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黒鴉年代記 ~戦火を超えて、受け継がれる意志~  作者: @12
第二部:戦火の終焉と新たなる時代 第一章 交わる軍旗、影と戦乙女
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第144話 戦火の再会――二つの軍旗の下で

第144話 戦火の再会――二つの軍旗の下で


帝政歴350年07月19日、午後14時08分頃。帝国東部軍港、帝国海軍沿岸作戦基地。

軍港の桟橋には、慌ただしい足音と軍用車両のエンジン音が響いていた。

大和国領内からの強行撤収を成功させた三隻の高速戦闘舟艇は、補給と整備を終え、再び出撃できる状態に戻されていた。甲板では機関銃手が給弾装置を点検し、整備員たちがウォータージェット推進装置の吸水口や機関部を確認している。

港の一角では、負傷したSHADOW LADYの隊員二名が衛生兵に付き添われ、基地医療施設へ搬送されていた。

「よし、ゆっくり降ろせ。担架を傾けるな」

衛生兵の指示に従い、隊員たちが負傷者を搬送車両へ移していく。

その様子を見届けたレイブン・S・クロウ《NoX》は、ようやく肩の力を抜いた。

「……これで全員、無事に引き渡せたな」

隣に立つガイル・ベッカー《Hound》が、大きく伸びをした。

「ああ。ったく、昨夜からまともに休んでねえぞ。俺の身体はもう限界だっての」

「その割には元気そうだな」

「口だけはな」

レイブンは小さく笑った。

そこへ、白い髪を潮風になびかせたルナ・V・クロウ《Nyx》が近づいてきた。

彼女は舟艇部隊の指揮官として、既に次の出撃準備を進めていた。

「お兄ちゃん、司令部から呼び出しが来てるよ」

「司令部から?」

「うん。緊急の作戦説明だって」

レイブンは頷いた。

「分かった。すぐ行く」

Houndが横から口を挟んだ。

「おいおい、また仕事かよ。少しは休ませろってんだ」

ルナは肩をすくめた。

「文句なら司令部に言ってください」

「言ったところで聞いてくれねえだろ!」

「よく分かってるじゃない」

「お前、兄貴に似てきたな……」

ルナは楽しそうに笑った。

帝政歴350年07月19日、午後14時21分頃。帝国海軍沿岸作戦基地、作戦指揮室。

大型の戦況表示装置には、連邦共和国東部沿岸の地図が映し出されていた。

海岸線には複数の赤い敵上陸地点が表示され、その周囲には連邦共和国軍の防衛部隊を示す青い識別記号が並んでいる。

しかし、その中の一つが、明らかに孤立していた。

連邦共和国軍第915旅団。

その部隊は、大和国軍の上陸部隊によって側面と後方を圧迫され、補給路を遮断されつつあった。

「……第915旅団?」

レイブンが小さく呟いた。

作戦指揮官が振り向いた。

「知っている部隊か?」

「知人が所属しています」

「そうか」

指揮官は戦況図へ視線を戻した。

「本日午前十一時四十七分、帝国政府と連邦共和国政府は共同戦線条約を正式に締結した」

レイブンは目を見開いた。

「……共同戦線?」

「そうだ。両国は大和国軍の侵攻に対し、共同で防衛行動を行うことになった」

ルナが静かに尋ねた。

「つまり、私たち帝国軍が連邦共和国軍を支援するということですか?」

「そのとおりだ」

指揮官は地図上の第915旅団を指差した。

「現在、この旅団は海岸防衛線で孤立している。敵の増援が続いており、陸路からの救援は困難だ」

Houndが腕を組んだ。

「……で、俺たちの出番ってわけか」

「そうだ。君たちには、舟艇部隊による近接火力支援と、必要に応じた孤立部隊の救援を命じる」

レイブンは戦況図を見つめた。

第915旅団。

その名前を聞いた瞬間、彼の脳裏には金髪の女性の姿が浮かんでいた。

「……エリシア」

ルナが兄を見た。

「お兄ちゃん?」

レイブンは静かに頷いた。

「彼女が、あそこにいる」

ルナの表情が変わった。

「……エリシアさんが?」

「ああ」

指揮官は二人のやり取りを聞きながら、落ち着いた声で続けた。

