20.これでバトルは終了です
「ゴロゴロ……はっ!?」
「あ……気がついた?」
先程の狂乱とした空気の中、わたしの右手でもって喉を鳴らしていたシマさんは正気に戻ったかと思えば、即座に立ち上がる。
「えっと、シマさん大丈夫?」
「申し訳ございません……! 私とした事がマキ様の暴走を止められなかったばかりか、このような空気にのまれ……。あまつさえ、先程のような無礼を!」
深々と非礼を詫びるシマさんは、まるでこの世の終わりのような声音でわたしに謝る。
「あ、え、えーっと別にシマさんのせいではないというか……」
「この無礼、この命でもって償うほか――」
「お願いだから、ホントそういうのやめて」
胸に杭らしき物を突き立てるシマさんに、わたしは冷静にストップを掛ける。隙あらば殺傷沙汰にしようとするのやめて。
というか、今回に関しては徹頭徹尾わたしの方が悪いわけだし、むしろ怒られるべきじゃないだろうか?
「それにしても、ホントにとんでもないことになっちゃったなぁ……魔力高いとこういうことになるの?」
「ハッハッハッハ、クゥンクーン」
左手でいまだトリップ中のウォフルさんの、衣服が肌蹴て見えてしまっているお腹をさすりながら、わたしはシマさんに尋ねる。
ゲームで言うところの魔法使いさんも、皆こんな事が起こるかもしれないというリスクと背中合わせなのだろうか?
なんというか、それはそれで魔法使いも嫌だな……。
「竜種さえも堕落させ、広範囲に渡り影響を及ぼすほどの精神干渉の魔力暴走など、聞いたことがありません。それこそ、この自然界のマナで極稀に起こる、魔力災害すら超える規模です」
「……えーと、つまり、わたしは途方もない魔力の持ち主ってこと?」
「そういうことになりますね」
シマさんの肯定を受けると同時に、私は空いていた右手で目元を覆い天を仰ぐ。おぉ神よ……なんてことしてくれたんだ。
脳裏に浮かぶメッチャ笑顔の女神様に対してわたしは恨めしく思った。
「……ちなみに、この世界において竜種は魔力に対して非常に高い耐性を持ち、通常であれば精神干渉などまず受けない存在となっております」
「え? う、うん?」
静かに付け加えるシマさんはわたしが首を傾げるのを見ると、そのまま何事もなかったかのように話し続ける。
「加えて、広範囲に対しての魔力行使は限られた者しか使えない上に、使用する時間に比例してその体内に存在する魔力を大きく精霊などに譲渡、或いはそのまま削り、命にすら関わるような代物である危険なモノでございます」
「……へ、へぇーそうなんだー……そ、それで?」
嫌な予感がするが、わたしはそのまま話を続けるように促す。
すると、シマさんはにこやかに笑いそのまま話を続けた。
「さらに付け加えるのであれば……この世界において、精神干渉は対象の精神を操ることも出来る禁術中の禁術。この禁術自体、膨大な魔力を必要とし、使用者の精神や魔力すらも危ぶまれる術。使用を堅く禁じられている術とされています」
「……えーっと」
笑顔のシマさんは座っているわたしに顔を近づけて、残酷にもわたしの状況がどのようなものかということを告げてくる。
「広範囲かつ竜種の持つ魔力耐性すら貫くような高度な精神干渉、更には魔力暴走による制御不能の精度だとすれば……如何にマキ様の魔力の貯蔵量と純度が高度であるかというのが良く分かるのではないでしょうか?」
「……し、シマさん、もしかして怒ってます?」
「私がマキ様に怒るなどと、恐れ多くもそのようなことは出来はしませんね」
「……はぁ」
有無を言わさぬシマさんの物言いに、わたしは頭を垂れて自分の失敗を悔いる。
もはや人智を超えた馬鹿げた魔力なのだということは理解できたけれども……流石に制御できないのはまずい。
これはノームおじさんが言ったとおり魔力制御のやり方を覚えなきゃいけないかも……。
「しかし、改めてマキ様の魔力が目で見える形で分かったわけです。これを基にして魔力制御を掛けていけば、マキ様も魔力を制御出来るようになりますよ」
「うぅ……頑張ります……」
「私も最大限マキ様のサポートに徹するのでご安心下さい。……さて、そろそろこの状況をなんとかしましょうか」
姿勢をゆっくりと静かに正したシマさんは、目の前で起きている惨状をようやく見て、軽く溜息をつく。
静かに右手を前に出し、目を閉じて集中し始め、息を軽く吸い込む。
どこからか光が漂い集まっていき、シマさんの右手へとゆっくりと集まり、一つの強い光へと変わる。
息を吐き出すと同時にシマさんは目を見開き、前に突き出していた右手を右へと払いのける。
光が強く弾かれいき、辺りへと飛んでいく。
その一連の動作の後、周りを漂っていた靄がシマさんを中心に払い除けられ、靄で淀んでいた空気が晴れ、青空と雲海が目の前に広がっていく。
「ふぅ……ひとまず魔力暴走の被害はこれ以上酷くなることはないかと。後はシルフとウィルが使い物になればいいのですが」
「……シマさんがなんとか出来るなら、その都度何とかしてくれれば良いのに」
不貞腐れ気味にわたしはシマさんに言うが、シマさんは困り顔をしつつも優しくわたしに諭す。
「私はそれでも問題はありませんが、それではマキ様の成長に繋がらないかと……自分で起こした暴走の度に、先程のような状況になるのは嫌でございましょう?」
「ぐぅの音も出ないですハイ……」
諦めて魔力制御に関してはしっかりと学ぼうと思うと共に、わたしは周辺を改めて確認する。
先程までトリップしていたチビちゃんやウォフルさんはいつの間にか気絶しており、後ろで背もたれと化していたイアスドライグも眠るようにそのままの状態で気絶していた。
ちらりと上のほうを見てみると、シルフ君とウィルは何があったのか分からない様子で辺りをキョロキョロと見回していたが、わたしを見るや否やふよふよと近くまで近寄ってきた。
『んー? あれ、僕何してたんだろ……』
『なーんか、久々に何もかもを忘れてハイになったような感覚を味わったような』
シルフ君とウィルが頭をクラクラとさせつつもなんとか言葉を告げるが、わたしはなんとなく気になってシマさんに聞いてみた。
「……あれって大丈夫なの? 精霊って他のところにもいる空気みたいなものだよね?」
「……ふむ、大丈夫ではないでしょうか」
少しばかり考えるような素振りをするシマさんはそう告げて、わたしは少しだけ安堵する。
よかった。シルフ君とウィルがバグったことによって他のところで何かあるわけじゃないんだなぁ――
「精霊の我を忘れさせるほどの精神干渉。本来であれば精霊にその手のものは通用しませんが……ふむ? どうやらこの島の至る所で、極彩色の光が明滅するような現象や、突発的な暴風やつむじ風、竜巻などが発生したり、海なんかでは波一つ立たない凪のような状況になっていたようですね」
「めちゃくちゃ影響出てるじゃん!?」
「ご安心下さい、マキ様のマイホームは例え暴力的な光の熱量に晒されても、竜巻なんかに巻き込まれても傷一つつかない災害対策が施されております。生活環境が脅かされる心配はございませんよ」
「いやそういう心配じゃないんだけど!?」
わたしが暴走すれば世界がやべえ。
早急にわたしは魔力をコントロールする術を覚えようと誓いつつ、シマさんの力を使って、気絶したウォフルさんとチビちゃんと一緒に家へと戻るのであった。
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