第151話 十秒の退避命令――地獄の誘導者達、全火器開放
第151話 十秒の退避命令――地獄の誘導者達、全火器開放
帝政歴350年10月20日、午前11時53分。連邦共和国東部沿岸、旧港湾地区。
強襲上陸から、まもなく五時間が経過しようとしていた。
かつて漁船や貨物船が行き交っていた旧港湾地区は、今や見る影もない戦場と化していた。岸壁には砲撃で破壊された荷役設備が横たわり、倉庫の外壁には無数の弾痕が刻まれている。道路には焼け焦げた車両が放置され、割れた窓ガラスとコンクリート片が至るところに散乱していた。
その瓦礫の間を、レイブン・S・クロウ《NoX》が駆け抜けた。
黒い猫耳が銃声の方向へ動き、金色と黒色のオッドアイが崩れかけた倉庫の二階を捉える。手にしたBPSG-12は、五時間に及ぶ戦闘で銃身周辺に煤が付着していた。
「Hound! 右の建物、まだ敵がいる!」
『見えてる! 見えてるっつーの!』
無線の向こうから、ガイル・ベッカー《Hound》の怒鳴り声が返ってきた。
『クソッ! 何なんだよ、この港は! さっきから敵が無限に湧いてきやがる!』
「無限ではないだろう」
『じゃあ何だ!? 大和国の兵士は倉庫で栽培でもされてんのか!?』
レイブンは思わず苦笑した。
「それは知らん」
『知らねえじゃねえんだよ! こっちは朝飯もまともに食ってねえんだぞ!』
その時、背後の建物からエリシア・L・ヴォルハラム《Valkyrie》の声が響いた。
「ガイル! 無駄口を叩く暇があるなら、そっちの敵を何とかしなさい!」
『やってるだろうが! こっちは一人で三人分くらい働いてんだよ!』
「三人分も働いているなら、口を動かす余裕なんてないでしょう!」
『口は別勘定だ!』
レイブンは崩れた壁の陰へ身を寄せた。
「……元気だな、お前たち」
エリシアが振り向いた。
「元気じゃないわよ! もう五時間も戦ってるのよ!?」
「そうだな」
「そうだな、じゃないでしょう!」
レイブンは僅かに笑った。
「すまない」
「謝るくらいなら、少しは休んで!」
「お前もな」
エリシアは一瞬だけ黙った。
そして、深く息を吐いた。
「……本当に、あなたって人は」
その直後、港湾倉庫の奥から再び銃声が響いた。
三人は即座に身を低くした。
「敵歩兵、接近!」
先遣部隊の隊員が叫んだ。
ガイルは銃を構え直した。
「またかよ! クソッタレ! いい加減にしやがれ!」
レイブンは無線を開いた。
「こちらNoX。先遣部隊、現在位置を維持。敵の増援経路を確認しろ」
『了解!』
その返答と同時に、倉庫の奥から大和国軍兵士たちが姿を現した。
レイブンはBPSG-12を構え、仲間たちとともに再び戦闘へ戻った。
帝政歴350年10月20日、午後12時21分。旧港湾地区、中央貨物倉庫群。
「おい、NoX!」
ガイルが崩れた貨物コンテナの陰から顔を出した。
「何だ?」
「一つ聞いていいか?」
「手短にな」
「俺たち、何でまだここにいるんだ?」
レイブンは一瞬だけ動きを止めた。
「任務だからだろう」
「そういう意味じゃねえよ!」
ガイルは頭を抱えた。
「五時間以上も撃ち合って、倉庫を三つ確保して、また二つ取り返されて、さっきようやく中央通路を押さえたと思ったら、今度は裏から敵が出てきやがった!」
「地下通路があるらしい」
「それだよ! そのクソみてえな地下通路だ!」
エリシアが隣でHARの弾倉を交換した。
「港湾施設の地下には、昔の貨物搬送路があるそうよ」
ガイルは目を見開いた。
「何だと!?」
「第915旅団の資料に載っていたわ」
「それ、もっと早く言えよ!」
「言ったわよ! 作戦前の説明で!」
「聞いてねえ!」
「でしょうね!」
レイブンは額に手を当てた。
「……お前たち、少し声を落とせ」
ガイルは苛立ったように答えた。
