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16:二人の関係(1.)

 すれ違っていた二人の誤解が解けて、早くも半月が経っていた。アイラの体調もとうの昔に良くなり、精神状態も安定したため、呑気に城の中をうろうろと歩いている姿も見られるようになった。


 シオンも、アイラの体調不良を理由に、適当な接待の依頼は断るようになったため、時間にも余裕ができ気ままに仕事をするようになった。


 そんな二人は共に過ごすことも多くなり、一緒に食事をするのはもちろんのこと、同じ部屋で仕事もするようになった。


 今まで確認事項があるときは直接聞きに行くか、後日にするか、侍女を通しての確認であったため、なんだかんだ時間がかかっていたが、その時間ロスも無くなり仕事も進めやすくなるからだ。もちろん、そんな事務的な理由だけではないが、何にせよ良い変化だった。


 侍女たちはと言うと二人の様子を、良かった良かったと安心したように見守っていた。主人たちは不仲であるより、親しくしていた方が仕事もしやすいのだろう、城内には暖かい空気が流れていた。


 そんな二人は今日も、シオンの部屋で紅茶を片手にのんびりと仕事を進めている。


「シオン様、今日の夕方から遠征でしたっけ?」

「うん、そうだよ。今回はちょっと遠くまで行くから、一週間くらいかなあ」


 書類を見ている時間よりも、紅茶を飲んでいる時間の方が長いだろうと言うスピードで仕事をしながら、二人は会話をしている。


「え、そんなにお城を空けられるのですね……難しいお仕事なんですか?」

「いやいや、簡単な任務だよ。一応、魔物の討伐なんだけどね、そんなに難しいものでもないし大丈夫だよ」


 そう言ったシオンに、アイラはショックを受けたような顔をして言った。


「魔物、出現してしまったんですね……ごめんなさい、私の注意不足ですね……」

「うーん、そんなんじゃないと思うよ。なんかたぶん、隣国から流れて来てるっぽいんだよね」


 シオンが少し考え込み、困った顔をしながら言った。隣国から魔物が流れてくるのはよくある事ではあるが、解決が難しいため厄介なのだ。


 直接的にどうにかしろとも言いにくい、とは言え国外のため勝手に浄化など対策をすることもできない、難しい状況だ。


「それは、なるほど、少し大変かもですね……」

「そうなんだよ。だから、とりあえず俺もどんな状況か一緒に見てくるんだ。もしかしたら、またアイラちゃんに相談させてもらうかも」


 そう言ったシオンに、アイラは表情を明るくして大きく頷いた。


「もちろんです!いつでも、なんで言ってください!」


 頼ってくれた事が嬉しいと、言葉には出さないが思いっきり態度に出ているアイラを見て、シオンはにこやかに微笑みを返した。可愛い、そう思いながら。


「うん、ありがとう。じゃあ俺はそろそろ任務の準備をしようかな」

「もうそんな時間でしたか、出発前はお見送りしますね」


 どこか寂しさを感じながらそう言ったアイラに、シオンは軽く手を振って否定した。


「いいよいいよ。遅い時間だし、俺もバタバタしててたぶん何も話せないまま出発することになると思うから」

「そうですか……でも、」

「だから、今ここで、二人っきりの時に見送ってよ」


 否定されてしまった事にしょげていたアイラだが、その後のシオンの一言で一気に気恥ずかしくなり、顔を赤らめて俯いてしまった。


 視線を合わせることもできずに、しどろもどろになっている中、シオンは笑顔を絶やすことなく言葉を続ける。


「見送りたいって言ってくれて嬉しかったよ。そんなに俺のこと心配してくれたんだよね?」

「あ、当たり前じゃないですか……」


 真っ直ぐとアイラの方を見つめながらシオンは言ったが、もちろん目を合わせられないままアイラは何とか答えた。


 アイラは、鏡で見なくても自分が耳も首も真っ赤になっているのが分かってしまい、そのことがまた自分の首を絞めていた。


「そっか、でも、俺もアイラちゃんのこと心配だよ。一人城に置いていかなきゃいけないなんて……危ない事しないでね?変な人に着いていったら駄目だよ?」

「……私は大丈夫ですよ、ここにいるだけですから」


 真剣な顔で、ただ城にいるだけのアイラを心配してくるため、どう返事をしたらいいのか言われた本人も分からなくなってしまった。


「そう?じゃあ、危険なことは絶対にしないって約束してね」

「はい、分かりました。シオン様もご無事で帰ってきてくださいね」


 そこまで言葉を交わしたあたりで、やっとアイラはシオンの顔を見ることができた。それを見たシオンが心底嬉しそうに笑ったため、アイラはぎゅっと胸が締まる思いで息を呑んだ。


「うん、じゃあ行ってきます」


 そう言ってシオンは、軽く衣服を整えながらすっと立ち上がった。


 騎士団長まで上り詰めたシオンなのだから、剣の腕も確かなのだろう。きっと大丈夫だ、そうは分かっていてもアイラは心配する気持ちを抑えられずにいた。


 それでも、行かないでくれとはもちろん言えない。アイラは全てを押し隠しながら、微笑んで言った。


「はい、行ってらっしゃいませ」


 シオンも、アイラの気持ちに気づいていながらも、こればかりはどうすることもできない。ただ、少しでも心配は減らそうと、いつも通りの笑顔をアイラに向けて、部屋から出て行ったのだった。

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