フクシュウとチョコレート1-12
この作品はフィクションです。
「…ふぅん。」
転移先は、マンションの一室だった。
なんて言うか、生活感の無い部屋。こざっぱり、って言えば聞こえは良いけど、ぶっちゃけ言っちゃえば、物が何もない。椅子と机と、パソコンくらいか。床に輝く帰還用の転移陣が、やたらと目立って見える。人間には見えないだろうけど。
やはり詐欺師。いつでも逃げられるようにしてる、ってわけか。
にしても、冷蔵庫すらないのは問題だと思う。チョコレートが保存できないではないか。夏場など、常温ではあっという間に溶けてしまうというのに。
華の命は短い。固形チョコレートの命はもっと短い。それがわからぬとは、修行が足りん。
まぁ、それはいいとして。
ターゲットは現在外出中。そして、戻ってくるのは25分後。
真偽を見抜く、見た目だけ猫野郎のメモに間違いは無い。なら、それまでに少し仕込みをしておこう。
目的は、騙し取られた800万を奪い返すこと。そして、被害者に二度と近寄らないようにすること。
…お金はやっぱり、現金の方がいいわよね。振り込み履歴とか残ると、面倒なことが起こるかもしれないし。
となると、詐欺師自身に現金を用意してもらわないと。この部屋に上手い具合に1000万くらい隠してあれば楽なんだけどなぁ。
ま、それは詐欺師自身から聞き出すとしますか。
というわけで、次に必要なのは、それを聞き出すための場所。正確に言えばシチュエーション。その準備をしなければならない。勿論、現実に、ではなく、詐欺師の脳内に。
さて、どんなのがいいかなぁ…。人間をパニックに追い込んで、他の何を差し出しても約束してもいいから、命だけは助かりたい。そう思わせるシチュエーションの舞台。
ん~~~………、
あ、
思いついた私は、1つのイメージを固め、それを小さなオブジェに具現化させた。思考の具現化は、限度はあるものの、私の能力の1つ。
それを机の上に置くと、
私は、姿を消した。
(………………がちゃ、…がちゃり。
………
………
「…?………なんだこれ。」
……………………。)
……………ふふ、
見たわね。
机の上の、それを。
認識したわね、確実に。
それでいいわ。それで、御招待できる。
ようこそ。
断崖の時計台へ!
部屋の中央で、立ったままピクリとも動かなくなった詐欺師の傍らに立ち、私は再び姿を現す。
ここからが、仕事本番。
さて。
彼は、どれくらい保つかしらね………ふふ。
ようやく仕事本番手前まで来ました(^_^;




