18.
ケビンの名を使う度に虎の威を借る狐の気分になる。
惨めなのは確かだがこの手の男には一番効果的だろう。
そもそもケビンが今私の隣にいるか、対話相手がケビンなら失言すらしなそうだ。
「これ以上話しても貴方の立場が悪くなるだけよ。帰って頂戴」
青褪めているロンを観察しながら言う。
繊細な子供の前からこの下衆な男を早く遠ざけたい。何を言い出すかわからないから。
「ロン君も部屋に戻りなさい」
「あ、あの僕……」
彼の方にも優しく語り掛ける。
硬直が解けたようにロンが震えながら声を発した。
家庭教師のマーベラ夫人から長く虐待されていたが流石に大の男から怒鳴られた経験は無かったのだろう。
「ロン様、お送りいたします」
気を利かせたカーヴェルがそう話しかける。
その瞬間何かに気付いたように画材商の目に光が宿った。
「坊ちゃま、お助け下さい!」
「えっ」
縋るように先程自分が怒鳴りつけた子供に叫ぶ。
当然だがロンは目を丸くして驚いた。
「私は坊ちゃまの買い物ごっこをしたいというお願いの為に今日馳せ参じました!」
「僕の為……?」
「はい、坊ちゃまの難しい願いを叶えられるのは私どもの広い店だけでございます!」
「難しい、願い……やっぱり、僕は我儘過ぎたんだ……」
画材商は得意げに言葉を発したがロンの表情は暗くなった。
「違うわロン君、貴方は口を閉じなさい!」
私は失言に気付いた様子も無い中年男を睨みつけた。
店側に事前に話をしておいたのが裏目に出たらしい。
こんな事なら自分たちが画材店に赴くべきだったと後悔する。
(いや、私が過去の事をもう少し早く思い出していたら……)
中年男とロンの間に割って入りながら苦い気持ちになる。
すると少し離れた場所から子供の声が飛び込んできた。
「何だ? 騒がしいぞ」
声の方向に皆が視線を向ける。
そこには侍女を供にしたレオが居た。
どうやらこの騒動は彼の所にも届いていたらしい。
子供に関わらせたくない客なのに、こちらの気持ちとは裏腹に子供がどんどん増えていく。
「……レオ君、何でも無いから部屋に戻って頂戴」
「何でも無いは嘘だろ。 俺だけ仲間外れにするのか?」
ムッとしたような顔でレオは返す。彼の性格を考えると想定すべき反応だった。
その態度に私と彼が不仲だと思ったのか画材商は今度はレオに話しかけた。
「坊ちゃま、実はこの後妻様が私に先程からずっと理不尽な事を……」
「黙れ、誰が話しかけて良いと言った」
瞬間空気が凍った。
手揉みしながらへらへらとした笑顔で固まる画材商をレオは冷たい目で見た。




