【第10話】 代償と告白
結斗:
ここ最近、
何か変わったこと……。
……最近!?
変わったことと言えば――
僕の、この力……?
そんなはずはない。
影響が出るなら、僕自身のはずだ。
なのに――
「どうして、お母さんなんだ。
僕じゃなくて、
なんでお母さんが、こんな目に……。」
待て。
待て待て待て……落ち着け。
法を正したあとだった。
タイミングだけを見れば……
確かに合っている。
それに――
最初に倒れたときも……。
「……偶然で、片付けていいのか?」
もしこれが本当なら、
これ以上、法を正すわけにはいかない。
「まずは確かめないと。
安全を、確実に。」
白石さんに……伝えるべきか?
いや、まだだ。
まだ“確定”じゃない。
答えが出てからでも、遅くはない。
……明日は会社を休もう。
自分の目で、確かめる。
◇
──翌朝。
会社に事情を説明し、病院へ向かう。
病室の前で呼吸を整え
ゆっくりと扉を開いた。
結斗:
「お母さん……」
母:
「スー…… スー……」
結斗:
(顔色も悪くない……
意識がない以外は、いたって普通に見える。
お母さん、ごめん。
どうしても確かめる必要があるんだ。
……すぐに終わらせるからね。)
本を捲り、
慎重に、当たり障りのない法文を探す。
そして――
ほんの一文字だけを、
ゆっくりと、ペンで塗りつぶした。
──カンッ。
その一文字は、
いつものように青く光り、散っていった。
静かな病室に、
心電図モニターの音だけが鳴り続ける──
──ピッ ……──ピッ ……──ピッ
──ピッ …──ピッ ……──ピッ
結斗:
(……っ!
今、数値が一瞬……
「嘘だ……
なんで僕じゃなく、お母さんなんだ!
僕が今までやってきたことが、
お母さんをこんな目に……。」
社会に出て、
やっとお母さんを楽にさせてあげれる……
そのはずだったのに……
「何が守るだ!
僕が、お母さんを……
──じゃないか!
どうすれば……クソッ……」
──もう、現実を、
受け入れるしかない……。
これ以上は……
法を──。
白石さん……
ありのままを、
……伝えるしかないか。
連絡しないと!
結斗は真弓と連絡を取り、
急遽、いつもの【Second Light】で
仕事後に会うことにした。
(白石さんはまだ仕事中だし……
先に店に行っておこう。)
結斗は病室からの去り際に、
寝たきりの母を見つめる。
結斗:
「──お母さん、本当に……ごめん。
もう少し、待っててね。」
返事がこないとわかっていながら、
呟いた。
◇
【Second Light】にて。
店長:
「ああ、いらっしゃい!
いつもありがとうね。
ん? 今日は、
いつもの女の子は一緒じゃないのかい?」
結斗:
「ここで待ち合わせをしてまして。
また、あとで来ます。」
店長:
「おお、そうかい。
それはよかった。
余計なお節介をしてしまうところだったよ。」
店長は、どこか安心したように笑った。
店長:
「いやね、
あの子は昔からよく来てくれてたんだけど、
あまり表情を出さない感じでね……。
とてもいい子ってのはわかるんだけど、
本心が読めないというか……。
でも、ここ最近、
笑顔が増えたなって思ってさ。
もしかして、君のおかげなんじゃないか?」
結斗:
「いえ、そんなことは……」
店長:
「おじさんが言うのもなんだが、
これからも、あの子と仲良くしてあげてほしい。」
結斗:
「……はい。
勿論です。」
結斗はゆっくりとメガネを押し上げた。
店内を見渡し、隅の落ち着いた席に
ゆっくりと座る。
結斗:
(法を消し出してから、
お母さんの体調が悪くなっていった……
さっきのことから考えても、
タイミング的に見て、
ほぼこれが影響している。
心拍数が一瞬、僅かに下がっただけ……
消した内容によって、
影響度が変わると考えてよさそうだ。
今までの法を元に戻すことができれば、
体調も戻る可能性はある。
でも……
白石さんといろいろ確かめたとき、
一度消したものは戻らなかった。
そして、書き足しても無反応……。
──だめだ。
そもそも、これ以上何かを変えてしまうと──。
どうすれば……)
──くん。
────光条くん!
結斗:
「あ、ごめん!
お疲れ様。
急に呼び出して悪い。」
真弓:
「何か、あったのですね?」
結斗:
「実は──」
結斗は母が倒れたこと、
そして、代償の可能性について、
ありのままを正直に話した。
真弓は、すぐに言葉を返せなかった。
真弓:
「──光条くん、ごめんなさい。
……本当に。」
真弓は視線を落とし、
震える声で言葉を押し出す。
「私が、
背中を押すようなことばかり言ったから……。」
結斗:
「いや、白石さんのせいじゃないよ。
僕がもともとしていたことだし……
一人でも、
確実に同じことをしていた。
だから――」
真弓:
「それでもっ!
私は……嬉しかった……。
喜んでしまったんです。
光条くんとなら、
どんなに手を伸ばしても
届かなかった人たちを、
やっと助けられるって……
そんな、
うまくいくはずもないのに……っ。」
結斗:
「白石さん、
僕は君を責めたいから呼んだんじゃない。
──もう、
法は消せない。
それを、伝えたかった。」
真弓:
「……。」
結斗:
「僕が法を消したことで、
助かった人がいるのはわかってる。
でも、
たった一人の、家族を守れないなんて……
僕にはできない。」
「白石さん、
ここ最近、笑顔が増えたよね。
学生の頃は、あまり見ない顔だったから、
僕としても、すごく嬉しかった。
本当は、
もっと困った人たちを助けて、
白石さんにも、もっと──。
でも……
もう無理だ。
ごめん。」
真弓:
「あやまらないでください。
悪いのは……
私もです。
そう思って頂けただけでも、
私は救われました。
──もう、十分です。
今度は、私が助ける側です。
光条くんのお母さんを助けましょう。」
(──私の全てを懸けてでも。)
結斗:
「ありがとう。 白石さん。
もう一度、僕に力を貸してほしい。
──必ず、助ける。」
真弓:
「はい。」
二人は、本を開き
助けられる可能性を探し続けた。
ブブブッ、ブブブッ。
ブブブッ、ブブブッ……
結斗の携帯電話が鳴る。
結斗・真弓:
「──っ!」
結斗:
「白石さん、ごめん。
少し席を外す。」
結斗:
「──もし……もし?」
電話口:
「──でお間違いはないでしょうか?」
結斗:
「はい。
僕で、間違いありません。」
電話口:
「実は……
ずっと、呼んで――」
結斗:
「……わかりました。
今からお伺いします。」
結斗は電話を切り、席に戻る。
結斗:
「白石さん?」
真弓:
「え、はい。
大丈夫です。
病院、からですか?」
──続く──
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