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黒鴉年代記 ~戦火を超えて、受け継がれる意志~  作者: @12
第二部:戦火の終焉と新たなる時代 第一章 交わる軍旗、影と戦乙女
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第132話 父からの荷

第132話 父からの荷


敵機回収から一週間後、連邦共和国前線

 回収した機体を、帝国の父へ送ってほしい。

 レイブンがそう願い出たとき、担当将校は書類から顔を上げた。

「ヴァルター・A・クロウ教官か」

「はい。異界に関わるものを見た経験があります。調査に加わってもらえないかと」

 将校は少し考え、機体の確認記録へ目を戻した。

「分かった。調査部門への引き渡しを前提に、君の父にも受け入れを打診する。ここで分解するより、設備のある場所へ運んだ方がいい」

「ありがとうございます」

 願いは快く受け入れられた。

 父からも、受け入れに異存はないとの返答が届いた。ただし、個人の荷物として送るわけにはいかなかった。機体と回収品には識別票が付けられ、記録とともに軍の輸送へ引き渡された。

 搬出の日、レイブンは遠巻きに作業を見ていた。

 操縦席には覆いが掛けられ、露出した箇所も保護されていた。隊員たちが固定具を確かめ、輸送担当者が書類へ署名する。

「今度は勝手に覗き込むなよ」

 ガイルが隣で言った。

「もう見てないだろ」

「見てる」

「ここからだ」

 ガイルは鼻で笑い、運ばれていく機体へ視線を戻した。

 それから一週間後、前線の補給所へ帝国からの荷が届いた。

 呼び出されたレイブンが中へ入ると、担当者が受領書を差し出した。

「クロウ。お前とヴォルハラム宛の添付物がある。先に弾薬の説明を受けろ」

 机の脇には、封をされた弾薬箱が並んでいた。

 箱に記されたのは、新たに送られてきた対装甲弾薬の表示だった。対応する銃と支給数を確かめたレイブンは、隣に置かれた説明書へ手を伸ばした。

「回収機の調査結果ですか」

「調査は続いている。これは現地での要求と確認できた範囲を踏まえて送られたものだ。敵の装甲なら何でも抜ける、という話じゃない」

 担当者は説明書の注意箇所を指した。

「指定された組み合わせで使え。通常弾と混ぜるな。使用前の確認も省くなよ」

「了解」

 レイブンは表示をもう一度読み、受領書へ署名した。

 異界の素材を見つけたからといって、その答えがすべて一週間で揃うわけではない。父たちも、分からない部分を残したまま、今できることをこちらへ返してきたのだろう。

 最後に渡されたのは、封筒だった。

 表には、レイブンとエリシアの名前が並んでいた。

 見慣れた父の筆跡だった。

 レイブンは封を切らず、説明書と一緒に受け取った。

 エリシアを見つけたのは、指揮所を出たところだった。彼女は書類を抱え、呼び止めた声に足を止めた。

「父さんからだ。二人宛になってる」

 封筒を見せると、彼女の表情が少し和らいだ。

「何か分かったの?」

「まだ読んでない。一緒にと思って」

 二人は建物の脇へ移った。

 車両の通行を避けた壁際で、レイブンは封筒を開いた。中には、折り畳まれた便箋が入っていた。

 最初に、機体が無事に届いたことが書かれていた。

 異界由来とみられる部材は、担当者とともに確認を進めている。今回送った弾薬については、同封の説明に従い、無理な運用をしないこと。

 そのあとで、文章の調子が少し変わっていた。

『こちらからも、一つ報告がある。ルナが舟艇志願兵学校に入学した』

 レイブンの指が止まった。

 エリシアも、同じ行を見つめていた。

「……舟艇」

 声に出すと、ようやくその言葉が実感を伴った。

 便箋の先へ目を移す。

『お前たちが帰ったあとも、何度か話をした。私からは学校で学ぶことや、任務の厳しさについて、分かる範囲を伝えた。母さんにも、自分で説明していた』

 レイブンは、あの夜のルナを思い出した。

 寝台の端に座り、もう一度考えてみると言った妹。翌夕、家を離れるときに見えた部屋の灯り。

『兄と同じ道を選ぶためではなく、自分が舟艇での任務に携わりたいのだと言っていた。今は入学したばかりだ。向き不向きも、これから本人が知っていくことになるだろう』

 便箋が風に揺れた。

 エリシアが端へ指を添えた。

「自分で、決めたのね」

「ああ」

 レイブンは短く答えた。

 嬉しいのか、心配なのか、すぐには整理できなかった。考えてほしいとは言った。自分で決めてほしいとも思った。それでも、実際に妹が家を離れ、訓練を受け始めたと知れば、知らずにいた一週間が急に長く感じられた。

「学校に行く前に、何か言ってくれてもよかったのにな」

 漏れた言葉に、エリシアが彼を見た。

「あなたに話したら、何て答えた?」

 レイブンは便箋へ目を落とした。

 準備はできているのか。学校は調べたのか。身体は大丈夫か。

 聞きたいことが、いくつも浮かんだ。

「……ずいぶん質問したと思う」

「きっと、返事にも時間が掛かったわね」

 彼女の声には笑みがあった。

 レイブンも、少しだけ口元を緩めた。

 手紙の最後には、母も元気にしていること、二人とも食事と休息を疎かにしないことが書かれていた。

 その下に、一文が添えられていた。

『学校への手紙は転送できる。兄として伝えたいことがあれば、書いてやりなさい』

 レイブンは最後まで読み、便箋を持つ手を下ろした。

 遠くで砲声がした。

 エリシアは一度そちらへ目を向け、また彼へ向き直った。

「何て書く?」

「まず、入学おめでとう、だな」

「ええ」

「それから……」

 考えかけて、レイブンは小さく息を吐いた。

「最初から質問ばかりにしないようにする」

 エリシアが笑った。

 その夜、レイブンは机へ便箋を広げた。

 父への受領と礼は先に書いた。弾薬は説明を受けて受け取ったこと。機体の調査について、こちらでも新たに分かったことがあれば報告すること。

 次に、別の紙を取った。

『ルナへ。入学おめでとう。父さんから聞いた』

 そこまで書き、少し考えた。

 向かいではエリシアも、父からの手紙を読み直していた。

 レイブンはペンを動かした。

『学校はどうだ。落ち着いたら、お前がそこで何をしているのか教えてくれ』

 書き終えてから、声に出さずに読み返す。

 隣へ来たエリシアが紙を覗き、頷いた。

「私からも、書いていい?」

「ああ」

 レイブンは椅子をずらし、彼女へペンを渡した。

 エリシアが続きを書く間、彼は机の端に置いた父の便箋を、折り目に沿って畳んだ。

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