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16:二人の関係(2)

 いつもと同じ時間に起きて、同じように食事をし、変わらない速さで仕事をして、詰め込みすぎないように休息を取る。


 アイラはこの一週間、いつもと変わらないと言うことを意識して生活してきた。シオンが帰ってきた時に心配させないため、と言うのが表向きの理由だが、本当は寂しさを隠すためだった。


 いつもと違う、シオンが城の中にいない。そう意識すればするほど、寂しくなってしまう気がしたからだ。


 そんなアイラは、今日もいつもと同じように太陽が上り外が明るくなりきった頃、ベッドから起き上がり大きく伸びをした。


「うーん……今日もいい天気……」


 寝ぼけ眼でカーテンの隙間から覗く太陽の光を見て、アイラは一人つぶやく。ぼんやりとしながら、寝癖のついたであろう髪をそっと撫でて、なんとか眠気を覚まそうとする。


 起きたくない気持ちはあれど、そんな事も言っていられないかとアイラは立ち上がり、洗面台まで向かっていく。


 冷たい水で顔を洗い、鏡に映った自分と目が合った時に、そう言えばとふと思った。


「今日でシオン様が出発されてから一週間が経つわ。そろそろ帰ってこられるかしら?」


 誰も聞いていないのを良いことに、アイラは大きな独り言を口にした。ニナも忙しそうに動いているため、事務的なこと以外は誰かと話すことも少なく、つい独り言でも声を出したくなってしまうのだ。


 シオンからは、バタバタとしてしまうため連絡することもできないだろうと言われていた。そのため、何の音沙汰もない事も当然ではあるのだが、なんとなく心臓の奥底が騒つく感覚があった。


 なんだろう、いつもならこんな事思わないのに。


 アイラは胸の辺りをきゅっと掴みながら、少し首を傾げた。心臓がいつもよりも大きく動いているような気がする。胸騒ぎと言うのか何なのか、自分でも分からないが、とりあえず良い感情ではなかった。


 まあいいか、考えてもどうしようもない。


 そう思い直したアイラは、寝巻きを脱いで簡単なドレスに着替えた。誰かに会う時や、なんらか用事があるときは侍女に手伝ってもらっているが、特に何もないときは一人で用意するようにしている。


 前までは侍女が続々と入ってきて、いちいち大事になってしまっていたため、何日もかけて必要ないと説得した末にこうなったのだ。


「よし、今日もがんばろう」


 もしかしたら、シオン様が帰ってくるかもしれない。そんな事を思いながら、お気に入りの衣服に袖を通し、軽く髪型を整え部屋の扉を開けようとした瞬間、アイラに衝撃が走った。


「アイラ様!!」


 扉を開けたと同時に、勢いよく走ってきた侍女にぶつかり、アイラは軽くよろけてしまった。突然の出来事に驚いたのと、普段は静々と動いているこの城の侍女の慌てようの二つに驚いて咄嗟に反応ができなかった。


「も……申し訳ございません!お怪我はございませんか!」


 しまったと青ざめながら謝る侍女を見て、アイラも衝撃から我にかえり、安心させようと笑顔を見せて言った。

 

「大丈夫よ、どこも痛くもなんともないわ。少し驚いてしまっただけ。それよりどうしたの?そんなに急いで」


 泣きそうになりながら謝っている侍女に寄り添いながら、アイラは本当に気にしないでくれと必死に態度に出しながら聞いた。


 アイラのその言葉に、侍女も本来の用事を思い出したのか、はっとしてアイラの方を見て言った。


「そうです!その、アイラ様、落ち着いて聞いてください」


 大丈夫だと言ったにも関わらず青ざめている侍女を見て、アイラはおかしいと思うと同時に、先ほどの胸騒ぎに再度襲われた。


 内心では、次の言葉を聞きたくない、言わないでくれと思いながらも、アイラは小さく頷いて侍女の言葉を待った。


「先程戻られた王子が、お怪我をされていまして、それも、意識があるかどうか、今お医者様を呼んでいるのですが、」


 アイラは侍女の言葉を聞いて、全身の血が凍りついていくような感覚がした。そのまま倒れてしまいそうなほど目の前が灰色ががっていたが、ほらやっぱり、嫌な予感があたってしまったと、頭の片隅でどこか冷静に思っていた。


「……それで、シオン様は、今どちらに」

「はい、本城に着いたばかりですので、」

「連れて行ってください」


 侍女の言葉を最後まで聞かず、アイラは咄嗟に口を開いた。その真剣な顔に気圧されたのだろう、侍女もそれ以上なにも言うことはなく、こちらですと早足で動き出した。


 アイラも、それに黙って付いて行った。気が動転して足がうまく動かないのか、何度も躓き転びそうになりながらも、急ぐ足を止めることなく後を付いていった。


 もっと歩きやすい靴を履けば良かった。走りやすいドレスにしたら良かった。そんな思いで、最悪の想像をしないように、必死で思考を止めないように努力した。


「王子!しっかりしてください!誰か、早く医者を!」

「出血がひどい!まずは止血を!」


 アイラが急いで向かった先には、人だかりと喧騒の中で、血を流して倒れているシオンの姿があった。


 真っ白な顔色も、周りに広がる血液も、どれも生きているとは思えず、アイラは思わず口を抑えて固まってしまった。


 簡単な任務だから大丈夫だと言ってくださったのに。どこかに行こうと約束もしたのに。アイラは、震える足を抑えられず、そのまま一人床に崩れ落ちた。

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