15:気がかり(6)
しばらく考えてはみたが、シオンもどう話すのが正解か分からなくなったのだろう。まあ、最後に繋がればいいかと思い、ポツリポツリと話し出した。
「まず、そうだなあ……俺が王位を継ぐつもりがなかったのは本当」
「……そうだったんですね」
一つずつ整理するかのように話し始めるシオンに、アイラはただ頷きながら聞いていた。余計な横槍は入れないようにしようと思いながら、アイラは注意深く耳を澄ませていた。
「前も話したと思うけど、俺の母親は側室出なんだよね。ほら、俺の瞳って緑色でしょ?正当な王家の血だったらね、金眼になるはずなんだ」
自分の瞳を指差ししながら説明するシオンに、アイラはそんなことがあったのかと思った。ただ綺麗で宝石みたいな瞳だと思っていたが、そんな複雑な事情があったとは。
「分かりやすい違いだからね、まあ色々と外野から言われることが多くて。面倒だから王位は捨てるって言ったんだよ。そしたら、それなら騎士団長くらいの役職には就いてくれって国王に言われて、騎士団に入ったんだ。本当は地方にでも飛ばして欲しかったんだけどね」
そう笑いながら説明するシオンに、アイラは何と言っていいのか分からなくなってしまった。励ますのも違う気がする、一緒に悲しむのも違う、そう思うとただ小さく頷くことしかできなかった。
「それで万事解決だったんだよ。本来は。俺も騎士団だけはまとめて、あとは適当に生きて行こうと思ってたら……弟が駆け落ちしたんだ。あれはびっくりしたなあ」
「それは、たしかに驚きますよね」
そうそうと、シオンは当時を思い出すかのように話している。まさか王位を継ぐべく多様な教育だって受けてきただろう弟が、いきなりそんなことになったら誰だって驚くだろう。
「弟もね、真面目だったんだけどなあ。なんでかなと思ったけど……もしかしたら、負担だったのかもね」
どこか困ったような、申し訳ないような顔をしてシオンはそう言った。
「俺も勝手に王位を捨てるって言い出すし、たぶん俺側に付きたい人間との板挟みもあっただろうし、何より王妃からの期待も高かっただろうし。逃げ出したくなっちゃったのかもね」
シオンは全て悟ったようにそう言っている。そんなシオンを見て、アイラは何とも言えない複雑な気持ちになった。
「そう……かもしれませんが、色んな事情があるにせよ、いきなり駆け落ちなんて……」
渋い顔をしてそう言ったアイラに、シオンはまあねと納得しながらも言葉を続けた。
「俺もそう思ったんだけど、たぶん駆け落ちしか方法がなかったんだと思う。ルベルト家はこの国で一番大きな公爵家だからね。王家と繋がるなんて事になったら、国内外が荒れる可能性もある。正攻法では、たしかに許されない結婚だよ」
自分の人生を左右されたくらい巻き込まれているのに、何故だか他人事のように語り続けるシオンに、アイラは疑問しか浮かばない。
「達観してるなって思った?」
「……と言うよりかは、正直、他人事だなと思いました」
そんなシオンの問いかけに対して、アイラは正直に頷いた。ここで誤魔化しても無駄だろうと思ったからだ。
「まあ……他人事だよ。弟がどう言う選択をしようと、俺は俺ができることをするだけだから」
「そんなものですかね……?」
それでもアイラは腑に落ちないところがあるが、シオンは気にせず続けた。
「それに、アイラちゃん。君に出会えた」
「えっ」
そんなもんかなあと、ぐるぐると考えていた時に、不意に自分に話題が移ったため、アイラは驚いて声を上げた。
「はじめは確かに政治的な結婚だったかもしれない。国王としては、聖女の力も欲しかっただろうし、俺も状況的にそれに従っただけだ。でも、今は違うよ」
アイラは自分の顔がだんだんと赤くなるのを感じていたが、不可抗力であるためどうすることもできない。そんなアイラを見ながら、シオンは嬉しそうに話し続けている。
「アイラちゃんと出会えて、結婚できて、本当に良かったと思ってるんだ。始まりは歪だったのかもしれないけれど、今は本当に幸せなんだよ」
そう恥ずかしげもなく言われてしまい、アイラは顔から湯気が出そうな程真っ赤になってしまった。熱なんて出ていなかったが、シオンのせいで発熱しそうだ。
「…………ありがとうございます」
何か言葉を欲しそうにシオンがじっと見つめていたが、アイラは一言そう言うので精一杯だった。
「うん。こちらこそ、ありがとう」
しかしながらシオンは、そんな言葉だけで至極嬉しそうな顔をしたため、アイラは胸が締め付けられる思いでいっぱいだった。
「どうだろう?これでアイラちゃんの中で引っかかってた事はなくなったかな?」
「はい、ありがとうございます。忙しい中、部屋まで来ていただいてしまって……」
色々言われたためアイラも忘れていたが、言われてみればシオンはそのために説明してくれたのだったと思い出した。
「いえいえ、俺も最近ずっと遠征続きで、なかなか話せてなかったから良かったよ。誤解も解けたみたいだし」
「あ……そう言われてみれば、最近、お城にいない事が多いですよね」
そう言われて、アイラははっと気づいたのだ。侍女たちがシオンの遠征の多さについて噂していたではないか。今更話をぶり返すのもと思いながらも、アイラはそれとなく会話を続けてみた。
「そうなんだよ。ほら、アイラちゃんが事務仕事引き受けてくれるようになったでしょ?それを良いことに、部下たちがありとあらゆる接待に俺を連れて行こうとするんだよ。その方が話が早いのは分かるんだけど……さすがにねえ、多いよね」
シオンはそう遠い目をしながら言った。反対にアイラはと言うと、やっぱり勘違いだったとほっとしていた。
「そうだったんですね……何やら私も原因を作ってしまったみたいで、申し訳ないです」
「アイラちゃんが悪いわけじゃないよ。あ、そうだ、良かったら今度どこか一緒に遠征行く?ずっと仕事してるわけでもないし、行きたいところあったら一緒に行こうよ」
そんな提案までしてくれたシオンに、アイラは嬉しくなり、さっきまでの心配も全て吹き飛んでしまった。ただ笑顔でその言葉に頷き、それと同時に早く話してみれば良かったと心の中で反省したのだった。
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