第91話 戦火の果てに結ばれる二つの軍旗
第91話 戦火の果てに結ばれる二つの軍旗
帝政歴345年6月20日、午後9時47分。
帝国北東部、シュタイン湾沿岸防衛地区。
日没から数時間が経過していたが、シュタイン湾の夜空は暗くならなかった。
帝国軍の沿岸砲台が放つ砲炎、共和国軍の支援火器による曳光弾、海面に開いた異界門から漏れ出す青白い光が入り交じり、海岸線を絶えず照らしていた。
波打ち際には異界軍の兵士たちが次々と押し寄せ、その背後では装甲に覆われた大型生物が浅瀬を踏みしめていた。海面を移動する異界軍の輸送体らしき構造物も確認されていたが、帝国軍の観測班は、それが生物なのか兵器なのかさえ判断できずにいた。
海岸南側の防御陣地では、レイブン・S・クロウが崩れたコンクリート壁に身を寄せ、SG-44の残弾を確認していた。
「ガイル、左側は?」
「まだ持ちこたえてる! ただし、あの化け物ども、さっきから同じ場所を狙ってやがる!」
ガイル・ベッカーは小銃の弾倉を交換し、壁の向こうへ視線を向けた。犬系亜人の耳が砲声に反応して動き、煤に汚れた頬には浅い擦過傷が残っていた。
「エリシアの小隊は?」
「右側の石造倉庫だ。あっちも相当撃たれてる」
レイブンは通信機へ手を伸ばした。
「こちらクロウ。ヴォルハラム少尉、聞こえますか?」
『こちらヴォルハラム。聞こえているわ』
雑音の向こうから、エリシア・L・ヴォルハラムの声が返ってきた。
「右側の状況は?」
『負傷者が三名。うち一名は後送が必要よ。弾薬はまだあるけれど、倉庫の北側が崩れかけている』
「こちらからエミールを向かわせます。移動経路は確保できますか?」
『今なら可能。ただし、海側の道路は使わないで。敵の射撃が集中している』
「了解」
レイブンは通信を切り、エミール・シュナイダーを呼んだ。
「エミール、エリシアの小隊に負傷者がいる。ガイルと一緒に倉庫へ向かってくれる?」
「分かった。担架は必要?」
「一名は後送が必要らしい。念のため持っていって」
ガイルは顔をしかめた。
「俺も行くのか?」
「うん。エミールを一人で行かせたくない」
「了解。だったら任せろ」
ガイルはエミールの背嚢を持ち上げ、壁の陰から周囲を確認した。
「おい、エミール。俺から離れるなよ」
「ガイルこそ、先に走りすぎないでくれ」
「分かってるって!」
二人が移動を始めると、レイブンはフェリックス・ブラントへ視線を向けた。
「フェリックス、海側の動きを見ていて。大型個体が近づいたらすぐに知らせて」
「了解」
ユリウス・ヴェーバーは、帝国軍と共和国軍の双方が使用する連絡周波数を確認していた。
「レイブン、沿岸砲台から連絡だ。大型個体への射撃を再開するらしい。ただし、観測所が損傷しているから命中確認が難しいって」
「こちらから見える範囲は報告しよう。味方の位置も伝えて」
「分かった」
レイブンはコンクリート壁からわずかに顔を出した。
海岸の向こうでは、異界門の青白い光が揺らめいていた。
その前を、巨大な装甲生物がゆっくりと進んでいる。
帝国軍の戦車砲が火を噴き、砲弾がその肩付近に命中した。分厚い装甲が砕け、巨体がわずかによろめく。
しかし、倒れない。
「……まだ動くのか」
レイブンは呟いた。
その直後、異界軍の兵士が防波堤の陰から姿を現した。
レイブンはSG-44を構え、接近する敵へ発砲した。
銃声が響き、敵の上半身が大きく揺れる。
続けてもう一発。
敵が倒れたのを確認すると、レイブンはすぐに遮蔽物へ戻った。
その瞬間、青白い光弾が壁へ命中し、コンクリート片が飛び散った。
「……っ!」
レイブンは顔を庇った。
『レイブン!』
通信機からエリシアの声が響いた。
『あなたの正面、敵が二体追加で来ている!』
「確認しました!」
レイブンは壁の端から周囲を見た。
確かに、異界軍の兵士が二体、瓦礫の間を進んでいる。