「無理だ! 俺の忍耐力は三時間前に戦死した!」
エリシアも頷いた。
「私の休憩時間も、朝から行方不明よ」
「……そうか」
レイブンは二人を見た。
「俺の睡眠時間も、昨日から消息不明だ」
一瞬、沈黙が流れた。
そして、ガイルが吹き出した。
「ぶははっ! お前まで何言ってんだよ!」
エリシアも笑い始めた。
「もう……三人とも限界ね」
「そうかもしれないな」
その時、先遣部隊の一人が無線を入れた。
『NoX、こちら第二班。敵がまた北側倉庫から出てきました!』
ガイルは天を仰いだ。
「……神様よぉ」
レイブンが振り向いた。
「どうした?」
「頼むから、あの倉庫の扉を溶接してくれ」
エリシアが笑った。
「無理でしょう」
「じゃあ爆破しろ!」
「中に民間人が残っている可能性がある」
レイブンの言葉に、ガイルは舌打ちした。
「……分かってるよ。だから我慢してんだろ」
彼は銃を構え直した。
「よし。もう一回行くぞ」
レイブンは頷いた。
「ああ」
帝政歴350年10月20日、午後13時07分。旧港湾地区、北側倉庫群。
港湾地区の戦闘は、さらに激しさを増していた。
大和国軍は地下搬送路と複数の倉庫を利用し、先遣部隊の側面へ繰り返し攻撃を仕掛けていた。
しかし、帝国軍と連邦共和国軍の先遣部隊も、ただ防戦を続けているわけではなかった。
レイブンは敵の進出経路を一つずつ確認し、HoundとValkyrieを中心に防衛線を組み直していた。
「第二班、南側通路を確保。第三班は負傷者を後方へ」
『了解!』
「Hound、中央を頼む」
『了解。ったく、今日だけで何回中央を守ってんだよ!』
「数えていない」
『俺もだ!』
エリシアはHARを構えながら、レイブンの隣へ移動した。
「レイブン、弾薬は?」
「まだある」
「本当に?」
「ああ」
「嘘だったら怒るわよ」
レイブンは小さく笑った。
「分かっている」
エリシアは彼の顔を見た。
「……疲れているでしょう?」
「お前ほどじゃない」
「またそうやって……」
彼女は小さく息を吐いた。
「あなたって、どうして自分のことになると適当なの?」
「適当なつもりはない」
「じゃあ、少しは私を安心させて」
レイブンは彼女を見つめた。
そして、静かに答えた。
「……必ず帰る」
エリシアは僅かに微笑んだ。
「約束よ」
「ああ」
その瞬間、ガイルの怒鳴り声が響いた。
「おい! また二人でいい雰囲気になってんじゃねえ!」
エリシアが振り向いた。
「ガイル!」
「こっちは恋人どころか、昼飯すら来ねえんだぞ!」
レイブンは苦笑した。
「後で何か奢る」
「絶対だな!?」
「ああ」
「よし! じゃあ俺はまだ死ねねえな!」
エリシアは呆れたように笑った。
「本当に単純なんだから」
ガイルは胸を張った。
「単純で結構! 複雑なことはお前ら二人に任せる!」
帝政歴350年10月20日、午後13時53分。旧港湾地区、中央貨物岸壁。
上陸から七時間が経過しようとしていた。
レイブンたち先遣部隊は、中央貨物岸壁の一角に臨時防衛線を構築していた。
しかし、大和国軍の抵抗は衰える気配を見せなかった。
地下搬送路から現れる歩兵。
倉庫の屋上に配置された狙撃手。
港湾施設の奥から撃ち込まれる機関銃。
そのすべてが、先遣部隊の前進を阻んでいた。
「……クソッ!」
ガイルは壁の陰へ身を寄せた。
「もう七時間だぞ!? 七時間! 俺のケツが椅子を忘れちまった!」
隣の帝国軍兵士が苦笑した。
「Hound、まだ元気ですね」
「元気じゃねえよ! もう腰から下が他人の身体みてえだ!」
別の兵士が笑った。
「じゃあ、上半身だけで戦ってください」
「ふざけんな! 俺の下半身にも人権があるんだよ!」
その言葉に、周囲から笑い声が上がった。
エリシアはHARを構えたまま、呆れたように言った。
