幕間 ここが彼らの出発点
その日、イアスブリード大陸の者達は震撼した。まるで世界の終わりのような光景に。
「あの膨大な魔力渦を止めろ! このままでは我が魔術帝国への大きな痛手となる!」
「駄目です! 魔力吸収装置が大破して打つ手がありません! 巨大な施設装置の魔力を得て力を更に拡大しております!」
イアスブリードで一番魔術が発展している魔術帝国ティナスヒーズでは。
風の精霊シルフが暴走したことにより、帝国の至る所で竜巻やつむじ風が発生して壊滅的な被害を齎していた。
建物は崩れ、施設は崩壊し、すべての物を消し去ろうとするその竜巻の猛威は衰えることなく力を拡大していく。
「あぁぁ……! これは精霊のお怒りだ、我々の所業に怒りを顕わにして竜巻を……!」
「嘘だろう!? なんだあの火球は!? こっちに来る!」
「西の国境壁が全て爆発しただと!? 状況を正確に伝えろ!」
更には、イアスドライグが放った熱線や火球が帝国を襲い、竜巻に巻き込まれて炎の嵐へと変貌し始める。
帝国の人々の誰もが国の終わりを予感したその時、その嵐は前触れもなくピタリと止まり、風と共に炎は消え、まるで何もなかったかのように辺りは一瞬にして風が止んだ。
「え……竜巻が突然止んだ? 何の前触れもなしに?」
「おい! 竜巻の前に獣人がいるぞ! あの獣人が何かしたに違いない!」
そして竜巻の被害があったその境目に、奇跡的に竜巻に飲み込まれずに済んだ赤毛の犬の獣人の青年が、呆然と立ち尽くし、何が起こったのか分からないまま、その場にへたり込む。
「俺、死んだと思ったのに……」
この青年が後に帝国の勇者として君臨するわけだが、それはひとまず置いておき。
「この明滅する光は一体なんだ……!」
「司教に連絡するのだ! この荒れ狂う光の魔力は精霊様によるものだ!」
その一方で、精霊を信仰する精霊聖国サンクタードでは。
光の精霊ウィル・オー・ウィスプの暴走によって、極彩色に明滅する光が迸り、熱量を伴う光が聖国を覆い、国の人々を混乱の渦へと飲み込もうとしていた。
「あぁ……これが精霊様の光……なんと神々しく、なんと猛々しいことか」
「惚けている場合か! 国境の外に熱線が降り注ぎ爆発したという連絡が入ったぞ!」
「これは精霊様の怒りだ……! 魔術帝国の行いに対しての、光の精霊様のお怒りなのだ……!」
イアスドライグの放った熱線をウィルの怒りであると言う者もいたが、ただ一人、白い鴉の獣人が光を見て鼻を鳴らす。
「膨大な魔力の奔流……これは、我が女神の再誕か……そうなのだろう? ウィリアム」
白い鴉がそういうと、見上げていた空をニヤリと笑い、どこかへと去っていく。
まるで、何かの始まりを予期するかのように。
一方、サンクタードとティナスヒーズに挟まれるように存在する、精霊の魔術の国、サンクティナス同盟国。
こちらでもウィリアムやシルフの暴走の影響は現れていたが、現地の人は一味違っていた。
「異常な精霊魔力感知! 総員直ちに魔力を回収し魔術具へと装填せよ!」
「サーイエッサー!」
異常事態にも関わらず、サンクティナスのとある研究施設では嬉々として、外へと借り出し、魔力が渦巻く竜巻や、熱量を伴う光へと果敢に挑んでいく。ある者は倒れ吹き飛ばされ、ある者は発狂していく中、一人の少年は呆れ混じりに研究室を出て行く。
「……付き合いきれないよ。僕はただ、サンクタードとティナスヒーズの架け橋の為にここに来たのに」
常にハンチングを被る少年は身支度を整えて風が止んだタイミングを見て国の外へと駆け出る。
向かう場所は大陸の中央部に大きく広がる森林地帯。魔の大森林であった……。
魔の大森林、いずれ魔界と呼ばれるようになるマキ達の居場所にて。
そんな状況など露知らず、マキはシマと共に自分の家へと帰り着く。
「はー……なんかもう大変だったなぁ」
「御疲れ様です、駄犬をテキトーな場所に放っておき、本日は休むのがよろしいかと」
「ようやくチビちゃん落ち着いたのに何てこと言うんだこの人……」
マキ達はまだ知らない。これから先、波乱の連続になることを。
新年明けましておめでとうございます。
今年も皆様「ここがわたしの魔界です!」をよろしくお願いします。




