19.これはバトルというのですか?
イアスドライグさんの爪とシマさんのダガーがガリガリと火花を辺りに散らしながら、金属が擦れるような音を上げる。
ニヤリと笑うイアスドライグさんは腕を大きく振るい、シマさんを吹き飛ばすが、シマさんは軽やかに空を舞ってくるくると回転した後、体をぐらつかせる事なく静かに地面に着地する。
すごい運動神経だなぁ…。
「シルフ。先程の会話を貴方越しに聞かせてもらったが、間違いはないな?」
『うんー。中継役の僕が変な悪戯してなければ、恐らくは一字一句、間違えることなく伝えるはずだよー』
「マキ様がその駄竜と熱い初夜を迎えることになるだろうというのは?」
『あれー? ごめんねぇ、それは知らないや』
「なんかとんでもない盗聴と誤解に晒されてる……!」
『ふはははは! 神が盗み聞きとは、なんとも人間臭くなったものだなぁ!』
誤解を生むような盗聴に対しわたしはツッコミを入れる。シマさんの近くにいたシルフ君は悪戯めいた笑みでこちらを見ていた。あのシルフ君が誤解を生んでいたんだな。
イアスドライグさんの挑発に対して、シマさんは目を少し細めると、小さく息を吐いた。
「何とでも言うといい。その方は大切なお方だ。マキ様を守るためならば、私は人間臭くなるのも厭わない。すぐにでもその方から離れることだ」
『ほう……? ほんの少し見ぬ間に何があったか知らないが……冷酷な神様はたった一人の愛し子の為にそこまで感情を許すか』
イアスドライグはクツクツと笑うが、シマさんは感情を表にすることなくダガーをまっすぐにイアスドライグに突きつける。
……どうでもいいけど、イアスドライグさん口では笑ってるけど、尻尾がなんかすごいビクビクしてるけど大丈夫かな、これ。
『ふ、ふはは! わ、わわ、わ我輩の愛し子を返してほしいとはいい度胸をしているではないか! 神も大層傲慢になったものだなぁ! だが、我輩とて、この至宝を手放すつもりはもも、もも毛頭ないぞ!』
「大分ボロ出てるよ、このドラゴンさん」
『ドラゴンのくせにチキンだからねーイアスドライグは』
噛みまくるイアスドライグさんはガタガタと震えながらも勇ましく声を上げる。
なんだってわたしを奥さんにしようとしているのかは、よく分からないけれども。わたしなんかでいいの? ドラゴンの奥さん探した方がいいんじゃない?
その状況をシマさんは黙ってみていたが、静かに溜息を吐いてイアスドライグさんに近づく。
「ふむ、ならば――何をされても文句はないな?」
『――ぬぅっ!?』
瞬きをする間もなく、シマさんがイアスドライグさんへと肉薄し、ダガーを勢いよく突き立てる。
凄まじい衝撃と共に、イアスドライグとシマさんはわたしの後ろへと吹き飛び、点々とあった岩を砕きながら飛んでいく。
吹き飛ばされてもなお、遠くから剣戟の様な音が絶えず聞こえてくるし、なんだったら何かが爆発するような音が聞こえてくる。
私の真横10mぐらいのところをレーザーっぽい何かが高速で地面を走っていき、そのレーザーの軌跡をなぞる様に連続で爆発が起き、辺りに爆風を巻き起こす。
「ヒィ!? ちょ、ちょっとメチャクチャな戦いしてるんですけど!?」
『ありゃまー神様もイアスドライグも本気じゃんねー。大丈夫だよー愛し子ちゃん。守ってあげるからー』
シルフ君がわたしの周りに風のバリアのようなものを展開して、飛んでくるレーザーや着弾地点で爆発する火球をいなして明後日の方向へと飛ばしていく。
すごい遠くの方で爆発とかしないかなアレ? 山の下の方に変な影響出なきゃ良いんだけど……。
「マキ君、大丈夫か!?」
「ワンワン!」
『愛し子ちゃーんウィルがお迎えに来たぜー』
「え? ウォフルさんにチビちゃん? それにウィルも……」
爆発の心配をしていたわたしは、ウォフルさんとチビちゃんがいきなり現れて驚く。
え、話聞く限りここ山のてっぺんだけど、この人達どうやってきたの?