「今回の任務は、あくまでも共同戦線条約に基づく正式な軍事支援だ。個人的な事情で作戦を変更することは認められない」

レイブンは即座に姿勢を正した。

「了解しました」

「君たちの舟艇部隊は、連邦共和国軍の沿岸防衛部隊と連携し、敵上陸部隊の進撃を阻止する。必要ならば、SHADOW LADYによる地上支援も実施する」

「了解」

「それと、NoX」

「はい」

「昨夜の大和国領内での行動報告は受け取っている。よく全員を連れ帰った」

レイブンは短く敬礼した。

「ありがとうございます」

「今度も全員を連れて帰れ」

「必ず」

帝政歴350年07月19日、午後14時47分頃。帝国海軍沿岸作戦基地、出撃桟橋。

三隻の高速戦闘舟艇が、再び出撃準備を整えていた。

先頭艇の操舵席にはルナが立ち、白い髪を後方で束ねながら航路情報を確認している。

その隣ではレイブンがBPSG-12の状態を点検していた。

「お兄ちゃん、準備は?」

「問題ない」

「Houndたちは?」

「既に乗船している」

後方から声が飛んだ。

「おーい! こっちはいつでも行けるぞ!」

Houndが甲板上で手を振っていた。

他のSHADOW LADY隊員たちも、それぞれの配置につき、装備と弾薬の確認を終えていた。

負傷者二名は基地医療施設へ搬送され、残る隊員たちが今回の作戦に参加していた。

ルナはインカムを開いた。

「こちらNYX。全艇、出撃準備完了を報告」

『第二艇、準備完了!』

『第三艇、準備完了!』

「了解。係留索を解け」

甲板員たちが係留索を外す。

「全艇、微速前進」

ウォータージェット推進装置が低い唸り声を上げた。

三隻の舟艇がゆっくりと桟橋を離れ、港内航路へ進み始める。

「港口通過後、指定航路へ。各艇、隊形を維持して」

『了解!』

港口を抜けた瞬間、ルナは前方の海面を見据えた。

「全艇、増速。作戦海域へ向かう!」

三隻の舟艇が一斉に加速した。

白い航跡が海面に広がり、帝国の軍港が急速に遠ざかっていく。

レイブンは船体の手すりを掴みながら、前方を見つめていた。

「……待っていろ、エリシア」

帝政歴350年07月19日、午後16時12分頃。連邦共和国東部沿岸、第915旅団孤立防衛地区。

海岸線は、再び激しい戦闘に包まれていた。

大和国軍の上陸部隊は第三波の増援を受け、連邦共和国軍の第二防衛線へ圧力をかけ続けていた。

砂浜には破壊された上陸艇と装甲車両が散乱し、沖合では大和国海軍の艦艇が砲撃を続けている。

第915旅団の前線陣地では、エリシア・L・ヴォルハラムがHARを構え、接近する敵兵へ向けて射撃を続けていた。

「敵歩兵、右側面から接近!」

「確認!」

エリシアは短い射撃で敵の前進を阻止した。

しかし、左側の機関銃陣地が敵の迫撃砲によって破壊され、側面の防御が弱まっていた。

「ヴォルハラム! 左側を援護して!」

「了解!」

彼女は塹壕内を移動し、崩れた土嚢の隙間から銃口を突き出した。

その時、沖合から低いエンジン音が聞こえてきた。

最初は敵の増援かと思われた。

「敵舟艇、接近!?」

観測員が双眼鏡を構える。

しかし、次の瞬間、彼は驚いたように叫んだ。

「待て! あれは……帝国軍の識別標識だ!」

エリシアが顔を上げた。

海上を三隻の高速戦闘舟艇が猛烈な速度で接近していた。

ウォータージェット推進によって白い航跡を描きながら、舟艇は大和国軍の上陸部隊へ向けて進んでいく。

その先頭艇には、白い髪の女性が立っていた。

「……まさか」

エリシアが呟いた。

その時、無線が入った。

『こちら帝国軍舟艇部隊、NYX。連邦共和国軍第915旅団、応答してください』

通信担当者が慌てて応答した。

「こちら第915旅団前線指揮所! 帝国軍か!?」

『そのとおりです。共同戦線条約に基づき、貴部隊の支援に来ました』

「……助かった! こちらは敵の包囲を受けている!」

『了解。これより近接火力支援を開始します』

ルナは前方の海岸を見据えた。

「全艇、敵上陸部隊を確認! 味方防衛線との位置関係に注意!」

『了解!』

「射撃許可!」

直後、三隻の舟艇に搭載された機関銃が一斉に火を噴いた。

ダダダダダダダダッ!!