「……本当に下品ね」
ガイルが振り向いた。
「おいおい、七時間も撃ち合ってりゃ、上品な会話なんざ消し飛ぶんだよ!」
「だからって、下半身の話をする必要はないでしょう!」
「俺の下半身が限界なんだから仕方ねえだろ!」
レイブンは二人の間に割って入った。
「……頼むから、敵に聞こえる声で話すな」
ガイルは笑った。
「いいじゃねえか! 敵さんも笑ってくれるかもしれねえぞ!」
エリシアは額を押さえた。
「……もう嫌」
その時、港湾地区の奥から再び銃声が響いた。
ガイルは顔をしかめた。
「……ああ、もう! 今度は何だ!?」
レイブンはBPSG-12を構えた。
「敵の増援だ」
「知ってるよ! 聞き飽きたんだよ、その言葉!」
エリシアが叫んだ。
「ガイル! 左側を見て!」
「見てるっつーの!」
レイブンは無線を開いた。
「こちらNoX。全先遣部隊、中央岸壁の防衛線を維持。負傷者の後送を優先しろ」
『了解!』
その時だった。
インカムに、突然ルナの声が割り込んできた。
『こちらNYX! 先遣部隊全員、緊急退避!』
レイブンの表情が変わった。
「……ルナ?」
『港湾地区に対して、三艇による機銃弾幕支援を実施する!』
ガイルが顔を上げた。
「……は?」
ルナの声は、普段の明るいものとはまるで違っていた。
『全員、指定退避区域へ移動! 繰り返す、全員退避!』
レイブンは無線機を握り締めた。
「NYX、待て。状況を説明しろ」
しかし、返ってきたのは短く鋭い命令だった。
『十秒以内に退避! これは命令!』
一瞬、時間が止まったように感じられた。
ガイルは、それまでの軽口を完全に止めた。
そして、ゆっくりとレイブンを見た。
その顔には、先ほどまでの笑みが一切なかった。
「……NoX」
レイブンも同じ表情でガイルを見返した。
二人は一秒だけ、互いの目を見つめた。
言葉は必要なかった。
ガイルの表情が、すべてを物語っていた。
――やべぇ。
レイブンも同じことを考えていた。
その時、エリシアはまだ前方の敵兵へ向かって怒鳴っていた。
「いい加減にしなさいよ! さっきから何度も何度も! あなたたち、休むって言葉を知らないの!?」
彼女はHARを構えながら、疲労と苛立ちを隠そうともしていなかった。
「こっちは朝から何も食べてないのよ! せめて五分くらい休ませなさい!」
レイブンは一瞬だけ彼女を見た。
そして、決断した。
「……悪い、エリシア」
「え? 何が――」
次の瞬間。
レイブンはエリシアの身体を抱き上げた。
「きゃっ!?」
彼女の驚いた声が響く。
「ちょ、ちょっとレイブン!?」
「後で説明する!」
レイブンは〔身体超強化〕を発動した。
脚部の筋肉が瞬間的に強化され、地面を蹴る力が爆発的に増大する。
彼はエリシアを両腕で抱えたまま、指定された退避区域へ向けて全速力で駆け出した。
「ええええっ!? 何!? 何なの!?」
エリシアは突然の出来事に目を丸くした。
その横を、ガイルが必死の形相で走っていく。
「逃げろおおおおおおっ!!」
ガイルは無線へ向かって怒鳴った。
「全員、退避しろ! 今すぐだ! NYXが本気だぞ!!」
先遣部隊の隊員たちが一斉に動き始めた。
「退避! 退避!」
「指定区域へ走れ!」
「負傷者を運べ!」
「急げ!」
エリシアはレイブンの腕の中で叫んだ。
「レイブン! 説明して!」
「ルナが機銃支援を始める!」
「……え?」
「十秒以内に退避しろと言っている!」
エリシアの表情が一変した。
「……じゅ、十秒!?」
「そうだ!」
「何でそれを先に言わないのよおおおおっ!!」
「言う暇がなかった!」
「だったらもっと速く走ってええええっ!!」
「もう全速力だ!」
ガイルが横から叫んだ。
「お前ら、夫婦漫才してる場合じゃねえだろおおおっ!!」
レイブンはガイルへ怒鳴り返した。