なおも続く一人と一体の戦場の轟音の中、わたしはその疑問を浮かべる。いや、そんなこと考えてる場合ではないんだけれども。
とりあえずわたしはウォフルさんとチビちゃんを、バリアの中にすぐに入るように促す。
「どうしてこんなところにウォフルさんが?」
「あぁいや、それはだな……シマ君と一緒にここに来たというか」
どうやらシマさんに連れられてウォフルさん達は一緒にここに来たようだけど、どうして着いてきたのだろうか?
「君は俺を助けてくれたじゃないか。それなのに君のピンチの際に助けないわけには行かないだろう? ……まあもっとも、あの様子じゃ俺は足手まといにしかならないだろうけど」
「あ、やっぱりあれはおかしいんですね……」
「あぁ、まるで伝説にある神々の戦いのような……神々しくも荒々しい戦いだ」
「……へ、へぇー」
正直に神様です、なんて言えないので、わたしは苦笑いを浮かべながら、その光景をただ見守る。
時折瞬間移動をしたかのように別の場所に移動したかと思えば、そちらで爆撃が起こったり剣戟の鋭い音が響き渡ったり。かと思えば激しい音と同時に上空に打ち上げられるかのように上昇していき、上空でしばらく滞空したかと思えば弾かれ、一人と1匹がわたし達の前に降り立つ。
「ふぅ……しぶといな。やはりドラゴン種の長ともなると、その長命も伊達ではないか」
『ゼィ、ハァ、ハァ、そう簡単に、ハァ、やら、れるほど我輩も衰えては……ゲッホゴッホ!! ゴッホォェエ!!』
「いや息整えようよ、ドラゴンさん」
『ホント締まらないドラゴンだよねー』
『長だけどドラゴンにしては若いからやっぱこんなもんだよなー』
『グッ、黙っておれ羽虫共ぉ!!』
『『キャーコワーイ』』
おちょくるシルフ君とウィルに対して、イアスドライグは怒りを露わにする。
「でもこれ力の差が圧倒的じゃないかな……」
『ああぁ……! 愛し子までぇ……!』
ていうか、このイアスドライグもわたしのこと愛し子愛し子ってなんかちょっとうるさいな……。確か、神様に愛された人間のことを愛し子って呼ぶんだったっけ?
……確かに、呼ばれたけれども。愛し子と呼ばれていいものなのだろうか?
ただの神様が犯した不始末を隠蔽するためだけに、ここに呼ばれたわたしなんかが精霊やドラゴンの愛し子?
ちょっとだけもやもやするし、なんだったらイライラする。
「無駄口はそこまでにして、そろそろ終わりにしたいのだが? マキ様を早く連れ帰らねば」
『ふっ……良かろう。我輩もそろそろ本気でお前を神の座から引き摺り下ろさねばなるまいな……! 我が愛し子の為!』
イライラ、イライラする。とても、そう、とてもとても皆。
「……自分勝手でむかつくんだけど」
『『あっ』』
「ぬおっ!?」
「アオーン!」
「っ!? マキさ――っ!?」
『のおおおおおおおおお!?』
わたしがボソリと収まりきらなかった感情を露わにした瞬間、何かに呼応するようにシルフ君とウィルの体が輝き始め、辺りに暴風と目も眩むような光が巻き起こる。
まあ、コレに関しては本当にわたしが悪かったと思う。魔力を溢れさせるなと言われたにもかかわらず、魔力を感情に乗せてしまったのだから。
後になって思えば、これが魔力を扱うことなんだなと、この暴発をきっかけになんとなく掴むわけだが。
光が治まり、吹き荒れていた暴風や、辺りに立ち込めるキツイ花の香りが霧散していくころ。
「……えぇ?」
「……ゴロゴロ……にゃあぁん」
「アッハァ……すっげ、魔術とか精霊術とかもうどうでもいいぐらいやっべぇ……ワフウウウウン!!」
「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
『アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! 曝け出せぇ!! ウィリアムちゃんの光ィ!! ヒィィィイイイイイイッハアアアアアアアァ!!』
『香れ香れ香れぇ!! ふふふ、あははは、アーッハッハッハッハッ!!』
わたしの周りでは、冒頭のような惨劇が起こっていたのであった。
これが今回の始まり。
「あー……誰か助けてー」




