63.
彼女の苦悩はわかる。
自分より年上の子どもが一気に二人出来たけれど上手く行っていない。
幼い自分の娘はそれを理解出来ていない。
恐らく国王は父としても夫としても役に立たないのだろう。
つまり彼女の悩みに寄り添う者が居ないのだ。
「私の母はメイドで伯爵に手を付けられて私を妊娠しました」
「えっ……」
「結果私は伯爵夫人と直系の姉に散々虐められ今でも鞭打ちの傷が消えません」
私がそう言うと王妃は青褪めた。
正直こんな場所でする話では無いかもしれない。
賑やかな遊園地の音楽、はしゃぎまわる子供の声。
王女は綿飴売り場の従業員が行うパフォーマンスに夢中になっている。
こんな場所に連れて行って貰える子供はきっと幸せだろう。
「私は伯爵夫人と異母姉が怒る気持ちはわかります。でも一生許しません」
「それは……そうでしょうね」
「私を傷つけたことにではなく、本来抗議する相手に怒りを向けなかったことにです」
彼女たちは弱い者いじめをした。
そう告げると王妃は潤んだ目を瞬かせた。
「彼女達も犠牲者なら母も私も犠牲者です。悪いのは伯爵ただ一人」
「それは……」
「なのに彼女たちは母と私を罪人と責め立てた。私は絶対そのことに納得しません」
私たちは悪くない。私の言葉に王妃は無言になる。
「全部親の都合なのに、後から生まれたという理由で傷つけられて仕方が無いなんて思わない」
そう私は無邪気に拍手をしている王女を見つめて言う。
その姿にロンが一瞬だけ重なる。
「もし私が母の立場ならあの屋敷から私を連れて逃げました」
女一人、子供を抱えて生きるのがどんなに辛くても私ならそうした。
それはこの世界で女が身一つで生きることの辛さを知らない故の考えかもしれない。
「私なら絶対子供を理不尽に傷つけさせはしない」
エリカの母親はエリカを愛してくれた。それは事実だ。
けれど、優しさだけでは娘を守れなかったのも事実だった。
彼女はもう亡くなってしまっている。故人を責めるつもりは無い。
だけど今、私の隣にいる王妃は生きている。
泣いているだけでは子どもは守れない。
「戦うのは疲れます、家族を警戒するのも、けれど娘の為でも難しいですか?」
「それは……」
「私は少し話しただけですけれど、金の髪の彼に悪意と恐ろしさを感じました」
「え……」
「あの人に不審を抱いているのは貴方だけでないとは知っていてください」
私はそうクリス王子について語った。
ある意味賭けだった。
他人への悪感情、しかも王族対象なんて口にしない方が断然良い。
けれど、それでも必要だと判断したのだ。
「有難う、公爵夫人……私だけが違和感を覚えていた訳では無いと知れて、とても安心しました」
そう疲れた様に微笑む彼女は、けれどどこかすっきりした顔をしていた。
「私ね、前妻様の姪なの。とても顔と声が似ていて、それだけが理由で娶られた」
「……そうだったのですね」
「心が追い付かないまま妻になって、母になってずっと不安だった。でも娘は大事だわ」
貴方のようにもっと強くならなければいけないわね。
そう告げる王妃の元に大きな綿飴を持った王女が駆け寄った。




