62.
子供たちとカーヴェルに一時的な別れを告げ、王妃一派に合流する。
御者たちを除けば王妃と王女、そして侍女の三人だけしかいない。
(余りにも無防備じゃないかしら)
私がそう思っているのを察したように王妃付きの侍女が口を開いた。
「護衛は、気づかれない場所におります」
「……そう」
居る割に先程は全く役に立たなかったなと思ったが口には出さなかった。
それにしても使用人が少ない。
王女付きの乳母や侍女すら見当たらないのだ。
「ですが危害目的以外で他者に絡まれた場合、アベニウス公爵夫人に対処して頂くことになります」
申し訳なさを全く感じさせない様子で王妃付きの侍女が言う。
腹が立ったがその後ろに居る王妃はまだ罪悪感を浮かべていたので皮肉を言うのを耐えた。
「もし王妃殿下たちの存在に言及された場合は?」
「友人でも親戚でも臨機応変に説明して頂くようお願い致します」
「臨機応変、ね」
皮肉気に私は笑った。
「せいぜい努力させて頂きます……では参りましょう」
さっさと王妃一行の風除けというノルマをこなしてしまおう。
もしかしたら短時間で満足するかもしれない。
そうすればアベニウス公爵家の面々と合流出来る。
私たちは移動式遊園地の中へ足を踏み入れた。
移動式の割に遊園地は想像したよりも豪華だった。
メリーゴーランドからは楽し気な音楽が鳴り、大きな観覧車が最奥に鎮座する。
「わあっ!」
そんなことを考えていると王女が期待に満ちた歓声を上げた。
レオやロンも遊園地に足を踏み入れたなら同じように顔を輝かせるのだろうか。
考えながら周囲を見回す。知り合いの姿はいなかった。
ただ全員上等な身なりをしている。
殆どが貴族だろう。もしかしたら裕福な平民も交ざっているかもしれないが。
「私、あれが食べたいわ!」
「お待ちください、アリア様」
綿菓子を売っている場所を指差し王女が言う。
それに王妃付きの侍女が返事をした。
そして二人で売り場へと歩いていく。
私はついてこいと合図されなかったので王妃と待っていた。
「……彼女は、実家から連れて来た私の侍女なのです。よくやってくれています」
唐突に横から言われる。
「さようでございますか」
「アベニウス公爵夫人、貴方はお幾つですか?」
年齢を聞かれ、十七歳だと答える。
「私は二十五歳になります。アリアは八歳」
つまり今の私の年に彼女は娘を生んだという訳か。
この国ならそこまで珍しくは無いかもしれないが、精神的には慣れない。
「ちなみに夫は五十歳です」
さらりと言われた言葉に驚愕する。
親子、いやそれ以上の年齢差だ。
(でも、そうよね。この人は王妃だもの)
第二王子のクリスが三十近いケビンと同年齢なのだから親も中高年以上になるだろう。
エリカの昔の記憶を探ればオルソン伯爵夫人と異母姉のローズが王と彼女のことを語っていた。
『信じられない、男ってどれだけ若い女が好きなのかしら』
『私なら相手が国王でも断るわ、年寄りの相手なんて御免だもの』
『自分より若い女が継母になるなんて王子たちもお可哀想に』
不敬極まりない台詞を好き勝手に吐き合う二人に今回だけは同調してしまう。
そして綿菓子の色に悩んでいるらしき王女の小さな後ろ姿を見つめた。
(ということは、あの娘がクリス王子の異母妹にあたるってことよね)
年齢だけ考えれば兄妹より親子の方が自然だ。
精神年齢なら大して変わらないかもしれない。
「アベニウス公爵夫人も夫となる方と年齢が離れていると聞きました」
「十歳程ですわ」
「……そして血の繋がらない子供二人から実母のように慕われているとも」
思い詰めた顔で王妃は言った。
私は誰が彼女に我が家のことを話しているのかが気になった。
心当たりは数人いる。
ケビンにクリス王子に、そしてレインだ。
そんなことを考えていると王妃の大きな瞳から唐突に涙が転がり落ちた。
「公爵夫人、私たちはクリス王子に嫌われているのでしょうか?」
「えっ」
「彼は私たちを困らせる為に遊園地に誘ったのでしょうか……」
アリアは兄に初めて遊びに誘われてとても喜んでいたのに。
そう悲し気に言う女性に私はハンカチを差し出すしか無かった。




