔力を与えないようにして、水だけを噴出させるにイメージすればいいのかな。
あ、なんだったら温泉のところにも水を通せばいいかな。そうすれば水分補給したいときにいつでもお水飲めるよね。
そう考えた私は、じゃあまずは温泉の近くに水飲み場を作ろうと、引き戸になっていた扉を開けたわけであるが。
「……Oh」
「おや、先客かな?」
これまたいつの間にか奇麗になっていた内装、そして温泉が湧き出るところは少しばかり掘り下げられて、湯船のようになっていた為にまるで旅館のような温泉が目の前に広がっていたわけではあるが、問題はそこではない。
湯気が立ち上る温泉の中心には。
「……ふむ、ウサギの獣人の子ですか」
「ギャー! 溺れてるー!」
白い被毛のウサギの獣人の子がうつ伏せの状態で温泉に浮かんでいたのであった。
もうホントに事件には事欠かないな! ここは!?




