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黒鴉年代記 ~戦火を超えて、受け継がれる意志~  作者: @12
第二部:戦火の終焉と新たなる時代 第一章 交わる軍旗、影と戦乙女
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第146話 鋼鉄の援軍――反撃の狼煙

第146話 鋼鉄の援軍――反撃の狼煙


帝政歴350年07月19日、午後17時12分頃。連邦共和国東部沿岸、第915旅団第二防衛線。

夕暮れの海岸線を、帝国軍戦闘攻撃機の轟音が切り裂いた。低く垂れ込めた雲の下を四機の航空機が通過し、その後方では大和国軍の対空砲火が次々と炸裂している。黒煙に覆われた砂浜には破壊された上陸艇や装甲車両が散乱し、連邦共和国軍の防衛陣地からは断続的な機関銃射撃が続いていた。

レイブン・S・クロウ《NoX》は崩れた塹壕の胸壁に身を寄せ、上空を通過する航空機を見上げた。黒い猫耳がジェットエンジンの方向へ動き、金色と黒色のオッドアイが機体の識別標識を捉える。

「帝国空軍か。随分と早かったな」

隣でHARを構えていたエリシア・L・ヴォルハラムが、金色の髪をヘルメットの内側へ押し込みながら答えた。

「条約が結ばれてから、まだ半日も経っていないのに……」

「軍同士の調整は、これからだろうな」

「それでも、来てくれた」

エリシアは海岸へ視線を戻した。

「今の私たちには、それだけでも十分よ」

その時、レイブンのインカムに通信が入った。

『こちら帝国空軍攻撃隊、コールサイン《Falcon One》。地上のNoX、応答願う』

「こちらNoX。良好だ」

『共同戦線司令部からの命令により、貴部隊および連邦共和国軍第915旅団への近接航空支援を実施する。友軍位置と敵情を確認したい』

レイブンは携帯端末に表示された地図を確認した。

「第915旅団は第二防衛線を維持中。敵は海岸部に橋頭堡を形成し、複数の装甲車両と歩兵部隊を展開している。友軍との距離が近い。攻撃前に連邦側指揮所との照合を頼む」

『了解。連邦側航空管制班との接続を確認するまで、兵装投下は保留する』

「助かる」

無線の向こうで短い応答が返った。

『Falcon One、了解』

ガイル・ベッカー《Hound》が塹壕の角から顔を出した。

「おい、NoX! 上の連中、派手にやってくれるのか?」

「味方を巻き込まない範囲でな」

「そりゃ大事だ。俺はまだ死にたくねえ」

「さっきから何度も聞いている」

「何度言っても足りねえんだよ!」

エリシアが思わず笑った。

「ガイル、少し静かにできないの?」

「おいおい、久しぶりに会ったってのに、俺への第一声がそれかよ!」

「第一声じゃないでしょう?」

「細けえことはいいんだよ!」

レイブンは二人のやり取りを聞きながら、塹壕の向こうに目を向けた。

大和国軍の前進が、再び始まっていた。

帝政歴350年07月19日、午後17時19分頃。大和国海軍、連邦共和国東部沿岸沖合。

大和国軍の艦隊指揮所では、連邦共和国軍の防衛線を示す戦況図が広げられていた。

艦橋の窓越しには、夕日を背にした海岸線が見える。その上空では大和国軍の戦闘機と帝国軍航空機が交錯し、遠方で対空砲弾の黒い炸裂煙が浮かんでいた。

「帝国軍航空部隊の介入を確認しました」

作戦参謀の報告に、艦隊指揮官は眉をひそめた。

「帝国が?」

「はい。連邦共和国軍の防衛線上空で活動しています。さらに、沿岸部では帝国軍の高速舟艇三隻が確認されています」

「……予想より早いな」

指揮官は地図へ視線を落とした。

大和国軍は連邦共和国の沿岸防衛施設を奇襲し、短期間で港湾と飛行場を確保することを目指していた。

しかし、連邦共和国軍の抵抗は想定以上に激しかった。

特に、今回初めて実戦投入された新型弾薬は、上陸部隊の防護装備や一部の軽装甲車両に対して予想以上の効果を発揮していた。