だが、その直後、右側の倉庫から共和国軍の小銃が火を噴いた。
エリシアの小隊による援護射撃だった。
敵の一体が倒れ、もう一体が遮蔽物へ身を隠す。
「……助かった」
『礼はあとでいいわ。それより、そちらの負傷者は?』
「今のところ全員動けます」
『分かった。こちらも持ちこたえる』
レイブンは、わずかに微笑んだ。
帝国軍と共和国軍。
昨日までなら、互いに銃口を向けていたかもしれない二つの軍隊が、今は同じ海岸を守っていた。
その事実が、レイブンには不思議に思えた。
午後10時26分。
シュタイン湾、南側石造倉庫。
エリシアは倉庫の内部で、負傷した共和国軍兵士の状態を確認していた。
兵士の左脚には包帯が巻かれ、軍服の一部が血で濡れている。
「痛みは?」
「……あります。でも、まだ動けます」
「無理をしないで。衛生兵が来るまで、ここで待っていて」
エリシアは落ち着いた声で答えた。
その時、倉庫の入口からガイルが顔を出した。
「共和国軍の皆さん、お待たせ! 出張救護班のお届けだ!」
エリシアは振り返った。
「……ガイル」
「おう。レイブンに言われて来たぜ」
後ろからエミールが入ってきた。
「負傷者はどこ?」
「こちらよ」
エリシアは負傷兵のもとへ案内した。
エミールは手早く状態を確認し、出血と意識状態を調べた。
「……後送した方がいいね。ここで動かし続けるのは危険だ」
エリシアは頷いた。
「お願いできる?」
「もちろん」
ガイルは担架を準備しながら、周囲を見渡した。
「……それにしても、共和国軍の倉庫に帝国軍の俺たちがいるなんてな」
オルロフ軍曹が苦笑した。
「こちらも同じことを考えていた」
「だろ?」
ガイルは笑った。
「まあ、今は仲良くやろうぜ」
オルロフは頷いた。
「少なくとも、今夜はな」
エリシアは二人のやり取りを聞きながら、小さく息を吐いた。
彼女は、帝国軍と共和国軍が戦争を続けていることを忘れていなかった。
だが、今ここで互いに協力しなければ、負傷者を救うことも、海岸を守ることも難しい。
その時、倉庫の外で激しい砲声が響いた。
建物全体が揺れ、天井から砂埃が落ちてくる。
「……何?」
エリシアは顔を上げた。
オルロフ軍曹が外を確認した。
「大型個体です! 海岸の中央防御区画へ接近しています!」
エリシアはすぐに通信機を握った。
「こちらヴォルハラム。クロウ、聞こえる?」
『こちらクロウ。聞こえています』
「大型個体が中央防御区画へ向かっているわ」
『こちらでも確認しました。沿岸砲台が対応中です』
「分かった。こちらも支援する」
エリシアは通信を切った。
そして、オルロフ軍曹へ向き直った。
「負傷者の搬送を優先して。動ける兵士は防御位置を維持」
「了解しました!」
エリシアは自分のHARを持ち直した。
金色の髪が、倉庫の隙間から吹き込む風に揺れた。
彼女は静かに呟いた。
「……絶対に、ここを突破させない」
午後11時08分。
シュタイン湾、中央防御区画。
大型異界生物が、ついに防波堤の一部へ到達した。
巨体がコンクリート構造物へ接触すると、鈍い破砕音が響いた。
防波堤の表面に亀裂が走り、砕けた破片が海面へ落ちる。
「防波堤、損傷!」
帝国軍の観測兵が叫んだ。
「大型個体、なお前進中!」
指揮官は無線機を握った。
「沿岸砲台、目標を確認できるか!」
『確認中! 友軍が近すぎる!』
「射撃可能になるまで待て! 味方を巻き込むな!」
指揮官は歯を食いしばった。
その時、海岸南側からレイブンたちが到着した。
「こちらクロウ分隊! 支援に来ました!」
指揮官が振り返った。
「クロウ! あの大型個体が見えるか!」
「はい!」
「沿岸砲台が射撃できるよう、周辺の兵士を後退させたい!」
レイブンは頷いた。
「了解しました。退避誘導を支援します」
ガイルが隣に並んだ。
「よし、やるか!」
「うん」
レイブンは通信機を握った。