「お前も走れ!」
「走ってるだろうがああああっ!!」
帝政歴350年10月20日、午後13時54分。旧港湾地区沖合、帝国軍高速戦闘舟艇第一艇。
ルナは操舵席で戦況表示装置を確認していた。
三隻の高速戦闘舟艇は、港湾地区の沖合で射撃準備を完了していた。
「第一艇、射撃準備完了!」
「第二艇、準備完了!」
「第三艇、準備完了!」
ルナは無線を開いた。
「こちらNYX。先遣部隊、退避完了を報告して!」
『こちら第二班! 退避完了!』
『第三班、退避完了!』
『負傷者搬送班、退避完了!』
最後に、レイブンの声が響いた。
『こちらNoX! 主要部隊、退避区域へ到達! ただし全員の位置を最終確認中!』
ルナは歯を食いしばった。
「……急いで」
彼女は射撃担当者へ視線を向けた。
「友軍位置の最終照合が終わるまで撃たないで」
「了解!」
数秒後、最後の確認が入った。
『こちらNoX! 全先遣部隊、退避完了! 射撃区域内に友軍なし!』
ルナは静かに息を吐いた。
「……よし」
そして、無線を開いた。
「こちらNYX。全艇、射撃許可」
三隻の高速戦闘舟艇に搭載された機関銃群が、一斉に港湾地区へ向けられた。
小口径機関銃。
中口径機関銃。
大口径重機関銃。
それぞれの火器が、事前に指定された射撃区域へ向けて照準を合わせる。
「全艇、弾幕射撃開始!」
次の瞬間。
三隻の高速戦闘舟艇から、凄まじい銃声が響き渡った。
連続する発射音が重なり、まるで巨大な金属の獣が咆哮しているかのような轟音となる。
曳光弾が海面の上を走り、港湾地区の外縁へ向けて無数の光跡を描いた。
機関銃弾が地面を叩き、土砂とコンクリート片が噴き上がる。
港湾地区の一角では、大和国軍の機関銃陣地が激しい射撃を受け、次々と沈黙していった。
「第一艇、射撃継続!」
「第二艇、弾幕維持!」
「第三艇、指定区域へ射撃!」
ルナは冷静に状況を確認していた。
「民間人が残る倉庫群への射撃は禁止! 敵の確認された火点と無人の防御陣地に限定して!」
『了解!』
三隻の機関銃群は、交互に射撃と冷却、給弾を繰り返しながら、港湾地区への制圧射撃を継続した。
その作戦に投入された機関銃弾は、小口径から大口径までを合わせて約五万発に達した。
すべてが一瞬で発射されたわけではない。
三隻の舟艇が搭載する複数の火器によって、時間を分けて実施された大規模な制圧射撃だった。
それでも、その規模は先遣部隊の兵士たちにとって想像を超えるものだった。
帝政歴350年10月20日、午後14時02分。旧港湾地区、先遣部隊退避区域。
「…………」
ガイルは崩れた防波堤の陰から、港湾地区を見つめていた。
その顔には、先ほどまでの軽薄な笑みが完全に消えていた。
「……おい、NoX」
「何だ?」
「……お前の妹、何者だよ」
レイブンはエリシアを地面へ下ろしながら答えた。
「俺の妹だ」
「そういう意味じゃねえよ!」
ガイルは港湾地区を指差した。
「見ろよ、あれ! 港が丸ごと震えてんじゃねえか!」
レイブンは静かに頷いた。
「……ああ」
エリシアはようやく状況を理解し、深く息を吐いた。
「……もう」
彼女はレイブンを見た。
「心臓が止まるかと思ったわ」
「悪かった」
「突然抱き上げられたと思ったら、全速力で走り出すんだもの!」
「十秒しかなかったからな」
「それは分かってるけど……」
エリシアは少しだけ頬を赤くした。
「……せめて一言くらい言ってほしかった」
レイブンは苦笑した。
「次からはそうする」
ガイルが横から口を挟んだ。
「次があってたまるか!」
その言葉に、周囲の先遣部隊員たちが笑い始めた。
しかし、次の瞬間には再び機関銃の轟音が響き、全員が防波堤の陰へ身を低くした。
「うおっ!?」
ガイルが叫んだ。
「まだ撃ってんのかよ!」
レイブンは無線を開いた。