そして、帝国軍の参戦。

それは、作戦全体の前提を変える出来事だった。

「第915旅団の防衛線は?」

「依然として健在です。第二波、第三波の上陸部隊が攻撃を継続していますが、帝国軍の介入によって前進速度が低下しています」

「陸軍側の要求は?」

「追加の艦砲支援と航空支援を要請しています」

艦隊指揮官はしばらく考え込んだ。

そして、静かに口を開いた。

「我々の目的は、海岸で兵を消耗させることではない。港湾施設を確保し、後続部隊を上陸させることだ」

「はっ」

「敵の防衛線を正面から押し潰すだけでは、時間を失う」

指揮官は地図上の河口と港湾地区を指差した。

「連邦軍の防衛線は内陸へ延びている。海岸に兵力を集中させている今、別の上陸地点を確保できれば、敵の後方に圧力をかけられる」

作戦参謀が頷いた。

「では、予備上陸部隊を投入しますか?」

「準備を進めろ。ただし、帝国軍航空部隊の動向を確認してからだ」

「了解しました」

指揮官は窓の外を見つめた。

「……帝国と連邦共和国が手を結ぶとはな」

彼の声には、驚きと警戒が混じっていた。

「戦争というものは、思いどおりには進まんらしい」

帝政歴350年07月19日、午後17時26分頃。連邦共和国東部沿岸、第915旅団第二防衛線。

敵の砲撃が再び激しくなった。

大和国軍の迫撃砲弾が塹壕の前方へ着弾し、土砂と破片が降り注ぐ。

「伏せろ!」

連邦共和国軍の指揮官が叫んだ。

レイブンはエリシアの肩を掴み、崩れた胸壁の内側へ引き寄せた。

直後、頭上を金属片が通過し、後方の木製支柱へ突き刺さった。

「……っ!」

エリシアが息を呑んだ。

「大丈夫か?」

「ええ。ありがとう」

レイブンは頷き、無線を開いた。

「こちらNoX。敵砲撃が再開した。第915旅団指揮所、損害状況は?」

『こちら指揮所。左翼の通信線が一部切断された。現在、予備回線へ切り替えている』

「了解。SHADOW LADYから通信支援を出す」

『助かる』

レイブンはHoundへ視線を向けた。

「Hound、左翼へ向かえるか?」

「おう。誰を連れてく?」

「通信担当二名と護衛を頼む」

「了解。そっちは?」

「エリシアたちと中央を維持する」

Houndはにやりと笑った。

「……また二人きりか?」

「仕事だ」

「へいへい、分かってますよ」

エリシアが呆れたように言った。

「ガイル、早く行きなさい」

「はいはい! 怖い怖い!」

HoundはSHADOW LADYの隊員たちを連れ、左翼の塹壕へ走っていった。

その直後、前方の観測員が叫んだ。

「敵装甲車両、再接近! 歩兵多数!」

レイブンは胸壁の隙間から敵を確認した。

砂煙の向こうに、複数の装輪装甲車と歩兵が見えた。

さらに、その後方では上陸艇から新たな兵士たちが降りている。

「……本当に数が多いな」

エリシアが呟いた。

「だが、無限ではない」

「そうね」

レイブンは無線を開いた。

「Falcon One、こちらNoX。敵の新たな装甲部隊を確認した」

『こちらFalcon One。連邦側航空管制班との照合を完了。目標情報を受領した』

「了解。こちらは防衛線を維持する」

『攻撃隊、進入準備』

上空でジェットエンジンの音が変わった。

帝国軍の戦闘攻撃機が高度を調整し、海岸へ向けて進入する。

連邦共和国軍の観測員が、双眼鏡を構えた。

「帝国軍航空機、攻撃態勢!」

その直後、機体から精密誘導兵装が投下された。

兵装は指定された敵装甲部隊の集結地点へ向かい、数秒後、海岸後方で激しい爆発が発生した。

土砂と黒煙が噴き上がり、敵の車両群が停止する。

「命中確認!」

観測員が叫んだ。

「敵装甲部隊、進撃停止!」

塹壕の中から歓声が上がった。

しかし、レイブンは表情を緩めなかった。

「まだ終わっていない」

