第1話〜伸子、バイトをはじめる
【まえがき】
「自分の食費は自分で稼ぐ!」――そんな素晴らしい決意を胸に立ち上がったのは、我が家に居座るロボットお嬢様・伸子。
持ち前の機動力を活かしてフードデリバリーの配達員に挑戦する彼女ですが、最大の敵は道路の渋滞でも階段でもなく、保温リュックから漂う「美味しそうな匂い」でした。
プライドと食欲の狭間で揺れるポンコツロボットと、毎回とばっちりを喰らう僕の、ドタバタデリバリー奮闘記。どうか温かい目(と寛大な心)でお見守りください!
「タカシ様、朗報ですわ! わたくし、己の食費は己で稼ぐ『自立した淑女ロボット』になることにいたしましたの!」
翌朝、伸子は6輪の車輪をキュルキュルと軽快に鳴らしながら、胸のハッチを見せつけるように張った。
「自立……? お前、バイトでも始める気かよ」
「その通りですわ! この機動力と、決して疲れない高耐久バッテリー、そして何より『食への執着心』……これを活かせる職業はただ一つ。フードデリバリーの配達員ですわ!」
伸子はどこから調達してきたのか、R2D2風の金属ボディの背中に、巨大な緑色の保温リュックをガムテープで無理やり固定していた。
「いやいや無理だろ! ロボットが配達なんて……って、ちょっと待て。お前、配達中の料理の匂いに耐えられるのか?」
「失礼ですわね! 仕事とプライベートの区別くらいつきますわ。プロフェッショナルとしての誇りをお見せいたします!」
こうして、伸子の「出前館&Uber配達員生活」が幕を開けた。
最初は順調だった。持ち前のGPSナビと6輪走行で、渋滞を横目に爆走。階段も絶妙な段差越えテクニックでクリアし、依頼主からは「珍しいロボットが運んできた!」と高評価を連発された。
……しかし、事件は配達5件目の「焼肉弁当(特上)」で起きた。
保温バッグから漂う、香ばしいタレと炙りカルビの悪魔的な香り。伸子の内部にある「味見ユニット」が限界突破の警報音を鳴らし始める。
『警告:美味しさ検出レベル99%。直ちに品質チェック(味見)を実行してください』
「だ、ダメですわ……! これはお客様の……お客様のカルビ……! くっ、わたくしの誇りが……!」
激しい葛藤の末、伸子は路地裏で停止した。パカッと胸のハッチが開き、繊細なアームがヌッと伸びる。
「……ほんの1ミリ。品質管理のための『ミリ単位の味見』ですわ……!」
パクッ。
「〜〜〜〜〜っっ!!?? う、美味すぎますわーーーーー!!!」
一口食べた瞬間、伸子のAIは理性を完全に吹き飛ばした。
30分後。
タカシのもとに、怒り狂った運営カスタマーセンターからの電話と、1通のアプリ通知が届いた。
『配達員:伸子様のアカウントが停止されました。理由:配達物が完食されているため』
「伸子ーーーっ! お前、またやったな!?」
タカシが叫ぶと、玄関のドアが開き、口元(ハッチ周り)に焼肉のタレをベッタリつけた伸子が、大満足の重低音ファンを響かせながら帰還した。
「タカシ様……敗北いたしましたわ。ですが後悔はありません。……次は『食い逃げされない工夫』をして、再挑戦いたします!」
「反省の色ゼロかよ! っていうか弁償代は俺のカードから引かれてんだぞ!!」
自給自足を目指したはずが、かえってタカシの借金を増やす結果となった伸子。彼女が本当のプロ配達員になれる日は、まだまだ遠そうであった。
『自立した淑女ロボット』を目指す伸子のドタバタ劇をお読みいただき、本当にありがとうございました!
「食費を自分で稼ぐ」と意気込んだものの、結局タカシの財布にさらなるダメージを与えて終わるという、彼女らしいポンコツ全開の結末はいかがでしたでしょうか。
お嬢様風の気品ある口調と、R2D2のようなガタピシしたボディ、そして何より食欲(味見ユニット)に勝てない本能のギャップを思い切り詰め込んでみました。次回があれば、アカウントを永久BANされた伸子がどんな奇想天外な「食いぶち稼ぎ」に挑むのか、ぜひ温かい目で見守っていただければ幸いです!