「エリシア、中央防御区画で退避誘導を始めます。そちらの小隊も後退準備を」
『了解。負傷者を先に動かすわ』
レイブンは頷いた。
帝国軍と共和国軍の兵士たちが、互いに声を掛け合いながら移動を始める。
負傷者を支える者。
弾薬箱を運ぶ者。
後方へ移動する車両を誘導する者。
その間も、異界軍の大型個体は防波堤を破壊し続けていた。
やがて、退避が完了したとの報告が入った。
「こちらクロウ。中央防御区画の友軍退避を確認!」
『了解。沿岸砲台、射撃準備完了』
数秒後、海岸の後方から重い砲声が響いた。
大型砲弾が海面を越え、異界生物の巨体へ命中する。
激しい爆発が起き、装甲の一部が砕け散った。
続けて二発目。
巨体が大きく傾き、海面へ倒れ込む。
巨大な水柱が立ち上がり、周囲の異界軍兵士たちが波に呑まれた。
「……倒れた!」
ガイルが叫んだ。
レイブンは双眼鏡を覗いた。
大型個体は、海面に横たわっている。
しばらくしても、動く様子はなかった。
「……大型個体、活動停止を確認」
レイブンは報告した。
周囲の兵士たちから、安堵の声が漏れた。
しかし、異界門はまだ開いていた。
青白い光の向こうから、別の影が動いている。
レイブンは、ゆっくりと息を吐いた。
「……まだ終わらない」
午後11時46分。
シュタイン湾、臨時統合指揮所。
帝国軍と共和国軍の将校たちが、一つの地図を囲んでいた。
沿岸防衛司令官は、海岸線の状況を確認していた。
「南側防御区画は?」
「維持しています」
「中央は?」
「大型個体の排除に成功。ただし、防波堤の損傷が大きく、再度の攻撃には耐えられません」
司令官は頷いた。
「北側は?」
「共和国軍の支援部隊が合流し、現在は共同で防御中です」
司令官は、しばらく地図を見つめていた。
帝国軍と共和国軍。
本来ならば別々の指揮系統を持つ二つの軍隊が、同じ戦場で協力している。
それは、現場の判断だけでは長く続けられない。
補給。
通信。
負傷者の搬送。
砲撃の調整。
そして、作戦全体の指揮。
これらを統一しなければ、いずれ重大な混乱が生じる。
司令官は通信担当者へ言った。
「帝国軍最高司令部へ報告しろ」
「内容は?」
「共和国軍との共同防衛は有効だ。ただし、正式な協定なしでは継続が難しい」
司令官は、はっきりと続けた。
「両国政府による協議が必要だ」
通信担当者は頷いた。
「了解しました」
帝政歴345年6月21日、午前6時18分。
シュタイン湾沿岸。
夜明けとともに、異界軍の攻勢は弱まり始めた。
海岸へ上陸していた異界軍の一部は、異界門の方向へ後退している。
大型個体の活動も減少し、帝国軍と共和国軍は防御線の再編を進めていた。
レイブンは、崩れた防波堤の上から海を見つめていた。
隣にはガイルが座っている。
「……やっと静かになったな」
ガイルが呟いた。
「うん」
レイブンは頷いた。
「でも、門はまだある」
海面の向こうでは、青白い光が揺らめいていた。
ガイルは顔をしかめた。
「……あれ、どうやったら閉じるんだろうな」
「分からない」
レイブンは答えた。
「でも、調べる必要があると思う」
その時、背後から足音が聞こえた。
「……レイブン」
振り返ると、エリシアが立っていた。
金色の髪には砂埃が付着し、軍服にも戦闘の痕が残っている。
「エリシア」
レイブンは立ち上がった。
「負傷者は?」
「全員、救護所へ搬送できたわ」
「……よかった」
エリシアは、少しだけ微笑んだ。
「あなたたちも無事でよかった」
ガイルが笑った。
「おう! 俺たちは〈不死身の分隊〉だからな!」
エリシアは眉を上げた。
「……不死身?」
レイブンは苦笑した。
「ガイルが付けた名前なんだ」
「なるほどね」
エリシアは小さく笑った。
「でも、不死身なんて名前を付けたからって、本当に死なないわけじゃないでしょう?」
ガイルは肩をすくめた。
「分かってるよ」
