63.
綿飴を母親に自慢する王女とそれを微笑んで見ている王妃。
毒見だと綿飴を一口食べた後は無言の侍女。
それを少し離れた所で見ている私と侍女のアイリ。
ついでにどっかにいるらしき護衛の人々。
王妃の悩みを知り、王家の事情を少しだけ知られたことは益だと思う。
そして私は彼女の輿入れの理由を聞いてある考えが浮かんだ。
(王妃って絶対、参考にした作品があるわよね……)
高貴な女たちの馬車置き場の奪い合い。
惚れた女にそっくりな少女を権力者が娶った行為。
そこまで詳しくは無いが前世で有名だった古典作品を彷彿とさせる。
もし彼女が作者が考えて生み出したキャラクターだったなら、謎が一つ生まれる。
漫画内ではこの美しいが幸薄そうな王妃は一切出てこないからだ。
(まあ、馬車トラブルも前妻に似た親戚を娶るのも貴族社会なら珍しくないかもしれないし……)
私は頭を振って考えを捨てた。
それよりも、もう一つの考えの方が大切だ。
「おうじょ……アリア様、綿飴を召し上がった後は色々な乗り物を楽しみませんか?」
私は高貴な親子に近づいて提案する。
すると幼い少女は顔全体に喜色を浮かべた。
「綿飴もういい、今から遊ぶ!」
そう言いながら大して食べてない綿飴を王女は侍女に押し付けた。
「あらあら、綿飴はもう宜しいのですか?」
「いいの!」
まあ、正直こうなることは予想していた。だって相手は子供だ。
生真面目と仏頂面が紙一重の顔で綿飴を持っている王妃付き侍女は少し面白い。
一方的に利用されている鬱屈がほんの少しだが晴れた。
「ねえ、遊園地にはどういうものがあるの?」
「そうですね、アイリ……」
「はい、奥様」
自分付きの侍女から渡された簡易地図を私は広げた。
これは馬車を停める為の駐車場予約時に渡される遊園地の案内図だ。
同じものを子供たちやカーヴェルも持っている筈だ。
そして恐らくは王妃たちも。
「そちらは……遊園地の地図ですか?」
「見せて、見せてちょうだいったら!」
しかし王妃と王女は見たことが無い様子で興味津々に私の側に寄って来た。
侍女は相変わらず固い表情だが、心なしか距離を空けている気がする。
(もしかして、貰ったけれど忘れて来たとか……?)
そんなことを考えつつ母子に地図を見せる。
「おうまさんに乗りたいわ、それとコーヒーカップ!」
「素敵ですわね、では早速参りましょう」
王女のリクエストににこやかに返し私は移動を提案する。
計画は単純だ。
この王女さえ満足したら私は役目から解放される。
あるいは疲れて寝てしまったらそれで王妃と侍女も遊園地から去るだろう。
つまり遊園地の閉園までに王女をいかに迅速に体力切れにさせるかだ。
早ければ早い程私が子供たちやカーヴェルに合流し一緒に楽しめる時間が増える。
(二人には少しだけ悪いけれど、私と一緒に子供の体力に巻き込まれてもらうわよ)
私は王妃と彼女付きの侍女に微笑んだ。
二時間ほどの間に私たちは大型遊具をそれなりに遊んだ。
メリーゴーランド、コーヒーカップ、巨大ブランコ、コーヒーカップ、ボールプール、メリーゴーランド、そしてまたコーヒーカップ。
合間に王女にせがまれて軽食を摂りながらだ。
結果王妃と王妃付きの侍女がぐったりした。
「次はね、あの的に当てる遊びがしたいわ!」
「宜しいですわね」
王女は元気だ。私とアイリも肉体的にはそこまで疲れていない。
(若さって凄いわね)
前世での自らの弱り具合と比較してそう思う。
でも肉体年齢だけではないだろう。エリカもアイリも使用人としてあくせく働いた経験があるので体を動かし慣れているのだ。
(王妃たちの体力切れでも御退場頂けるかしらね)
そんな悪どいことを思いながら王女の供をする。
しかし、向かおうとする方向がやけに騒がしかった。
遊園地が騒がしいのは当然だが、そこだけ雰囲気が違う。
簡単に言ってしまえば喧嘩とそれに集まる野次馬たちのようだった。
「ねえ、何か見世物をしているみたいよ!」
「いえ、あれは恐らく見世物では……」
「行ってみましょう!」
「えっ」
そう言うと怖いもの知らずな王女は駆け出してしまう。
王妃とその侍女を振り返って見たが、追いかけてすぐ追いつける体力は無さそうだ。
申し訳なさそうな目で王妃に見られる。
「アイリ、行くわよ」
「はい、奥様」
私は自分の侍女と二人で王女を追いかけた。
そこまで距離を置かずアイリが王女を抱え上げ確保した。
「ちょっ、はなしなさい、はなしなさいったら!」
「恐らくあれは誰かが喧嘩しているのです、巻き込まれたら怪我をしますよ」
私がそう説明すると王女はあまりわかってないような表情をした。
喧嘩自体を知らないのか、喧嘩で怪我をするという発想が無いのか。
「なので近づいたら危ないですよ」
「だったらお前、何があったか見てきなさい」
「私が……ですか?」
「だって楽しいことかもしれないでしょう」
王女に命令される。私は仕方ないかと受け入れた。
「アイリ、安全なところで待機して貰える?」
「奥様も、お気をつけて」
王女が逃げないよう抱えていなければきっと彼女は代わりを申し出ただろう。
ドレスが崩れないように野次馬たちと距離を置きながら僅かな隙間と聞こえる声に意識を集中させる。
「……この声はレオ君?」
声変わり前の子どもの声だ。誰かに対し怒鳴ってる。
次に聞こえた声は低音の為聞こえづらいがカーヴェルだろう。
二人が抗議しているその相手は。
「あの女より私の方が貴方の母親に相応しいに決まっているわ!」
その掠れて甲高い声にエリカの記憶が震える。オルソン伯爵夫人に良く似た声だ。
「もしかして、ローズ……?」
聞き覚えのある声は過去にエリカを虐げ鞭打った異母姉に酷似していた。




