21.これがわたしの修行です
わたしが連れ去られ、一騒動があった日から1日が経過した今日。
この大陸の人達の暦的には、今日は1878年の華吹の月の15日と呼ばれるらしく、おおよそわたしが住んでいた世界で言うところの春と夏との丁度中間になる季節らしい。
そんな少しばかり暑さも感じられる空気の中、わたしはというと。
「ふんぬぅぅ!! 水よ湧き出ろおおおおお!!」
「……その調子です。まずは自分の感情を全て放出する感覚を体に覚えさせてください」
「今日のご飯気になるううううううぅううううう!!」
「雑念は払って、まずは水が湧き出るイメージに専念しましょう。ちなみに本日はウサギの肉を使ったミートパイになります」
普通に美味そうですねそれ! というか聞いたら俄然お腹すいて来たんだけどぉ!
そんなわたしは今、ウンディーネちゃんからもらった青い宝玉と、サラマンダーから貰った赤い宝石がついた銀のネックレスを手にして、目の前に手を出して感情を一生懸命捻出していた。
大事なのはそれをしたいと思う意思と、それをするために必要な魔力――わたしでいうところの感情が重要になってくるらしい。
というわけで、シマさんが水を運ぶのにややアクセスが悪いというので、地下水を湧き出させるべくネックレスの力で水を噴き上げさせようとしていた。
――あれ、でもわたしの魔力って膨大にあるんだよね? こんなことしたら水がやばいことになるんじゃないの?
ふと、脳裏にそれが過ぎった瞬間、辺りが大きく揺れ始める。
「え、ちょ、シマさん……?」
「マキ様、失礼いたします」
シマさんがそう言うや否や、わたしを抱え、上空へと飛び上がる。
……それと同時に、一箇所の地面から極太の水柱が勢いよく吹き上がり、辺りを水浸しにしてしまった。
「なるほど、雑な魔力でもこれほどの力が出るわけですか……これはやりがいがありそうです」
「ちょっとぉ!? 家が水浸しに! 浸水しちゃうんですけど!?」
水の勢いは止まることなく、辺り一帯へと浸水していく。
当然、わたし達の家やウォフルさんの家などもその被害にあっていた。
「ご安心下さい、マキ様の家だけは特別仕様です。水で溢れかえるような場所であろうとも、ある程度の周辺までは保護を掛けていますので決して被害に合うことはございませんよ」
「いやそうじゃなくて! ウォフルさんの家がどんどん浸水してってるんですけど!?」
「すごい勢いですね、これでは数分と経たぬうちに冠水しそうです。いやはや対災害設計というのは大事ですね?」
「さてはこの人こうなることを見越してわたしにオーダーしたな!」
どうにかしようと、わたしはネックレスを水源に向けて必死に水よ止まれと念じる。
すると勢いは段々と治まっていき、数秒後には噴水程度の水ぐらいまで落ち着いていった。
「素晴らしいですマキ様! 水の魔力のコントロールは常人にはとても難しいものです。 それをこの短時間でここまで調節出来るようになるとは、恐れ入りました!」
「言ってる場合じゃないよねぇ!? ああぁ、ウォフルさん大丈夫かなぁ……!」
ストンと水浸しの地面にシマさんはゆっくりと降りると、シマさんの拘束からさっさとわたしは抜け出して、ウォフルさんの家に駆け込む。
「ウォフルさん! 大丈……夫?」
「ん? どうかしたのかいマキ君?」
「ワウ?」
そこには、何故か筋トレしていたウォフルさんと、簡素な木の椅子の上で寛いでいたチビちゃんがいた。
……あれ? 全然被害とかないね?
「あ、えーっとあの、浸水被害とか……」
「浸水被害? 川でも氾濫したのか? って、外の水がすごいことになってるな、スコールでも降ったのかい?」
「わふ」
何があったのか全く気付いていなかったウォフルさんとチビちゃんは、外の景色を見るなり、驚いている。
おかしいでしょ……音だって相当なものだったし、何より家にも甚大な被害が出ているはずなんだけど……あれ、家も無傷だね?
「貰った魔力をフル稼働させて全力で作り上げたノームの家が、あの程度の洪水で被害にあうことなどありません。それに、何かあっても私の力が働くのでご安心下さい」
近くまで来たシマさんが家の壁を軽くノックし、如何にこの家が丈夫であるかということが理解できたわけだけども……それだったら先にそう言ってくれれば良いのにとわたしは少しむくれる。
「そう怒らないで下さい、マキ様。説明不足であったのは申し訳なく思いますが、これも全てはマキ様の為……どうか、ご理解くださいませ」
「むぅ……」
「ちなみにこちらの建物、ノームの膨大な魔力によって建材自体が強化されており、木材はまるで霊樹の様に、石材に関しましてはまるで膨大な魔力を施した魔法石のように頑強であります。マキ様の家には少々劣りますが、自然災害に対しての耐久性は完璧、随所に施されたノームの魔力によって冬は風を通さず暖かく保つことが出来、夏は風の通りをよくしてあるため快適性に関しても他の建築物よりも数段上の物件となっております。マキ様の家には少々劣りますが」
「なんで2回もマウント確認するのかな、この人」
念には念をと言わんばかりにシマさんがこの家の頑強さを説いてくれるが、節々に感じるマウントが物凄く主張しており残念な説明と化してしまっていた。分かったから、わたし至上主義なのは分かったからやめて。
なんだったらウォフルさんも若干苦笑いしてるし、チビちゃんも興味なさげに聞いてるからやめて。
『えぇっと、こんにちは、マキ』
『キュー!』
「え……ウンディーネさんとサラマンダー?」
コホンとわたしは咳払いをし、さて魔力調節の練習をせねばとウォフルさんの家から出ようとすると、家の前にはウンディーネさんとサラマンダーがふよふよと浮かんでいた。
あれ、触媒もないのにどうしてウンディーネさんとサラマンダーが?
『愛し子、あぁいえ、マキが何やら膨大な量の魔力を、私とサラマンダーの遺物に込めていましたので、何事かと思ったわけです』
『キュ』
「確かに使ったけど……何か問題あった?」
首を傾げて、わたしはウンディーネさんとサラマンダーに聞いてみるが、ウンディーネさんは少しばかり言いづらそうにわたしを見る。
――ん? 待てよ、ウンディーネさんとサラマンダーの遺物?
『そのー……確かに私の宝玉に魔力が多めに付与されていたのですが、サラマンダーの宝石にも魔力が入っていて……』
わたしの予感が的中すると同時に、いつの間にか出来上がっていた水場の方にシマさんが既に立っており、にっこりと笑顔でわたしの方を見ていた。
……あーこれはやっちまったようですかね。
「……流石マキ様です。立派な天然の温泉の出来上がりです。これで近場に天然の水が湧き上がれば温泉地としても最高ですね」
「ええぇ……」
がっくりとわたしは頭を下げて、結局また魔力調整が失敗したのだということを知る。
いや、流石にそこまでは予想してないって、わたしも。
「そういえば人形隊さん達は大丈夫だったの? 中には粘土とかの子も居たよね? 水を被ってなきゃいいんだけど……」
「人形隊なら状況を瞬時に理解してテキパキと避難行動を取って、マキ様の家へとすぐに避難しましたよ」
「わたしより防災意識高いね……」