「NYX、こちらNoX。射撃状況は?」
『こちらNYX。敵の主要火点を制圧中。残弾と銃身温度を確認しながら、順次射撃を終了するよ』
「了解。無理はするな」
『分かってる! お兄ちゃんたち、ちゃんと退避できた?』
「ああ」
『エリシアさんも?』
レイブンは隣を見た。
エリシアは腕を組んでいた。
「……無事だ」
『よかった!』
その時、エリシアが無線機を奪うように顔を近づけた。
「ルナ!」
『は、はい!?』
「十秒って何なのよ! 十秒って!」
『ご、ごめんなさい! でも、敵の増援が港湾地区へ集まってて、今しかなかったから!』
「分かってるわよ! 分かってるけど!」
エリシアは一度息を吸った。
「……次からは、もう少し早く教えてちょうだい」
ルナは小さな声で答えた。
『……はい』
レイブンは苦笑した。
「エリシア、ルナも任務中だ」
「分かってるわ」
エリシアは無線機から少し離れた。
そして、静かに付け加えた。
「……でも、助かった。ありがとう」
ルナの声が明るくなった。
『うん! どういたしまして!』
ガイルが横から叫んだ。
「おい、NYX!」
『何ですか?』
「お前ら、やっぱり〈地獄の誘導者達〉だわ!」
『もう! その呼び方やめてください!』
「いや、今日ので確定だろ!」
『Houndさん!』
ガイルは腹を抱えて笑った。
「ぶはははっ! 最高だぜ!」
レイブンは呆れたように息を吐いた。
「……お前、本当に元気だな」
「さっきまで死ぬかと思ってたからな! 生きてるだけで笑えるんだよ!」
エリシアも小さく笑った。
「……それは少し分かるわ」
帝政歴350年10月20日、午後14時18分。旧港湾地区、中央貨物岸壁。
三隻の高速戦闘舟艇による制圧射撃が終了した。
港湾地区には硝煙が漂い、複数の大和国軍防御陣地が破壊されていた。
しかし、倉庫群の一部には依然として敵兵が残っており、地下搬送路からの増援も完全には途絶えていなかった。
レイブンは携帯端末で戦況を確認した。
「……敵の射撃が減ったな」
エリシアが頷いた。
「ええ。少なくとも、さっきまでのような集中攻撃は止まっている」
ガイルは銃を構え直した。
「じゃあ、今度こそ港を確保できるか?」
「まだ分からない」
レイブンは前方を見た。
「ただ、前進する機会はできた」
その時、共同戦線司令部から通信が入った。
『こちら共同戦線司令部。旧港湾地区の敵火力低下を確認。後続の連邦共和国軍機械化歩兵部隊が前進を開始した』
「こちらNoX。了解。先遣部隊は港湾地区の安全確認を継続します」
『了解。民間人保護と捕虜の取り扱いに注意せよ』
「承知しました」
レイブンは通信を切った。
そして、HoundとValkyrieへ視線を向けた。
「……行くぞ」
ガイルが笑った。
「おう! 今度こそ終わらせようぜ!」
エリシアも頷いた。
「ええ」
三人は港湾地区へ向けて歩き始めた。
その背後では、三隻の高速戦闘舟艇が海上警戒を続けている。
ルナは操舵席から陸上の様子を見つめていた。
「……お兄ちゃん」
彼女は小さく呟いた。
「今度は、ちゃんと帰ってきてね」
そして、無線を開いた。
「こちらNYX。全艇、海上警戒を継続。上陸部隊の帰還経路を確保するよ」
『了解!』
午後の陽光が、硝煙に覆われた港湾地区を照らしていた。
七時間以上に及ぶ戦闘。
疲労と苛立ちの中で飛び交った悪態。
そして、三隻の高速戦闘舟艇から放たれた約五万発の機関銃弾。
その日、旧港湾地区にいた帝国軍と連邦共和国軍の兵士たちは、〈地獄の誘導者達〉という異名が生まれた理由を、身をもって理解することになった。
しかし、レイブンたちにとって、戦闘はまだ終わっていなかった。
港湾地区の奥には、最後まで抵抗を続ける大和国軍の守備隊が残されていたのである。




