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【第11話】 それぞれの覚悟。

真弓:

「病院、からですか?」


結斗:

「うん。

病院ではあるけど……

お母さんとは、別件だ。


……森川が、精神病棟で保護されているらしい。」


真弓:

「森川くんが……!?

確か以前に、加害者になりかけて──」


結斗:

「ああ。

結果的に罪にはならなかったけど、

そのあと炎上したり、両親に責められたりで……

かなり、追い込まれてた。


……アイツ、何をやってんだか。」


結斗は一瞬、目を伏せる。


結斗:

「白石さん。

僕は今から、森川のところに行ってくる。


お母さんの件については……

また、改めて話そう。」


真弓:

「……はい。

わかりました。



──あの、光条くん。

本当に……ごめんなさい。」


結斗:

「大丈夫。

これは、僕の責任だ。


むしろ、白石さんがいてくれたおかげで、

今も、冷静でいられてる。


だから、……ありがとう。」


結斗は、少しだけ微笑む。


結斗:

「じゃあ、行ってくる。」


真弓:

「……。」


真弓は、静かに頷く。


結斗は店を後にし、

精神病棟へと急いで向かった。





──精神病棟にて。



看護師:

「光条様、ですね?

こちらへ──。」


歩きながら、看護師は

森川の状態を説明してくれた。


看護師:

「まったく普通のときもありますが、

今日は正直、精神の状態があまりよくありません……。


お呼び出しをしておいて申し訳ありませんが、

面会は短時間だけとなります。」


結斗:

「……わかりました。」


森川が保護されている

部屋の前にたどり着く。


看護師:

「私はあちらで待機しておりますので、

何かありましたら、お呼びください。」


深々とお辞儀をし、

結斗から遠ざかる。


結斗:

「森川、入るよ……。」


ノックの返事がないままに

結斗は、静かに扉をあける。


挿絵(By みてみん)


そこは至って普通の病室だったが、

必要最小限の、どこか淋しい空間だった。


結斗:

「森川!

大丈夫か?」


森川:

「……。」


結斗:

「森川……。」


森川は、先日会ったときが

まだマシに思えるほど、別人になっていた。


(これも……

 僕の選んだ道の、結果……か。)


結斗:

「森川、何かしたいこととかないか?


──また一緒に、バカしよう。

お前がいないと、始まらないだろ?」


森川:

「──怖い……

怖いんだ……


悪いのは……

おれがッッ!」


結斗:

「森川、落ち着け。

お前は、ちょっと気が緩んだだけだろ?


実際に罪になったわけでもない。

そこまで悲観しなくていい。


お前は、もう十分に反省した。

もう、大丈夫なんだ。 な?」


森川:

「……。


──食べたい……。


ロウバーガー……


また……

一緒に……。」


それ以降、

森川は、一言も話してくれなかった。


僕は、森川の視線だけを背中に感じ、

部屋を出た。


結斗:

「ありがとうございました。

少しだけ……話せました。


アイツは、普段は気さくで明るいんですけど、

僕が思った以上に、本当は心が弱くて……。


誰かに肯定してもらいたかったのかもしれません。


僕の声が、

少しでも救いになれることを……願います。


また、改めて会いに来ます。」


看護師:

「彼は、医療保護入院として、

しばらくここで、保護するつもりです。


光条様。

彼がここに来て、唯一口にした名前が──

あなたです。


また、来てあげてください。

きっと、取り戻せます。」


結斗:

「……はい。

必ず。」


メガネをそっと指で押しあげ、

用意していたものを、鞄から取り出した。


結斗:

「あ、あのこれ。

アイツの調子がいいときに

渡しといてもらえますか?」


看護師:

「はい、確かに。


本日は面会、ありがとうございました。

お気をつけてお帰りください。」





結斗は自宅へ帰り、

誰もいないリビングで、周りを見渡し

ゆっくりと座った。


──静かだ。


ずっと傍にいてくれていた存在がいなくなるって……

こういうことなんだな。



何気なくテレビをつけると、

いつものように、ニュース番組が流れる。


男性キャスター:

「性犯罪を繰り返していた男に対し、

本日、執行猶予付きの判決が言い渡されました。


男はこれまでにも同様の──


今回の裁判で裁判所は、

──反省の態度を示していることなどを理由に、

実刑は見送りました。」


被害者の親:

「判決が出ても、娘の傷は一生消えません。

私たちの生活も、

事件の前には戻らないと思います──」


結斗:

「……。


間違ってる。

……完全に、間違ってる。


──でも、

僕にはもう。」


結斗はメガネを外し、

自分の無力さを噛みしめた。


何一つ、答えを見つけられないまま、

また一日が終わった。




──翌日、事務所にて。



結斗:

「おはようございます。

昨日はご無理をいって、申し訳ありませんでした。」


田中所長:

「おはよう。

全然、気にしなくていい。


こっちの案件は君の代わりに対応できる。


──でも、お母さんにとって、

君の代わりになる存在はいないだろ?