エリシアが頷いた。

「ええ。歩兵は残っている」

二人は再び銃を構えた。

帝政歴350年07月19日、午後17時34分頃。連邦共和国東部沿岸、帝国軍高速戦闘舟艇第一艇。

「NYX! 敵艦艇の砲撃が一時停止しました!」

見張員の報告に、ルナは前方を見た。

沖合では帝国軍航空機が活動しており、大和国軍の艦艇は対空警戒へ注意を向けていた。

「了解。全艇、海岸支援位置へ戻る」

『了解!』

「第二艇、第三艇、負傷者の回収準備は?」

『第二艇、準備完了!』

『第三艇、連邦共和国軍の衛生班と合流可能です!』

ルナは頷いた。

「よし。まずは負傷者を回収する。戦闘支援はその後よ」

その時、通信担当者が振り向いた。

「NYX! 連邦共和国軍第915旅団から、緊急の救援要請です!」

「内容は?」

「防衛線後方の臨時救護所が敵砲撃を受け、負傷者の搬送経路が遮断されたとのことです!」

ルナの表情が引き締まった。

「……救護所が?」

「はい。負傷者多数。現在、衛生兵が避難を試みていますが、陸路での搬送が困難です」

ルナは一瞬だけ考えた。

そして、すぐに無線を開いた。

「こちらNYX。第915旅団指揮所、応答してください」

『こちら第915旅団指揮所』

「救護所の負傷者について確認しました。舟艇による海上搬送を提案します」

『可能なのか?』

「海岸への搬送経路が確保できれば可能です。ただし、敵の砲撃が続いているため、時間は限られます」

『了解。衛生班へ連絡する』

「こちらも準備します」

ルナは通信を切り替えた。

「NoX、こちらNYX」

『こちらNoX。どうした?』

「第915旅団の救護所が砲撃を受けた。負傷者を海上搬送するから、海岸までの経路確保をお願いできる?」

レイブンの返答は早かった。

『了解。Houndたちと連携する』

「ありがとう」

『ルナ』

「何?」

『お前も気をつけろ』

ルナは少しだけ笑った。

「……うん。お兄ちゃんもね」

帝政歴350年07月19日、午後17時42分頃。第915旅団後方臨時救護所。

破壊された建物の地下室では、衛生兵たちが負傷者の応急処置を続けていた。

床には担架が並び、負傷した兵士たちが毛布を掛けられて横たわっている。

その中には、連邦共和国軍だけでなく、先ほどの戦闘で負傷した帝国軍兵士も含まれていた。

「次の負傷者をこちらへ!」

「止血帯を確認して!」

「輸送車両はまだ来ないのか!?」

衛生兵たちの声が飛び交う。

その時、入口からレイブンとエリシアが駆け込んできた。

「帝国軍SHADOW LADY、NoXです。負傷者の海上搬送を支援します」

衛生班の責任者が顔を上げた。

「海上搬送?」

「帝国軍舟艇部隊が海岸で待機しています。搬送可能な負傷者から順に移動させます」

責任者は頷いた。

「助かる。だが、重傷者もいる。慎重に運ばなければならない」

「了解しました」

エリシアは担架の一つへ近づいた。

そこには、先ほどまで同じ塹壕で戦っていた連邦共和国軍兵士が横たわっていた。

「……ヴォルハラム?」

兵士がかすれた声で呼びかけた。

エリシアは膝をついた。

「大丈夫。助けが来たわ」

「……帝国軍が?」

「ええ」

兵士は驚いたように目を見開いた。

エリシアは静かに微笑んだ。

「今は、私たちの味方よ」

その言葉に、兵士は小さく頷いた。

レイブンは衛生兵とともに担架を持ち上げた。

「行きましょう」

「お願いします」

外では、再び砲声が響いていた。

しかし、救護所の兵士たちは動きを止めなかった。

帝国軍と連邦共和国軍の衛生兵たちが協力し、負傷者を一人ずつ搬送していく。

帝政歴350年07月19日、午後17時56分頃。連邦共和国東部沿岸、臨時海上搬送地点。

夕日に染まる海岸へ、三隻の高速戦闘舟艇が接近していた。

第一艇の操舵席では、ルナが双眼鏡を構えている。

