第133話 最初の報告
第133話 最初の報告
父からの荷が届いた翌日、連邦共和国前線
射撃場と呼ばれた場所は、採石場の一角だった。
切り立った斜面の手前に標的が置かれ、周囲への立入りを止める兵が配置されていた。レイブンは指定された位置で待ち、担当者が記録用紙を揃えるのを見ていた。
机の上には、昨日届いた対装甲弾薬があった。
まだ数は限られている。配られたからには試しておきたかったが、興味だけで消費してよいものでもなかった。
「今日は承認された確認だけ行う。結果は、そのまま記録する」
担当者が集まった者へ告げた。
レイブンとエリシアが頷く。ガイルは少し後ろで腕を組み、標的の方を見ていた。
説明と安全確認が終わると、レイブンは射撃位置へ進んだ。
指示に従って構え、撃つ。
銃声が採石場の壁へ反響した。
彼は構えを解かずに待ち、担当者の合図を受けてから所定の処置を済ませた。
標的の確認は、射撃が完全に止まってから行われた。
記録係が損傷箇所を測り、別の担当者が裏側を確かめる。レイブンは脇で待った。
「どうだ?」
ガイルが小声で尋ねた。
「俺が触った感じじゃ、いつもの弾との違いは判断できない」
「向こうは?」
「今、調べてる」
ガイルは頷き、それ以上聞かなかった。
続いてエリシアも確認射撃に加わった。
彼女は射撃後、担当者から質問を受け、感じたことを簡潔に答えた。レイブンも呼ばれ、作動や扱いに問題がなかったかを伝える。
確認が終わると、弾薬は残数を数え直され、箱へ戻された。
担当者は書類を閉じる前に二人を見た。
「今回の結果だけで、敵機や車両への効果を断定するな。実際の装甲は、厚さも構造も同じではない」
「了解」
レイブンは答えた。
父へ返す手紙にも、そのことを書こうと思った。届いた礼だけでなく、こちらで確かめた結果を、正式な記録とともに返す必要があった。
採石場を出たところで、伝令が彼らを待っていた。
「前線で敵の車両を確認。装甲車両が含まれています。指揮所へ戻れとのことです」
ガイルが姿勢を変えた。
「攻撃を受けてるのか」
「現在は監視を継続中です」
一行は足を速めた。
指揮所では、地図の脇へ新しい報告が置かれていた。
確認された車両の数と進行方向。随伴する歩兵の有無。報告した部隊が見通せなかった範囲には、空欄が残されている。
「こちらへ来るとは限らん」
説明役の下士官が言った。
「だが、移動した場合はこの道へ出る可能性がある。お前たちは現地の部隊へ合流し、まず状況を確認しろ」
指が示したのは、小さな集落を抜ける道路だった。
レイブンは地図を見つめた。
「住民は」
「残っている。連邦側が確認している最中だ」
エリシアが顔を上げた。
「退避の状況も、現地で聞きます」
「ああ。道路を空ける必要がある。味方の車両も通るからな」
説明を終えると、下士官はレイブンを呼び止めた。
「敵の装備について気になるものがあっても、今度は一人で近づくなよ」
ガイルが横から彼を見た。
レイブンは視線を逸らさずに答えた。
「承知しています」
部屋を出て、携行品を受け取った。
新しい対装甲弾薬は、指示された分だけを通常弾と分けて収める。表示を確かめていると、エリシアが隣へ来た。
「手紙、預けてきたわ」
「ルナへの?」
「ええ。次の便で送ってくれるそうよ」
レイブンは頷いた。
昨夜書いた紙は、もう自分の手元にはなかった。
いつ届くのか、妹がどこで開くのかは分からない。学校の部屋で同期と過ごしている頃だろうか。訓練を終え、疲れて椅子へ座ったところかもしれない。
「返事が来たら、見せてくれ」
エリシアの言葉に、レイブンは顔を向けた。
「二人宛に書いたんだ。お前も読むだろ」
「そうね」
彼女は微笑み、装備の留め具へ手を戻した。
出発を知らせる声がした。
ガイルが扉の外から顔を出す。
「行くぞ。車両が待ってる」
レイブンは最後の留め具を確かめ、荷物を持ち上げた。
移動の途中、砲声が近くなった。
道の脇には、荷車を引く家族の姿があった。車両が速度を落とすと、子供を抱いた女性が顔を上げた。連邦軍の兵が何か声を掛け、先の分岐を指し示している。
エリシアはそのやり取りを見ていた。
レイブンも、荷台から視線を離さなかった。
やがて車両は建物の陰で止まった。
現地の下士官が駆け寄ってくる。軍服の肩に白い壁土がついていた。
「来てくれたか。こちらだ」
レイブンたちは車両を下り、案内に続いた。
通りを曲がる前に足を止めるよう、手が上がった。
その先から、低い機関音が聞こえていた。
レイブンは壁際へ寄り、ガイルが後ろについたことを確かめた。
エリシアが現地の下士官へ尋ねる。
「住民の退避は?」
「裏の道を使っている。まだ家を確認している者がいる」
彼女は頷き、レイブンへ目を向けた。
レイブンも頷いた。
新しい弾薬の入った装具を、一度だけ手で押さえる。
それから前方へ視線を戻した。
まず、何が来ているのかを確かめなければならなかった。