レイブンは、海を見つめた。
「……だから、必ず帰ってくる」
エリシアも、隣に立った。
しばらく、三人は静かに海を見つめていた。
やがて、エリシアが口を開いた。
「……ねえ、レイブン」
「何?」
「昨日、あなたに会えてよかった」
レイブンは、少しだけ驚いた。
エリシアは続けた。
「共和国の西部でも、ずっと戦っていたから……帝国がどうなっているのか、分からなかったの」
レイブンは頷いた。
「俺も、エリシアが無事なのか分からなかった」
エリシアは、少しだけ目を伏せた。
「……そう」
レイブンは、静かに続けた。
「でも、また会えた」
エリシアは顔を上げた。
そして、微笑んだ。
「……ええ」
ガイルは二人を見比べた。
「……おいおい、俺のこと忘れてねえか?」
レイブンが笑った。
「忘れてないよ」
エリシアも微笑んだ。
「もちろん、ガイルもね」
「ならいいけどよ!」
ガイルは笑いながら立ち上がった。
帝政歴345年6月22日、午後2時10分。
帝国帝都、中央政府庁舎。
帝国政府は、連邦共和国政府との緊急協議を開始した。
両国は長年にわたり対立し、つい最近まで互いに戦争を続けていた。
しかし、異界軍の侵攻によって、その状況は大きく変化していた。
帝国側の代表団は、共和国側の代表団と向かい合っていた。
「我々は、異界軍への共同対処を提案する」
帝国側代表が言った。
共和国側代表は、しばらく黙っていた。
「……帝国軍と共和国軍が、同じ戦場で戦うということか」
「すでに、シュタイン湾では実施されている」
帝国側代表は資料を示した。
「共同防衛によって、沿岸地域の防御に成功した」
共和国側代表は資料を確認した。
そこには、帝国軍と共和国軍が協力して戦闘を行った記録が記されていた。
負傷者の共同搬送。
弾薬と医療物資の相互支援。
砲撃の調整。
そして、異界軍の大型個体への共同対処。
共和国側代表は、ゆっくりと頷いた。
「……確かに、効果はあったようだ」
しかし、すぐに表情を引き締めた。
「だが、我々はまだ戦争状態にある」
帝国側代表は頷いた。
「承知している」
「正式な講和も成立していない」
「その通りだ」
共和国側代表は、しばらく考えた。
「……ならば、まずは停戦からだ」
帝国側代表は頷いた。
「我々も、同じ考えだ」
こうして、両国は終戦に向けた協議を開始した。
帝政歴345年6月24日、午前11時32分。
帝国北東部、シュタイン湾。
帝国軍と共和国軍の共同防衛は続いていた。
異界軍の大規模な攻勢は減少していたが、異界門は依然として開いており、散発的な戦闘が発生していた。
レイブンたち〈不死身の分隊〉は、海岸の警戒任務を続けていた。
ガイルは、補給車両から受け取った食料を見つめていた。
「……おい、レイブン」
「何?」
「共和国軍の保存食って、帝国軍のよりうまいのか?」
レイブンは少し笑った。
「……食べ比べてみたら?」
ガイルは顔を上げた。
「それだ!」
その時、エリシアが近づいてきた。
「何をしているの?」
ガイルは、共和国軍の保存食を指した。
「味比べだ!」
エリシアは呆れたように笑った。
「……こんな時に?」
「こんな時だからだろ?」
ガイルは笑った。
エリシアは、少しだけ肩をすくめた。
「……まったく」
レイブンも笑った。
その時、ユリウスの無線機から通信が入った。
『クロウ分隊、こちら沿岸防衛司令部』
レイブンは無線機を受け取った。
「こちらクロウ」
『本日より、帝国軍と共和国軍の間で暫定的な戦闘停止措置が実施される』
レイブンは顔を上げた。
「……停戦ですか?」
『そうだ。ただし、異界軍への対処は継続する』
ガイルも、エリシアも、通信内容を聞いていた。
『両軍の部隊は、現地指揮所の指示に従い、共同防衛を継続せよ』
「了解しました」
レイブンは通信を切った。
ガイルは、しばらく黙っていた。
「……停戦、か」
