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フクシュウとチョコレート1-13

この作品はフィクションです。


「………、」


下から吹き上げてくる風の冷たさが、男の意識を取り戻させた。


頭の中がまだぼんやりしているらしい。目も半開きで、ぼぉっ…、と、目の前を見ている。


が、


「………え?」


再び吹いた冷たい風が、男の意識を完全に戻した。同時に、自分が今置かれている異常な状況を、はっきりと認識してしまった。


目の前に見えたのは、灰色の空と、切り立った崖。いわゆる、断崖絶壁。


そして自分の身体は、接着剤で貼り付けられているかのように、何かにぴったりと固定されていた。動くのは指先と頭くらい。


何故、自分がこんな状況の中にいるのか。


確かさっきまで、今狙っている獲物とカフェでデートをして、夜の用事の前に一度帰ってきた。そこまでは確実に覚えている。


そこから、何故いきなり、こんなわけのわからない状況の中にいるのか。


頭の混乱をどうにか抑えつつ、視線を動かす。


上、灰色の空。

左右、景色は延々と続く崖。かろうじて、自分が何か、大きくて平たい石材のようなものに貼り付けられているのはわかった。

下、霧で何も見えない。


結論。


大パニック。




…………ってところかしらね。彼の心境を解説すると。


ここは、彼の脳内世界。正確に言えば、彼の脳内に、私が無理矢理生み出した世界。さっき私が創ったオブジェを彼が認識したことで、脳内にこの世界が生まれた。あとは、意識を引きずり込むだけで、こうなる。


勿論、現実には何も起こっていない。現実の彼は自分の部屋の中で、ただ、ぼーっ、っと、突っ立っているだけ。この世界で何が起こっても。例えば、仮に彼がこの世界で死んだとしても、現実の彼が死ぬことはない。あくまで、ここは脳の中。


けど、


あまりにこの世界でショックを受け過ぎると、現実に何かしら影響を及ぼすことは、ある。最悪、脳死とか植物人間化する可能性も、無くはない。


…そのギリギリのラインを攻めるのが、愉しくてたまんないのよねぇ…ふふふ。


というわけで現状確認。


彼自身は自分がどうなってるか理解できていないだろうけど、今彼は、巨大な時計の文字盤に貼り付けられている。ちょうど、12のところ。


針は6時30分。長針も短針も下向き。秒針はついていない。




じゃ、


始めましょうか。

じわり、じわり、と、行きましょう。

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