猛烈な銃声が海岸線へ響き渡る。

大和国軍の上陸部隊は突然の側面射撃を受け、進撃を停止した。

砂浜に土煙が立ち上がり、複数の機関銃陣地が沈黙する。

「敵、混乱しています!」

「よし! 第二艇、左側面を援護! 第三艇、敵の増援を警戒!」

ルナの命令が次々と飛ぶ。

その頃、先頭艇の甲板では、レイブンが双眼鏡を構えていた。

「……第915旅団の陣地を確認」

Houndが隣へ近づいた。

「おい、NoX。あそこにいるのか?」

「分からない。だが、探す」

「了解。俺たちが援護する」

レイブンは頷いた。

そして、海岸へ視線を向けた。

その瞬間。

崩れた塹壕の一角で、金色の髪が風に揺れるのが見えた。

HARを構え、味方兵士を援護している女性。

見間違えるはずがなかった。

「……エリシア」

レイブンの声が変わった。

Houndが双眼鏡を覗き込む。

「……おお、いたな」

「Hound、援護を頼む」

「任せろ!」

レイブンはルナへ無線を開いた。

「NYX、こちらNoX。第915旅団前線陣地への接近を要請する」

『了解。ただし、敵の射撃が激しいから気をつけて』

「分かっている」

『……お兄ちゃん』

「何だ?」

『絶対に無茶しないでよ』

「努力する」

『努力じゃなくて約束して!』

レイブンは小さく笑った。

「……約束する」

先頭艇が海岸へ接近した。

レイブンはBPSG-12を背中へ固定し、船体の縁へ足をかけた。

「Hound、行くぞ」

「了解!」

二人は浅瀬へ飛び降りた。

水しぶきが上がり、濡れた砂浜へ足を踏み入れる。

背後では舟艇の機関銃が援護射撃を続けていた。

「SHADOW LADY、前進!」

レイブンの号令で、隊員たちが次々と海岸へ展開する。

大和国軍の歩兵が反応し、こちらへ銃口を向けた。

「敵兵、接近!」

Houndが叫ぶ。

「任せろ!」

彼は遮蔽物へ滑り込み、短い射撃で敵の接近を阻止した。

レイブンはその隙に塹壕へ向かって走った。

銃弾が砂浜を叩き、周囲に砂煙が舞い上がる。

しかし、彼は速度を落とさなかった。

そして、崩れた土嚢を飛び越えた先で、一人の女性と目が合った。

「……レイブン?」

エリシアだった。

彼女は一瞬、信じられないという表情を浮かべた。

「……どうして、ここに?」

レイブンは息を整えながら答えた。

「迎えに来た」

エリシアの瞳が大きく開かれた。

「……本当に?」

「ああ」

彼女はHARを身体へ固定すると、レイブンへ駆け寄った。

そして、その胸元へ飛び込んだ。

「……レイブン!」

レイブンは彼女をしっかりと抱き止めた。

「無事でよかった」

「それは私の台詞よ……!」

エリシアの声が震えていた。

「あなたが大和国で敵に包囲されたって聞いて……本当に、心配したんだから……!」

「すまない」

「もう……!」

彼女はレイブンの胸元へ顔を埋めた。

レイブンはその背中へ静かに腕を回した。

周囲では、HoundとSHADOW LADYの隊員たちが牽制射撃を続けていた。

「おーい! NoX!」

Houndが叫んだ。

「感動の再会は結構だがよ! こっちは絶賛戦闘中なんだぞ!」

「分かっている!」

「分かってるなら早くしろ! 俺たちの弾薬は無限じゃねえんだ!」

エリシアが思わず笑った。

「……相変わらずね、ガイル」

「おう! 久しぶりだな、エリシア! 元気そうで何よりだ!」

「あなたもね」

その時、レイブンのインカムから聞き慣れた声が響いた。

『……お兄ちゃん』

「何だ、ルナ?」

『一つだけ言ってもいい?』

「構わない」

ルナは少しだけ呆れたような声で言った。

『いちゃつくのは戦闘を終えてからにしてくれないか?』

一瞬、沈黙が流れた。

Houndが吹き出した。

「ぶはっ! 妹に怒られてやんの!」

エリシアは顔を赤くした。

「ち、違うのよ、ルナ! これは、その……!」

『はいはい。言い訳は帰ってから聞くから』

「ルナ!」

レイブンは苦笑した。

「……了解。戦闘に戻る」

『よろしい!』

その声には、どこか楽しそうな響きが混じっていた。

レイブンはエリシアへ視線を向けた。

「行けるか?」

エリシアはHARを構え直し、力強く頷いた。

「もちろん」

「なら、ここからは一緒だ」

「ええ」

二人は互いに背中を預けるように立ち、海岸へ向かって銃口を構えた。

金色と黒色のオッドアイを持つ帝国軍兵士。

金髪の連邦共和国軍兵士。

長年対立してきた二つの国家に所属する二人が、今、同じ敵へ向かって戦おうとしていた。

その背後では、帝国軍の高速戦闘舟艇が援護射撃を続けている。

そして、連邦共和国軍第915旅団の兵士たちも、帝国軍の支援を受けて再び防衛線を立て直し始めていた。

「NoX! 敵歩兵、右側面から接近!」

Houndの声が響く。

レイブンはBPSG-12を構えた。

「確認した!」

エリシアもHARの照準器を覗き込む。

「私が援護する!」

「ああ、頼む!」

銃声が再び響き渡った。

その頃、沖合では大和国軍の上陸部隊が新たな増援を投入し始めていた。

第二次世界大戦開戦初日。

帝国軍と連邦共和国軍による最初の共同戦闘は、まだ始まったばかりだった。

そして、クロウ兄妹とエリシアにとって、この戦場での再会は、長い戦争を共に歩む新たな一歩となった。

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