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黒鴉年代記 ~戦火を超えて、受け継がれる意志~  作者: @12
第二部:戦火の終焉と新たなる時代 第一章 交わる軍旗、影と戦乙女
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第115話 帰る場所

第115話 帰る場所


帰省を終えた日の夜

 基地の灯りが見え始めた頃には、空の端に残っていた夕焼けも消えていた。

 門へ続く道を歩きながら、レイブンは肩の荷物を持ち直した。隣ではエリシアが、風に流された金髪を耳へ掛けている。

「まだ、気になる?」

 問われて、レイブンは彼女を見た。

「顔に出てたか」

「家を出てから、ずっと考えている顔だったもの」

 否定しかけて、やめた。

 ルナの部屋に灯っていた明かりが、まだ頭に残っていた。あの机で何を考えているのか、次に会ったときには何を言うのか。答えを急がせるつもりはなくても、気にはなった。

「余計なことまで話したかもしれないと思ってな」

「昨夜の話?」

「ああ」

 靴底が砂利を踏んだ。

「聞かれたことに答えてるつもりだったが、途中からは、俺が話しておきたいことを聞かせてた気もする」

 エリシアは少し考えてから口を開いた。

「それも、聞きたかったんじゃないかしら。ルナは、あなたがどう思っているのか知りたかったのよ」

「……そうだといいが」

「少なくとも、私にはそう言っていたわ」

 レイブンは小さく頷いた。

 門前では、歩哨が通行する車両を止めていた。荷台を覆う幌が風に膨らみ、運転席から差し出された書類を、灯りの下で当直兵が確認している。

 二人も所定の確認を受け、門をくぐった。

 構内には、まだ人の動きがあった。整備場から工具を置く音が響き、食堂の方からは煮炊きの匂いが流れてくる。建物の間を抜ける兵士が二人に気づき、軽く会釈して通り過ぎた。

 家で過ごしていた時間が、急に遠くなった気がした。

「お帰り」

 兵舎へ続く角で、壁に背を預けていたガイルが片手を上げた。

 レイブンは足を止めた。

「何してる」

「風に当たってる。お前こそ、その顔は何だ。実家で働かされてきたのか?」

「お前を見たからだろうな」

「帰って早々、ひどい扱いだ」

 ガイルは笑い、エリシアにも挨拶した。

「ご家族は?」

「元気だったわ。皆、よく話していた」

「そいつは何より」

 ガイルの目がレイブンへ戻った。

「妹さんもか」

「ああ」

 その返事を聞くと、ガイルは壁から背を離した。

「飯はまだ残ってるぞ。腹が減ってるなら、先に行っとけ」

「お前は食ったのか」

「食った。だから安心しろ、お前の分を狙ってついていくわけじゃない」

「その説明をされると怪しいな」

 エリシアが隣で笑った。

 三人で歩き始めると、ガイルは食堂の献立について話し出した。煮込みに入っていた肉が何だったのかという、どうでもいい話だった。レイブンが適当に答えるたびに、もっと真剣に考えろと文句を言う。

 その声を聞いているうちに、肩に入っていた力が少し抜けた。

 食事を済ませて外へ出ると、ガイルは兵舎へ戻っていった。レイブンとエリシアは、建物の分かれ道まで並んで歩いた。

「あなたにも、考える時間が要るのね」

 エリシアが言った。

「俺にも?」

「ルナにどうしてほしいのか」

 レイブンはすぐには答えなかった。

 構内を走る車両の灯りが、二人の足元を横切った。通り過ぎるのを待ってから、彼は口を開いた。

「安全なところにいてほしいとは思う」

「ええ」

「だが、あいつが何かを決めるたびに、危ないからやめろと言う兄貴にもなりたくない」

 言ってから、息を吐いた。

「難しいな」

「私が答えを出せることでもないわ」

 エリシアはそう言って、彼の顔を見た。

「でも、次にルナの話を聞くときは、今日あなたが言ったことも伝えていいと思う」

 レイブンは頷いた。

 昨日は、軍で何を経験したかを話した。妹を心配するあまり、自分が何を恐れているのかまでは、うまく話せなかった気がした。

「次に帰ったら、そうする」

「手紙でもいいのよ」

「……そうだな」

 エリシアは微笑み、別れの挨拶をして歩いていった。レイブンはその姿を見送ってから、自分の兵舎へ向かった。

 部屋へ戻り、荷物を下ろす。

 中から取り出した包みを机に置いた。出発前にセレナが持たせてくれたものだった。開くと、焼き菓子がいくつか入っている。

 仲間と食べるようにと言われたのを思い出し、ひとつだけ取って、残りは包み直した。

 椅子に腰を下ろすと、廊下の向こうで誰かが笑った。水場へ向かう足音が続き、隣室では戸棚を閉める音がした。

 レイブンは机の引き出しから便箋を出した。

 日付を書き、しばらくペン先を止める。

 伝えたいことはいくつかあったが、今夜また長い話を送る必要はないと思った。

『無事に基地へ着いた。母さんの菓子は明日、皆で食べる』

 そこまで書いて、少し考えた。

『急いで答えを出さなくていい。また帰ったら、話を聞かせてくれ』

 読み返してから、ペンを置いた。

 明日の朝、封をして出そうと思った。

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