君を責めるような人は、

ここにはいない。 安心しなさい。


──それより、もう働いて大丈夫なのかい?」


結斗:

「はい。

状態は安定しているので、大丈夫です。

また何かあった際は、ご相談させてください。」


田中所長:

「わかった。

くれぐれも、無茶はしないように。


君はお母さんにとって──

……いや、いい。


心は伝わるものさ。

できるだけ、傍にいてあげなさい。」


結斗:

「──はい。

ありがとうございます。」


結斗は一礼し、席についた。


今日も相変わらず電話が鳴り続け、

案件が後を絶たない。


事務員:

「あ、そうそう。

結斗くん、今日は白石さんお休みなの。


少し忙しくなるかもしれないけど、

お願いするわね。」


結斗:

「わかりました。

フォローできるように、書類をまとめておきます。」


(白石さんが……休み?

学生の頃から、一度だって休んだことないのに……

大丈夫かな……。)


──それから、三日間。


白石さんの姿を見ることは、

一度もなかった。


(事務所に休む連絡は来ている……

無事なのは無事だろうけど……

……連絡、してみるか。)


仕事後、職場近くの空き地に自転車をとめ

真弓に電話をかける。



トゥルルルルルッ──……


トゥルルルルルッ──……


トゥルルルルルッ──……


トゥルルルルルッ──……



呼び出し音が鳴るが、出ない。


(おい……どうなってるんだ。)


何度かけても、

呼び出し音が鳴り続けるだけで、繋がらない。


(白石さん……頼む。

もう、これ以上……

お願いだ……出てくれ──)



真弓:

「──もしもし?

すみません。

電話に出られる状況ではなくて。」


結斗:

「……っ。

──。」


真弓:

「光条……くん?」


結斗:

「大丈夫。聞こえてる。

よかった、……ほんとうに。」


真弓:

「はい。私は大丈夫です。

心配、かけてしまいましたね。


どうか、されましたか?」


結斗:

「無事なら、それでいい。

今、どこに?」


真弓:

「──実は、図書館で調べ物をしてまして。

だから、電話に出られなかったんです。


光条くん──

今日、あとで会えますか?」


結斗:

「勿論。

さっき仕事が終わったところなんだ。


どこにする?」


真弓:

「学校の近くの公園、わかりますか?

──そちらで、お話ししましょう。」



──公園にて。


真弓:

「すみません。

お待たせしました。」


結斗:

「いや、構わないよ。


でも……

仕事を連続で休むなんて、

そんな白石さん、見たことなかったから。


……正直、心配した。」


真弓:

「光条くん、

……ごめんなさい。


──私、

何も見つけられなかった。」


結斗:

「白石さん……。」


真弓:

「医療のことも、

真偽不明の情報も……

いろいろ調べたんですけど……何も。


助けるって言ったのに……

何もできてない!」


結斗:

「そんなことは──」


途中まで言いかけて

結斗は言葉を失った。


暗くて見えなかったが、

街灯が、真弓の傷ついた手と

隠しきれない疲れを、微かに照らしていた。


(僕が仕事をしている間も……

ずっと……

お母さんを助ける方法を、

探してくれていたのか。


僕は……

何をしてたんだ。


家族の僕が、

一番頑張らないといけないときに……

何も、できてなかった。)


結斗:

「──もう、十分だよ。


ありがとう、白石さん。


まずは一度、ゆっくり休んでほしい。

今度は……

僕が、何とかしてみせる。」


真弓:

「ありがとうございます。


ですが、

このまま放置することはできません。


少しだけ休んで、

また調べ直します。


それまで、待っていてください。


二人で──

必ず、光条くんのお母さんを助けましょう。」


結斗:

「ああ。

約束だ。


必ず──。」


結斗は

メガネの位置を、静かに正した。


真弓:

「嘘ですね。」


結斗:

「え……?」


真弓:

「知っていましたか?


光条くんは迷いがあるとき、

必ず眼鏡に触れます。」


結斗:

「そんなことは──」


真弓:

「あります。


何年、

隣にいると思っているんですか?」


結斗:

「……。」


真弓:

「──光条くん。


私を、

信用できませんか?


事実、まだ何も解決できていません。

ですが、

私は絶対に、諦めません。


その先に可能性がある限り、

絶対に。


──もう一度言います。


必ず、

二人で助けましょう。」


結斗:

「……白石さんには、敵わないな。


──わかった。

約束する。」


真弓:

「また、連絡しますね。」


結斗:

「白石さん──。」


真弓:

「はい。」


結斗:

「ありがとう。」


真弓はわずかに微笑み

ゆっくりと頷いた。


結斗は真弓を家の前まで送り、

そのまま自宅へ戻った。



──リビングにて。


結斗:

(試せることは、全部試した。

白石さんも、眠る時間を削ってまで調べてくれた。


それでも……

答えが出ない。


このままじゃ……

お母さんが、

いつまで持つのかもわからない。


どうしたら……。)


結斗は本を開き、

ゆっくりとページをめくる。


(最初は……

DVの案件だったよな。


ここが始まり……

そして、ここで白石さんに……。)


これまでの出来事を確かめるように指でなぞり、

ページをパラパラとめくっていく。


(そして……

これが最後──)


──っ!


何だ、これ……。

いつの間に……!


結斗は、

思わず小さく息を吐いた。


――ああ、

そうか。


──覚悟が足りなかったのは、

僕の方だった。


結斗は、ゆっくりとメガネを外し、

まっすぐ前を見つめた。



──続く──

もし何か少しでも感じていただけたら、

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