エリシアも静かに頷いた。
「……ようやくね」
レイブンは海を見つめた。
青白い異界門は、まだそこにあった。
しかし、帝国軍と共和国軍が互いに銃を向け合う必要は、少なくとも今はなくなった。
それは、小さな変化だった。
だが、確かな変化でもあった。
帝政歴345年6月29日、午前10時00分。
帝国帝都、中央政府庁舎。
帝国政府と連邦共和国政府の代表団は、最終協議のために集まっていた。
九日前、シュタイン湾で帝国軍と共和国軍が共同戦闘を開始した。
その後、両国は停戦協議を進め、軍事連絡と共同防衛の枠組みを整えてきた。
そして、この日。
両国は、異界軍に対する正式な共同戦線を締結することになった。
帝国側代表が、協定書へ署名した。
続いて、共和国側代表も署名した。
両国の代表団が立ち上がり、握手を交わす。
その瞬間、会議室に拍手が広がった。
協定の名称は、《帝国・連邦共和国対異界共同戦線協定》。
異界軍に対する共同防衛。
情報共有。
負傷者の相互救護。
補給および輸送の協力。
そして、異界門の調査と封鎖に向けた共同作戦。
両国は、これらの事項について正式に合意した。
ただし、協定はすべての政治的対立を解消するものではなかった。
領土問題や戦争責任については、引き続き協議が必要だった。
それでも、両国は一つの大きな決断を下した。
互いに戦うのではなく、共通の脅威へ立ち向かうことを選んだのだ。
同日午後1時46分。
シュタイン湾、共同防衛陣地。
レイブンは、沿岸防衛司令部から届いた通達を読んでいた。
そこには、帝国と共和国が正式な共同戦線を締結したことが記されていた。
「……決まったんだ」
レイブンは呟いた。
ガイルが顔を上げた。
「何が?」
「帝国と共和国の共同戦線」
ガイルは目を丸くした。
「……マジか」
「うん」
ガイルは、しばらく黙っていた。
そして、少しだけ笑った。
「……すげえな」
レイブンも頷いた。
「うん」
その時、エリシアが近づいてきた。
「……聞いた?」
レイブンは顔を上げた。
「うん」
エリシアは、少しだけ微笑んだ。
「……これで、正式に一緒に戦えるのね」
レイブンも微笑んだ。
「そうだね」
ガイルが笑った。
「よし! だったら、これからは堂々と共闘できるな!」
エリシアは苦笑した。
「あなたは、最初から堂々としていたでしょう?」
「まあな!」
三人の間に、小さな笑い声が広がった。
しかし、レイブンはすぐに海へ視線を向けた。
シュタイン湾の沖合には、異界門がまだ開いていた。
青白い光は、以前よりも弱くなっているように見えたが、完全には消えていない。
その向こうには、未知の世界が広がっている。
レイブンは静かに口を開いた。
「……これから、どうなるんだろう」
エリシアは、しばらく考えた。
「……分からないわ」
そして、続けた。
「でも、少なくとも一人ではないでしょう?」
レイブンは、彼女を見た。
エリシアは微笑んだ。
「帝国軍も、共和国軍も。今は同じ敵と戦っているんだから」
ガイルも頷いた。
「そうだぜ。俺たちだっている」
レイブンは、少しだけ笑った。
「……うん」
海風が吹き、三人の軍服を揺らした。
帝国軍の旗と共和国軍の旗が、同じ防衛陣地に掲げられていた。
それは、これまでの戦争では考えられなかった光景だった。
帝政歴345年6月29日。
帝国と連邦共和国は、異界軍に対する正式な共同戦線を締結した。
両国の対立が完全に終わったわけではない。
しかし、互いを敵として扱うだけの時代は、確かに変わり始めていた。
そして、レイブン・S・クロウとエリシア・L・ヴォルハラム。
二人の若い軍人もまた、その変化の中にいた。
彼らはまだ知らなかった。
この共同戦線が、やがて両国の軍事体系を大きく変え、新たな組織の誕生へ繋がっていくことを。
そして、その中心に、自分たちが立つことになるということを。