「負傷者搬送班、確認!」

見張員が叫んだ。

「NoXたちです!」

ルナは前方を見た。

砂浜の向こうから、レイブンとエリシアが担架を運びながら近づいてくる。

その周囲ではHoundとSHADOW LADYの隊員たちが警戒にあたり、連邦共和国軍の兵士たちが搬送を支援していた。

「全艇、接岸準備!」

『了解!』

「機関出力を調整。負傷者の移乗を優先して!」

舟艇が速度を落とし、浅瀬へ接近する。

ルナは甲板から身を乗り出した。

「お兄ちゃん! こっち!」

レイブンが顔を上げた。

「ルナ! 負傷者を頼む!」

「任せて!」

舟艇の乗員たちが担架を受け取り、慎重に甲板へ運び込む。

エリシアは負傷者の状態を確認しながら、次の担架へ向かった。

「呼吸は安定しているわ。搬送中も様子を見て」

「了解!」

ルナはその姿を見つめた。

「……エリシアさん」

エリシアが振り向く。

「ルナ!」

二人は一瞬だけ微笑み合った。

「無事でよかった」

「あなたもね」

しかし、すぐにルナは指揮官としての表情へ戻った。

「まだ負傷者が残ってる。全員運び終えるまで、ここを離れないから」

エリシアは頷いた。

「ありがとう」

その時、遠くの海岸から再び爆発音が響いた。

大和国軍の砲撃が、搬送地点へ近づき始めていた。

「敵砲撃、接近!」

見張員が叫んだ。

レイブンはすぐに無線を開いた。

「Hound、搬送地点の防御を強化しろ!」

『了解!』

「NYX、負傷者を優先して退避準備!」

『了解!』

ルナは操舵席へ戻り、前方を見据えた。

白い髪が潮風に揺れる。

「……絶対に、全員連れて帰る」

その声には、強い決意が込められていた。

帝政歴350年07月19日、午後18時07分頃。連邦共和国東部沿岸、第915旅団第二防衛線。

夕日は水平線へ沈みかけていた。

帝国軍航空部隊の支援によって、大和国軍の装甲部隊は一時的に進撃を停止していたものの、上陸部隊の圧力は依然として強かった。

第915旅団は第二防衛線を維持しながら、負傷者の後送と補給の再編成を続けていた。

その頃、帝国軍と連邦共和国軍の共同作戦司令部では、新たな報告が届いていた。

大和国軍が、沿岸部の別地点へ予備上陸部隊を移動させているという情報だった。

それは、第915旅団の防衛線を正面から突破するのではなく、側面から包囲するための新たな攻勢を意味していた。

しかし、その情報が前線へ届くまでには、まだ時間が必要だった。

レイブンは海岸線を見つめながら、静かに呟いた。

「……まだ何か来るな」

隣に立つエリシアが尋ねた。

「どうしたの?」

「敵の動きが変わった」

「……何か分かる?」

「まだ分からない。ただ、正面の圧力が少し弱まっている」

エリシアは遠方の砂浜を見つめた。

確かに、先ほどまで続いていた大和国軍の突撃が、わずかに減っていた。

「……嫌な予感がするわね」

「ああ」

レイブンはBPSG-12を握り直した。

「だが、何が来ても対応する」

エリシアは彼を見た。

そして、静かに微笑んだ。

「……一緒にね」

レイブンも頷いた。

「ああ」

二人の背後では、帝国軍と連邦共和国軍の兵士たちが協力し、崩れた塹壕の修復を進めていた。

敵国同士だった二つの軍隊が、同じ戦場で互いの命を守り合っている。

その光景は、数日前まで誰も想像していなかったものだった。

しかし、第二次世界大戦の開戦初日。

帝国と連邦共和国は、確かに同じ戦線に立っていた。

そして、大和国軍の新たな上陸作戦が始まろうとしていた。

夕闇が海岸線を包み込む中、遠くの水平線に新たな艦影が現れた。

その艦隊が何を運んでいるのか、まだ誰も知らなかった。

ただ一つ確かなことは、この戦いが、まだ終わらないということだった。

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